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夢の中で僕を励まし続けたのは、死にゆく未来の彼女でした。【長編小説】   作者: 金森 亮
第七章 2018年。

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第21話 誕プレの対価

 2月3日、彼女の誕生日が一週間前となった。立春を翌日に控えた今日、河津桜が一足先に開花した。春は既に到来していた。


 それにも関わらず、僕は彼女をどう祝うべきか、検討するための候補すら思いついていなかった。


 打開策として、インターネットから案を見出だそうとすると、今度は贈り物の種類が無限にあって、逆に混乱を促してしまった。僕は女心という壁を前に跪いたのだった。



 女心という概念を、どうにか知りたいと思った僕は、ふと紀野と連絡先を交換していることを思い出す。紀野は僕のクラスの女子筆頭で、紀野なら、何かしらの知見を得られるのではと考えた。


 そして僕は紀野に、「彼女の誕生日が近いんだけど、女心が分からないから、プレゼントも分からないんだ。助けてくれ。」という長文を送った。


 すると五分で、紀野から返信が届き、「気持ちだけで十分とは言わないよ。カップルなんだし、お揃いの何かを買えばいいんじゃないかな?」という内容だった。


 お揃いの品といえば、コップやアクセサリーなどが思い当たるが、それらを贈ることは叶わない。長く使い続けるような品は、彼女が余命を知っているなら、長く使えないことへの無念を呼び寄せるからだ。


 僕は紀野にありがとうと返信して、都心に向かうことにした。



 電車に乗って日本橋に着いた僕は、近くの百貨店に入店する。ここなら多少値は張っても、様々な商品と一度に出会えると思ったのだ。僕は一時間半かけて各フロアを回り、ハンカチーフやキーホルダーなどを手に取ってみた。


 しかし、どうも購入する決断には至らない。高校生への贈り物にしては、少し格式ばってしまうのだ。若者向けの店を知らずして、とりあえずここへやってきた僕は、百貨店では事足りないという現実に、直面することになった。



 僕は近くの喫茶店に入り、ネットを用いて若者向けの雑貨店を探し始めた。該当する店が多く悩んだ末に、適当に選んだ一店舗に足を運んでみることにした。



 僕は日本橋を離れて、原宿に向かう。原宿は新旧が交わる土地で、竹下通りには昭和と平成の空気が漂っている。



 やがてその店に到着すると、店の奇抜な外観と、そこへ躊躇いもなく突入する女子高生によって、僕はこの場にそぐわないということを容易に理解した。


 ただここで下がっては、彼女からの祝いに相当する返しはできない。僕は深呼吸して女子高生に混ざり、店に立ち入った。


 キュートではないカワイイが、反射的に脳を突いてくる。


 全く実用的でない商品があれば、そうでないのもあり、僕はそのまま歩いていくと、ハート型のキーホルダーが目に入った。それは単に一つのハートではなく、二つのキーホルダーを繋げて、一つのハートにする代物だ。白が基調で輪郭はピンクで彩られ、表面にはそれぞれ『MALE』と『FEMALE』と彫ってある。


 このキーホルダーは、僕らがカップルであることを、真に訴えかけてくれるような気がした。僕はそのキーホルダーを一度手に取ったら、会計のときまで手を放すことをしなかった。素材が木製だったことも、購入の一因だった。



 さすがにこれだけでは、誕生日祝いとして物足りないと思い、僕の誕生日を彼女がケーキで祝ったように、彼女の誕生日もまた、ケーキで祝うことにした。


 プレゼントとの兼ね合いで少しお高めなケーキを、また彼女はそこまで甘党ではないので、甘さ控えめで軽く頂けるような店を検索した。そして僕は、それらに合致するケーキ屋を探して、無事に予約まで漕ぎ着けたのだった。



 ただ、それでもまだ物足りないと思った僕は、当日になって彼女の願いを一つ叶えるという、少し投げやりなプレゼントも用意することにした。


 僕はどんな要望にも応えられるよう、貯金している金のほとんどを財布に封じ込めることにした。



 2月10日がやってきた。13時30分、僕らはいつも通り放課後に待ち合わせをして、僕はいつも通り彼女に迎え入れられた。彼女が僕にお疲れという前に、僕は彼女こう言う。


「唯花、今日はお誕生日おめでとうございます!」

「あ、ありがとうね。なんか、すごい熱意を感じるけど......。」

「え、そうですか?」

「なにを企んでいるのかしら。」

「次期にわかりますよ。」



 僕らはまずケーキ屋に向かうべく、電車に乗って都心に出る。彼女にはケーキを用意していると事前に伝えていたので、彼女は僕と会う前に軽食を食べてくれていた。


 そして僕らが到着した先は、東京随一の繁華街である銀座だった。


 彼女はケーキ代に何度も懸念していたが、僕はプレゼントと釣り合いをとっていると言い、彼女を納得させた。



 僕らはケーキ屋に入店し、西洋風な内装がケーキの気品を、より一層高めていく。僕がした予約とは、ケーキの持ち帰りの予約ではなく、店内飲食の予約だった。



 僕は店員に予約した西野だと告げると、お待ちしておりましたと返答された。昔から夢見ていた光景であるが、客観的に見てもこれは紳士の振る舞いであり、彼女を前にして僕の自己肯定感を爆増させるのだった。


