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夢の中で僕を励まし続けたのは、死にゆく未来の彼女でした。   作者: 金森 亮
第五章 折り返し。

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第14話 文化祭の四季

 9月5日、正午、例のごとく、僕は図書室にいた。調べる事柄は無くなったものの、ここでは非常に穏やかな時間を過ごすことができ、結局はいつも、ここで暇を潰すのだった。



 正午を少し回った頃、聞いたことのある足音が近づいてきた。そして無言で、僕の隣席に座るのだった。


 僕は申し訳なさそうにして、隣人を横目で覗いてみると、長い黒髪に男を一発で仕留める美貌があった。その隣人に対して、僕はこう言う。


「......ここで紀野さんと会うのも、ざっと四ヵ月ぶりなんだな。」

「夏休みを挟んだし、そもそも優斗君は、彼女さんのお供で忙しかったみたいだし。」

「自分で忙しいなんて言うのも気が引けるけど、実際問題、僕はずっと忙しかったよ。彼女の幸せのために、毎日奮闘していたからな。」

「......なんか、青春の上級会員だね。じゃあ今日も、私に構っている時間は無さそうだね。」

「いや、そうでもないよ。紀野さんは僕にとって希少な、気の置けない友人だし、なにせ僕はいま、絶賛暇しているからな。」

「......気の置けない友人なのに、優斗君は未だに私をさん付けで呼ぶんだね。まぁ、その方が慣れ親しんだ雰囲気がして、別にいいんだけど。」

「ゆうて、まだ五ヵ月の付き合いだろ。」

「......間違ってはいないね。」

「どういうことだ?」

「いや、なんでもないよ。」


 彼女はそう話したのち、ようやく本題を語り出す。


「私がここに来た理由は、今度の文化祭に関して、提案したいことがあったからだよ!」

「僕の恋模様についてじゃないんだな。」

「今度まとめてお尋ねするよ!」

「......はいはい。でもたしかに、もう再来週なんだな、文化祭。」

「そうだよ。私はその文化祭に、彼女さんを呼んでみたらどうかなって思ったの!」

「......それだけか?」

「え、それだけだよ?」


 紀野は変人界で期待の変人だ。チャットでどうにかなるものを、わざわざここまで足を運んでくる行動力に、僕は少しばかり引いてしまった。そしてこう告げておいた。


「どうやら僕の周りには、変人がいっぱいいるみたいだな⋯⋯。」

「変人でもいいけど......、私、優斗君の彼女さんと、少しお話してみたいの!」

「突然どうしてそう思った?」

「ただ単に、変質者である優斗君をどうして好きになったのか、とても興味があるの!」

「......変質者になるぐらいなら、せめて変人にしてくれ。彼女からは、変人ながらも実直で、彼女を愛して孤独を埋めるところが好きだと言われたよ。」

「孤独を埋める......、って、彼女さんは孤独を抱えていたの?」

「どうやらそうみたいだよ。実は僕も一時期、孤独な時期があったから、彼女は孤独同士が引き寄せあった結果、夢で巡り合ったんじゃないかって言っていたな。」

「......そうなんだね。同じ境遇の人間同士なら、互いを思いやる気持ちも一入だね。」

「そうだな。」


 紀野は向上心の塊で、恐らくは小説に具体性を加味させるべく、このような行動に出るのだと、僕は勝手にそう考察した。



 いろいろと引っ掛かる要素が多いので、僕は紀野に少々野暮な質問をすることにした。


「紀野さんは、僕のことが好きなのか?」

「......なんか、優斗君の爆弾発言に耐性がついちゃったみたい。どうしてそう思うの?」

「い、いや、僕以外にも関わるアテはあるだろ。恋愛だって、僕だけがしているんじゃないし、第一、僕の恋愛は特殊すぎるから......。」

「私が......、好きならどうするの?」

「僕に対してなら、次の恋を全力で後押しするよ。」

「......リア充筆頭さんの強気な回答をどうも。」

「変な異名をつけるな。」

「......前にも言ったけどね、いまの私は、誰とも恋するつもりはないの。私は優斗君の私生活に興味があるだけだから、変に気を使わないでね。」

「僕にもコアなファンが誕生しちゃったもんだな。」

「......文化祭、楽しみにしているよ。彼女さんにもよろしくね!」

「分かったよ。」


 用が済んだ紀野は、そのまま席を後にした。やっぱり紀野は変人だった。


 人の彼女と会話したいとか、人生を三周してもそんな願望は生まれない。類は友を呼ぶとは言ったものの、これにまったく矛盾が生じていないことに、僕は驚嘆するのだった。



 そしてその日の放課後、彼女と一緒に帰宅する際に、僕は彼女を文化祭に招待して、彼女は二日に分かれている文化祭の、初日11時からの参加、および正門での集合を約束した。


