エピローグ:巨大な鳥籠と、反逆の産声
ガコンッ、と。
数日間に及んだ揺れが止まり、ついに馬車が完全に停止した。
「降りろ、辺境のネズミ共」
重い鉄格子の扉が開かれ、数日ぶりの太陽の光が網膜を焼いた。
俺はアイシャの手をしっかりと握ったまま、兵士に乱暴に引きずり降ろされる。
「……嘘だろ」
目が慣れた俺の視界に飛び込んできたのは、絶望的な光景だった。
雲を突くほどに高く、分厚い純白の城壁。空を覆い隠すような巨大な尖塔群。
この世界の理不尽な「力」の象徴たる、絶対的な権力の中枢。
これが、王都。
「歓迎しよう。今日から貴様らは、偉大なる王の『所有物』だ」
馬車の前に立っていた特務騎士が、虫ケラを見下ろすような目で俺たちに言った。
「貴様らのような特異な力を持つ者は、逃げ出さぬよう、王都の地下牢で『絶対服従の契約』を交わしてもらう。……明日には、二度と我々に逆らえなくなる『隷属の刻印』を、その身に焼き付けてやる」
隷属の刻印。
その言葉を聞いて、アイシャが俺の背中に隠れるように震えた。
拒絶反応で苦しむ彼女の心臓の音は、今も不規則で、ひどく弱々しい。
(ふざけるな……。俺たちが、お前らの道具になるもんか)
俺はアイシャの小さな手を、さらに強く握りしめた。
絶対服従の刻印なんか、絶対に刻まれてたまるか。
明日、地下牢に連行される前。あるいはその隙間。どんな泥水啜るような手を使ってでも、俺は必ずこの巨大な鳥籠から、アイシャを連れて逃げ出してみせる。
そして、過酷な逃亡の果てに、アイシャのその『拒絶反応』を治す方法を絶対に見つけ出す。
どんなヤバい魔獣が相手だろうと、この世界の理が相手だろうと、俺のすべてを懸けてぶっ潰してやる。
「行くぞ」
兵士の槍の柄で背中を突かれ、俺たちは暗い地下牢へと続く階段を歩き始めた。
三十四歳の記憶と、黄金の瞳を持つ開拓村の少年。
封じられた最強の剣と、壊れかけの心臓を持つ別次元の少女。
誰にも期待されず、どこにも居場所がなかった俺たち二人の、世界に対する壮絶な反逆の物語は、ここから始まるのだ。
『OUTSIDER 〜次元の姫と、どこにも居場所がなかった俺〜』第1巻・完