 彼女は店内飲食だと思っていなかったようで、店員に席へ案内されると、どんな態度をすべきかわからずにおどおどしていた。先輩としての威厳はどこかへ行ってしまっていたが、僕はそんな彼女を愛くるしく思った。


 着席すると、彼女は僕にこう言う。


「......よく、こんなお店知っていたわね。」

「前に一人で都心に来たとき、ネットでいろいろ調べて予約しておいたんですよ。」

「高校生二人が入店するにしては、少し格式高い気もするけどね......。」

「僕、日本人男性の平均身長越えているんで、大丈夫ですよ。」

「二人して制服着ているんだから、誰が見てもれっきとした高校生よ。」

「......でも、今日は唯花の誕生日ですよ。僕にとっても大切な一日なんで、絶対に失敗したくないですから......。」

「思考回路がちゃんと彼氏みたいでなによりよ。」

「どの立場から言っているんですか......。」


 ケーキに関しては、彼女はモンブランを注文したので、僕もモンブランを注文した。今日ぐらいは僕にお裾分けしないで、一人で一つを食べ切ってほしかったのだ。



 大体5分程度で、ケーキと飲み物が届いた。ケーキが届いて店員が去ると、彼女は僕にこう言う。


「これ......、絶対に美味しいわよ。」

「絶対に美味しいですね。」


 一口食べると、さすが一切れ千円弱といった味わいで、期待通り甘さ控えめながら、素材の味が引き立っており、一度この味を知ってしまったら、他のケーキを拒絶するほどには美味だった。


 僕の向かいでケーキを頬張る彼女は、文字通り幸せを噛み締めている様子で、美味しい美味しいと何度も連呼していた。


 僕もそんな彼女の態度と彼女の笑顔から、幸せを噛み締めていた。



 彼女がケーキを食べ終えると、僕はカバンから例のプレゼントを取り出し、彼女にはその片方を手渡す。その流れで、僕は彼女にこう言う。


「唯花、これをもらってほしいんです。」

「......歪な形のキーホルダーね。」

「それをこうするんです。」


 僕は彼女のキーホルダーに、自分のキーホルダーを繋ぎ合わせた。するとそこには、完璧な象形のハートが現れるのだった。彼女は少しして、僕にこう言う。


「......やっぱり優斗ね。私の好みをよく理解してくれているわ。」

「本当ですか......。」

「それに、これが記念すべき、恋人からもらった、初めてのプレゼントね。私、このキーホルダーを、一生肌身離さないわ。」

「......なんか、もっと高いプレゼントにしておけばよかった気がします。」

「そんなことないわよ。高校生の彼氏が彼女に贈るプレゼントの、最適解だと思うわ。だって食器とかと違って、これならいつでも持ち運べるもの。本当に、大切にするわね......。」


 彼女が僕に気を遣っていないとは断言できないものの、彼女に贈ったプレゼントは、状況と用途が非常に適したものであり、僕は安堵するのだった。続けて、彼女は僕にこう言う。


「せっかくなんだし、これから何度も会って、何度もハートを作りましょ。」

「なんなら、結合部が磨耗するまで重ね合わせましょう。」

「一体何回やるつもりよ。」


 彼女はそう突っ込みを入れると、キーホルダーを手提げカバンにくくりつけた。彼女の行動をみて、僕は彼女にこう問うことにした。


「唯花って、彼氏アピールするような人柄でしたっけ......?」

「制服のポケットに入れて落としたくないだけよ。カバンの中に入れても、失くさない保証はないもの......。」

「......なんか、すみませんでした。」


 一呼吸置いて、僕は彼女にこう問う。


「プレゼントって言うのは違う気がしますけど、今日は唯花の要望に、なんでも一つ応えようと思うんですけど......、なにか要望ないですか?」

「ケーキとキーホルダーで、お腹も心も満たされたからいいのに。」

「これだけで終わるのは、僕のプライドが許さないんです......。」


 彼女は上を向いてしばらく考えた後、僕に結論を告げる。


「......臨海公園。私、葛西臨海公園に行きたいわ。」

「10月に行ったばかりですけど......、それでもいいんですか?」

「行きたい場所があるのよ。」

「......じゃあ、いますぐ行きましょう!」


 僕がそう言うと、彼女は僕の頭をコツンと叩いてきた。僕はこれからの今日一日に胸が躍ってしまい、少し羽目を外しかけていた。そんな僕を現実に引き戻して、彼女はこう言う。


「優斗、そんなに張り切りすぎないの。冬だけど、まだ日は暮れないわよ。」


「......すみません、落ち着きます。」

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