 僕は当初、若干の羞恥心を感じていたが、既に学年で僕と彼女の関係が、暗黙の了解と化していることを思い出し、すぐに消え失せるのだった。




 9月23日、文化祭一日目を迎えた。僕は昨日も夕方18時まで、あくせくと準備に勤しんでいた。朝を迎えると、産まれて初めての文化祭に、高揚は増幅していった。



 9時になって文化祭が始まり、早速僕は一人で、催し物を回ることにした。


 各クラスが知恵を出し合って造り上げた青春の結晶で、中には企業からの協賛を受けたクラスもあり、序盤から大盛り上がりの様相であった。


 また声の一つ一つに耳を澄ましてみると、青春たる色恋を望む音や、体験する催し物を決めかねている二人組の対話が、明瞭に聞こえてくる。


 僕はいま、青春の真っ盛りを生きているのだと実感した。写真や動画には焼き付かない空気がそこにはあった。



 そして催し物を巡ってクラスのシフトもこなしていくと、短針は既に11時を指していた。僕は正門に向かいながら、彼女に連絡をしようと試みた。しかしその必要は皆無だった。


 僕が正門に到着すると同時に、こちらへ走ってくる彼女の容体が見えた。僕が眼中に入ると、彼女は速度を緩めて、少し乱れた前髪を整えるのだった。


「......遅くなったわね。」

「ほぼ、約束の時間ぴったりですけどね。」


 僕はスマホを立ち上げて、いまの時間を確認しようとする。するとスマホ画面上には、今日の日付が掲示されており、正しく9月23日とあった。この表示を見て、僕は悪気なくこう呟く。


「......今日、9月23日ってことは、明日、僕の誕生日か......。」

「優斗......、まさか、本当に明日が誕生日なの?」

「そうですね。完全に失念していましたよ......。」


 僕が明日、自身の誕生日であることを断言すると、彼女の顔面から、笑顔の二文字は消え去った。


 絶望というか驚嘆というか、言葉では言い表せないショックが、鮮明に表れていた。そのままの調子で、彼女は僕にこう問う。


「......どうして教えてくれなかったのよ。」

「いや......、僕自身が誕生日の存在を失念していたのと、いつか、唯花に教えていた記憶があったもので......。」

「ないわよ......。それもまた、夢の中での話じゃないの?」

「全然、そんなこと......。」


 うつむいた彼女は、僕にこう言う。


「......今日は帰る。」

「せ、せっかくここまで来たんですから......。」

「明日も文化祭はあるんでしょ? もう一度出直してくるわ......。」

「えぇ、で、でも......。」


 彼女は後ろを振り向いて、早歩きでその場を発った。


 僕は彼女の突発的な行動に、困惑してその場を移動できずにいた。


 彼女は僕の誕生日を知らなかったことに、憤慨している様子だったが、最後には、明日の文化祭にもやってくると言い放った。きっと、彼女の怒りの矛先は、彼女自身だったのだろう。



 彼女は僕に誕生日を尋ねることをしなかった。そのため、明日が僕の誕生日なのに、なんの準備もできていないのだ。この惨状に対して、彼女は責任を感じているに違いない。



 なにはともあれ、僕は独りになってしまったので、明日のためにも催し物を制覇しておこうと考えた。ある種の償いにもなるだろうと思い、しらみつぶしに各教室を巡った。



 こう学校中を駆け巡っていると、多くの人とすれ違うもので、僕がとある催し物の列に並んでいると、目の前を紀野が通り過ぎていった。女子三人引き連れていて、いずれも芍薬のような存在感があった。


 女子高生としての大義を全うしている紀野の姿には、目新しさを感じた。



 結果的に、すべてはまわれなかったものの、完成度の高い催し物に、目星をつけることができたのだった。


 また彼女からは、明日も11時にやってくると連絡があり、また、放課後の用事の有無についても問われた。


 学校絡みも、家族団欒の予定もないと告げると、彼女からは「了解」という返答がくるのだった。



 一日目が終了してクラスの面々が集うと、僕の元に不貞腐れている様子の紀野がやってきた。紀野は僕にこう言う。


「......何度もスマホに連絡したんだけどなぁ。」

「......本当だ。で、でも紀野さんだって、女子と戯れているところを見かけたけど......。」

「優斗君から連絡がこないから、痺れを切らしたの!」

「......気づかなくてすまん。ただ今日は、彼女、来てすぐに帰っちゃったんだよ......。」

「......喧嘩したの?」

「僕、明日誕生日でさ......、彼女はそれを知らなかったんだよね......。それで理由もなしに帰って行っちゃった。」

「......それは優斗君も悪いね。でもその言い方なら、明日も彼女さん、学校に来るの?」

「そうみたいだよ......。わけが分からないよ。」

「......分からなくてもいいんじゃないかな。ひとえに女心って言うけど、十人十色だからね。」

「女子筆頭の紀野さんが言うと、医者に病気が治るって言われるのと同等の安心感があるよ。」

「そんな私、女子筆頭なんかじゃないんだけどな......。」

「明日、彼女が来たら、紀野さんに連絡するよ。」

「あぁ、明日が待ち遠しいなぁ......。」


 文化祭初日は、想定外の展開に終わった。明日がどうなるかなんて、妄想に縋っても回答が得られることはなかった。

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