気付き
試合開始までの間、僕はウルグと学園のことを話し、当時の「答え合わせ」をすることができた。
記憶通りなら、最初に僕が殴られたのはウルグのグループからだった。
その理由は、予想通りといえば予想通りだが――彼なりに学園の治安維持を徹底した結果だったらしい。
入学当初、ガイヤやウルグといったリーダー気質の生徒のもとには、素行の悪い者たちが集まり派閥を作っていた。
五月半ばに最初の喧嘩が起きて以来、彼らは一般生徒へのカツアゲや強引な勧誘を始め、互いの勢力を拡大しようと動き出した。教員も介入したが、生徒の方が実力が上のケースも多く、抑止力としては期待できなかったという。
困り果てたウルグは、ある情報を耳にした。「まだ魔術を使えない雑魚がいる」と。
そこで彼は思いついたのだ。学年全員が「あいつは下等な存在だ」と見なす標的を作れば、他人に対する無意味な闘争心が削がれ、秩序が保てるのではないか、と。
数日間観察し、友人がおらず、本当に魔術が使えないことを確認したウルグは、僕を生贄に選んだ。僕なら、どれほど虐めても誰からも反感を買わないだろうと考えたのだ。
目論見は当たった。
一緒に僕を虐めることで、歪み合っていた派閥同士の人間が奇妙な連帯感を持ち始めたのだ。
六月に入る頃には、彼らが僕以外の一般生徒に絡むことはほぼなくなり、大多数の生徒に平和が訪れた。そして、標的(僕)を見つけてきたウルグは、荒くれ者たちの中心人物として学園の秩序を管理できるようになった。
それが、ウルグの見ていた学園の景色だった。
屈強な肉体と実力を持っていたばかりに、勝手に裏のボスの座に押し上げられた彼にも、彼なりの苦労があったのだろう。
「……ありがとう」
語り終えたウルグは、再び僕に向き直って深く頭を下げた。
本当は強かったはずの僕が、あえて虐めの標的になることで、学園の秩序維持に貢献してくれたことへの感謝だという。
違う。ウルグは決定的な勘違いをしている。
僕は学園にいた頃、これっぽっちも強くなんてなかった。
どうしようもない雑魚で、弱者で……たまたまレオ師匠と出会って、『黒魔術』というズルを手に入れたから強くなれただけなんだ。
ウルグの告白を聞いて、気づいてしまった。
僕は他人の力で調子に乗っていただけで、本当の僕自身は、あの頃と何も変わっていない。
(全部、言ってしまいたい……)
その純粋な感謝を、純粋な瞳を僕に向けないでほしい。
自らの力で、最悪なやり方ではあったけれど他人を救おうとしたウルグ。
紛い物の力で、自分が強くなったと錯覚して悦に浸っていた僕。
そこには天と地ほどの差がある。何が対等な立場だ。
さっきまでの自分を殴ってやりたい。
罪悪感から逃げるために口を開きかけたが、直前で思いとどまった。
今ここで真実を伝えることは、僕にとってもウルグにとっても、何一つ良い結果を産まないから。
「……気に、しないでよ」
返答に詰まった僕に、ウルグは少し困惑したような表情を見せた。けれどすぐにそれを振り払うと、僕の背中を力強く叩いた。
「頑張れよ。お前なら勝てるさ」
「……頑張るよ」
そんな明るい言葉を。
対等な人間に向けるべき激励を。
ズルをしただけの僕に、投げないでほしかった。
それは僕にとって最大限の呪いだから。




