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白銀の覚醒と、託された炎


「ルグには……もう、指一本触れさせない」


炎の吹き荒れる小屋跡に、アイシャの静かで、だが絶対的な意志を込めた声が響いた。

彼女の小さな体から、先ほどまでとは比較にならないほど膨大な『白銀のマナ』が立ち昇る。それは周囲の熱気を一瞬で凍てつかせるほどに冷たく、そして鋭かった。


「ほう? 病の欠陥品が、いっぱしに吠えるか」

特務騎士が嘲笑し、背後の部下たちに顎でしゃくった。

「やれ。生け捕りにしろ。足の二、三本は折っても構わん」


数人の重装兵が、槍を構えてアイシャへと突進してくる。

俺は思わず叫んだ。

「アイシャ、逃げろ! そいつらは――」


だが、俺の言葉は途中で止まった。

アイシャが、床に転がっていた『燃えかけの木の枝』を拾い上げたからだ。

次の瞬間、彼女の手から溢れ出した白銀のマナが木の枝を包み込み、眩い光を放つ『氷の魔法剣』へと変貌させたのだ。


「――スゥッ……」


アイシャが短く、冷たい息を吸い込む。

その瞬間、彼女の姿がフッと掻き消えた。

いや、違う。俺の『黄金の瞳』ですら、残像を追うのがやっとというほどの、無音で神速の踏み込み。


「なっ……!?」


技名も、気合いの声も、風を切る音すらもなかった。

ただ、アイシャが重装兵たちの背後に音もなく滑り込んだ瞬間――パキンッ! と、大気が凍てつくような甲高い音が響き渡った。


「ガァァァッ!!」


遅れて、重装兵たちの分厚い鉄の鎧がまるで薄紙のように両断され、三人の巨体が血しぶきと共に宙を舞い、地面に叩きつけられた。


「馬鹿な……詠唱もなしに、ただの木の枝で重装甲を斬り裂いただと!?」

特務騎士の顔から余裕が完全に消え去った。


これが、別の次元で最強と謳われた『剣聖』の血脈。

そして、この世界のマナのルールから完全に外れた、美しくも恐ろしい異端の力。


「次は、お前だ」

アイシャは血振るいをし、真っ直ぐに特務騎士を見据えた。

その時だった。


「ひっひっひ。見事じゃ、娘。……だが、少し遅かったのう」


特務騎士の背後、森の奥から、さらなる地響きが近づいてきたのだ。

現れたのは、巨大な装甲馬車と、それに乗った数十人の追加部隊。そして、馬車の上には、特務騎士よりもさらに禍々しいマナを放つ『宮廷魔導師』の姿があった。


「チッ……増援か。やはり、わしが時間を稼ぐしかなさそうじゃな」


ギランが忌々しそうに舌打ちをし、杖を構えて俺たちの前に立った。


「じいさん! 何をする気だ!」

「ルグ、アイシャ。よく聞け。お前たち二人は、この世界の希望じゃ。……ルグの『神の目』と、アイシャの『剣』。その二つが揃えば、必ずあの王都の狂った計画を止めることができる」


ギランは懐から、赤黒く脈打つ不気味な魔石を取り出し、杖の先に叩きつけた。

瞬間、ギランの細い体から、先ほどのアイシャをも凌ぐような凄まじいマナの濁流が吹き荒れる。自らの命の炎を燃やして発動させる、禁忌の魔法だ。


「おい、よせ! じいさん!!」

「ルグ。お前はもう逃げないと言ったな。ならば、今は『前に進むために』走れ!!」


ギランは濁った義眼で、最後に俺を真っ直ぐに見つめた。


「お前たちの未来に、祝福を」


「老いぼれが、粋がるなッ!!」

宮廷魔導師が巨大な魔法陣を展開し、特務騎士たちも一斉に魔法の刃を放つ。


「行けぇぇぇぇッ!! ルグ!!」


ギランの杖から放たれた極大の防壁魔法が、王都軍の攻撃と激突し、森の木々を吹き飛ばすほどの大爆発を引き起こした。


「じいさんッ!!」

「ルグ、ダメ! 今戻ったら、おじいさんの命が……っ!」


俺は炎の中に飛び込もうとしたが、アイシャが泣きながら俺の腕を強く引っ張った。

彼女の言う通りだ。ここで振り返れば、じいさんの覚悟がすべて無駄になる。


「……ッ、くそおおおおおっ!!」


俺は血の涙を流しながら、アイシャと共に燃え盛る森を駆け抜けた。

背後で、もう一度大きな爆発音が響き……そして、異端の薬師ギランの気配が、この世界から完全に消滅した。

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