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ウルグ戦

師匠のノートによれば、『岩属性』は他と比べても特殊らしい。


自身の身体を岩石化させて硬度を高める魔術。硬くなれば当然ダメージは通りにくくなり、物理的な破壊力も増す。


風魔術の『ウィンドアーマー』のように周囲を覆う技は他属性にもあるが、身体そのものを直接変質させる術は、岩属性の特権らしい。


対策は、岩石化の燃費の悪さを突くこと。魔力消費が激しく、練度が低ければ鈍足化も招くため「逃げ回るのが吉」とある。


だが、裏を返せば、明確な対策がある他の術と違い、圧倒的な力量差がなければ何もさせてもらえない可能性すらあるということだ。岩石化――あまりにも大きな脅威だった。


『――これより、入賞者たちによる準決勝が始まります! 屈強な守りにより一切の隙を見せなかったウルグ選手! 魔術なしという縛りプレイをかまし、剣術のみで勝ち進んできたトア選手! 繊細な魔力操作で相手を翻弄するウィル選手! そして――ファイアボール一発ですべての敵を薙ぎ払ってきた究極のジョーカー、ハンス選手!!』


三位以上は予選突破扱いとなるため、実質、今呼ばれた四人は本選進出が決まったことになる。


けれど、僕はここで勝って、実力を証明しなければならない。


二級以上は使うなと言われた時は一度諦めかけた。けれど、この大会の予選を一位で通過し、本選で表彰台に上がれば、グレッド魔術団にエリートコースで入団する道が開ける。


いっぱい稼いで、村の人に、お母さんに、最高の恩返しができるんだ。


本選を有利に進めるためにも、狙うは予選一位。

「出られればいい」なんて、甘えたことは絶対に言いたくない。


『ウルグ選手とハンス選手の試合は五分後に開始します。両選手は控え室まで速やかに移動してください』


いつの間にか前の試合が終わっていたらしい。風魔術のウィルが勝ち上がったようだが、ウルグ戦を意識しすぎて見逃した自分を責めたくなった。


いや、こちらも情報を与えなければいいだけだ。できるだけ手札を見せずにウルグを倒す。

僕は決意を固め、試合場へと足を踏み出した。


アリーナの中央、先に到着していたウルグが僕を射抜くような視線で見つめてくる。


一瞬目が合ったが、そのあまりの圧力に僕はすぐに目を逸らした。


僕が開始位置につくと、審判が力強く旗を掲げた。


「試合開始!」


いつもの『ファイアボール』を放ち、即座に姿勢を低くして視線を切る。


これまでの相手ならこれで終わりだった。


だが、炎の向こう側――ウルグの足元から急激に岩がせり出し、防壁となって僕の魔術を遮断した。


僕だけが一方的に視認できる有利な状況が崩れ、岩を隔てた膠着状態に入る。


技を見せたくないので、距離を取ってから『ファイアボール』を即発ではなく、最大出力まで練り上げていく。


岩の影にはウルグの姿が見えない。裏側に張り付いているのか。


このまま、チャージした一撃を放てば勝てる――!


勝利を確信したその瞬間。


足元の床が弾け飛び、地中から現れたウルグの拳が僕の顎を突き上げた。


「あ、……あ……?」


状況が理解できない。


口からボタボタと血を垂らしながら視線を落とすと、床に大きな穴が空いていた。


まさか、地中を掘り進んで奇襲してきたのか……!?


ウルグが追撃の拳を僕の腹に叩き込もうとする。


咄嗟に、至近距離で三級魔術『炎柱』を展開した。


(痛い……っ、死ぬかと思った……!)


激痛に意識が飛びそうになるが、これで勝負は決まっただろうと少しだけ安堵した。


だが――。


爆炎の中から、無傷のウルグが飛び出してきたのを見て、安堵は一瞬にして絶叫に近い恐怖へと変わった。


『岩石化』

あまりにも無法な防御力に動転した僕は、気づけば温存するはずだった手札を次々と晒していた。


『フラッシュ』、『ファイアカーテン』、『高温

化』、『フレイムカッター』。

死に物狂いで隠し持っていた三級魔術を出し切った。

それでも、岩の巨躯は止まらない。


迫りくる鉄拳を前に、負けを覚悟したその時――。


「……まいった」


予想だにしない言葉が、ウルグの口から漏れた。

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