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不仲

「失礼します。下級魔術師ハンス、ただいま到着いたしました」


第3会議室に到着した僕は、お辞儀をしながら部屋に入り、低い視界のまま周囲を見渡した。


見知らぬ大人が4人ほど座っているが、その中に一つ、見覚えのある影が視界に入る。

まだ学園にいた頃、僕らの様子を視察しにきたマルファ伍長が奥の席に座っていた。


「頭を下げずとも良い。貴殿の軍での立場は、既に軍曹と同程度の地位にある。私共と同じなのだから、気負う必要はない」


中央にデカデカと座る男の一声で、僕は頭を上げてウルグの隣の席に座る。


「しかし、全く信じられませぬな。このような子供が3人も軍曹と同じ階級とは」


「全くですな。私が16の頃と言ったら、如何にして授業をサボるかくらいしか考えておりませんでしたよ」


軽く談笑を始める下士官たちだったが、机を叩く鋭い音で、すぐに静まり返った。


「役者も揃ったことだ。本題に移っていただきたいな、軍曹殿」


ヴィクトールが、半ば睨みつけるように下士官たちを急かす。その敵対的な態度を宥めるように、横に座っていた女性が彼を席に座らせた。


「おっと失礼、不快にさせたなら謝罪させていただこう」


軍曹はそう言うと、下士官たちと共に一斉に立ち上がり、壁に地図を貼りながらペンを取り出した。


「オークの領土とロータイトの国境付近に、人為的な洞窟ができているのを我が軍の一等兵が確認した」


軍曹は地図上の位置をペンでマークしながら話を続ける。


「偵察のため10名の部隊を派遣したが、1名が負傷して帰還した。言葉を話せるオークが5匹おり、交戦した結果負傷者が出たとのことだ。」


「5匹とも仕留めはしたらしいが、洞窟の奥にはさらなるオークが潜んでいると判断して撤退した。私共も無駄な死者を出す気はないので、貴殿らに依頼したという形だ」


一通りの説明を終えたところで、ヴィクトールが手を挙げた。


「質問をさせてもらう。なぜ、僕たちにこの依頼を投げたんだ?」


軍曹は、少しだけ生えた顎髭を撫でながら答えた。

「若人に経験を積ませるため、といったところだ。危険度はそこまで高くないものと私は踏んでいる。無論、危険だと判断したら即座に撤退して構わん」


その言葉を聞いて、ヴィクトールは納得したように視線を外した。


「良き報告を期待している。では、私共はこれで失礼する」


去り際、マルファ伍長が僕の前で足を止めた。


「君がこんな場にいるとは思わなかった。あの時いじめられていた少年が大出世、といった感じか。全く、世界とは不思議なものだな」


嫌味なのか何なのか、それだけ言い残してマルファ伍長は去っていった。


少しムッとしながらも、部屋に戻ろうと出口に足を向けたその時、ヴィクトールに呼び止められる。


「まだ話は終わっていない。席に着いてくれ」


その言葉に軽く驚きながら振り返ると、いつからそこにいたのか、若い女性がヴィクトールの後ろでモジモジしていた。


「セクナさんも、いつまでも僕の後ろに隠れていないでくれ」


「だ、だって、知らない人が2人もいるから……」


思い出した。さっきヴィクトールが軍曹にトゲを向けた際、彼を宥めていた人だ。思い返せば、さっきからずっと彼女の姿は視界に入っていた。


「で、これから何を話し合うんだ?」


ウルグが再び椅子に腰を下ろし、ヴィクトールを見る。


「僕らの能力の擦り合わせだ。チーム内の実力は知っておくべきだろう」


そう言うと、ヴィクトールは後ろの女性に目配せをした。促されるように、彼女も椅子に座る。


「まずは僕から。全員知っていると思うが、僕は水魔術師で、ある程度器用な立ち回りができると自覚している。」


「それで、こっちの人は中級魔術師の称号を持つセクナ・リィルさんだ。中級とは言ったものの治癒専門で、戦闘はそこまで得意ではないことを頭に入れておいてくれ」


ヴィクトールが自分と隣のセクナさんの紹介を終わらせる。セクナさんはペコリと頭を下げた後、どこか落ち着かない様子で視線を泳がせていた。


「俺はウルグ。岩石化で攻防無敵になれる」


ウルグがあっさりと自己紹介を終わらせると、今度は僕に視線が集まった。


「僕はハンスで……炎魔術なら、だいたいは使えます……」


人前に出た経験なんてほとんどないため、多少噛んでしまったが、なんとか紹介を終わらせた。


「まあ、簡素ではあるが自己紹介はこれで終わりだ。早速向かうとしようか」


そう言うなり、ヴィクトールはこの場を去ろうとする。


「待てよ、そんなに急ぐ必要ないだろ?


ウルグが引き止めるが、ヴィクトールは振り返ることなく言葉を返した。


「こんな評価にもならない任務なんかすぐに片付けて、次の任務が回ってくるのを待つべきだ。君には向上心というものが無いのかい?」


嫌味ったらしく吐き捨てると、ヴィクトールは足早に去っていった。セクナさんも、ヴィクトールの姿が消えたのを見ると、慌てて部屋から出ていった。


「なんだよ、あいつら」


ウルグがため息を吐きながら、僕と目を合わせる。

僕も荷物をまとめ、ウルグと共に静まり返った会議室を後にした。

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