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兵舎

「そんな疲れ切った顔してどうした? さては魔術団の訓練に来るのが少し憂鬱になったんだろ? ――安心しろ、実は俺もだ」


二日間の休暇を終え、僕が重い足取りで兵舎に帰ってきた時、ウルグから開口一番そんな励ましに似た言葉が飛んできた。


僕は適当にウルグの言葉に同意の相槌を打ち、逃げるように自室へと戻った。


正直に言うと、僕はもう、あの村には帰りたくない。


村に到着するなり、人々から根掘り葉掘り色々なことを聞かれ、僕がそれに答えるたびに割れんばかりの歓声が上がった。


だけど、僕はこれっぽっちも嬉しくなかった。称賛を浴びれば浴びるほど、まるで「自分ではない、誰か他人の実績」を褒めちぎられているかのような奇妙な錯覚に陥り、胸が締め付けられた。


結局、僕は居心地の悪さに耐えかねて一晩だけ村に泊まり、稼いだ報奨金をこっそり母の部屋の机に置くと、逃げ出すようにしてロートへと戻ってきてしまったのだ。


だが、皮肉なことに、この殺風景な兵舎に戻ってきた瞬間、僕の心は幾分か救われた気がした。


身体が千切れるかと思うほど過酷な訓練の記憶が、経験が、僕という存在を無条件で許容してくれているようで安心したのだ。


ベッドに横たわり、ようやく深く息を吐き出した時、コンコンと扉がノックされた。


少し面倒くささを感じながらも起き上がって扉を開けると、そこにはヴィクトールが立っていた。


「任務だ。僕と君、それからあのチンピラと、治癒術師の先輩の四人で行くらしい。行き先は近郊の洞窟調査。準備が出来次第、男女共有フロアの第三会議室に来てくれ」


事務的にそれだけを告げると、ヴィクトールは翻ってウルグの部屋の方へと歩いて行った。


相変わらず働き者な彼の後ろ姿を見送りながら、僕も「よし」と気を引き締める。


そうだ、彼らは僕の力を信じて頼っているからこそ、こうして任務の部隊に抜擢してくれたんだ。これは他人のものじゃない、僕自身が積み上げてきた信頼と力なんだ。


自分に呪文をかけるように、強く、強くその言葉を脳内で反芻させた。


「あいつから聞いたろ?早く行こーぜ」


その直後、部屋の扉をノックすらせず、ウルグがズカズカと部屋に押し入ってきた。


「ちょっと! 今から着替えるんだから、向こうに行っててよ!」


「男同士で何恥ずかしがってんだよ、お前」


ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、標的を見つけた捕食者のような目で、ウルグが僕の服の襟元を掴んでくる。


「なんなら俺が脱がせてやろうか?そんなカスみたいな羞恥心とはおさらばさせてやるよ」


「ちょっ!? 何するのさ、やめろって!」


僕はウルグを突き飛ばして距離を取ろうとしたが、即座に間合いを詰められ、気づけば取っ組み合いになっていた。


「ねえ、離してウルグ!」


「お前が変な意地貼んなきゃ離してやるよ」


しばらく無駄に体力を使いながら掴み合っていたが、ふと、ウルグが堪えきれずに吹き出すように笑い始めた。それにつられて、僕の口元からも自然と笑みが溢れ出す。


「いい顔するようになったな、悩み事は消えたか?」


ウルグがいつもの凶悪な笑みを引っ込めて、優しく微笑んで僕に問いかけてきた。


「え……? なんで、そんなこと」


僕はウルグから出てきた全く予想外の言葉に驚愕した。


「何で悩んでるのかは知らん。だが、たまにはこうやって馬鹿やって発散しろよ。お前、帰ってきた時死人みたいな顔してたからな」


じゃあな、と手をヒラヒラと振って、ウルグは嵐のように部屋から出て行った。


一人残された部屋で、僕は自分の手のひらを見つめる。


――なんだか、偽物だとか本物だとか、悩んでいたすべてが急に馬鹿らしくなってきた。


僕の身体の中にこの力があり、僕がそれを使って戦っているんだ。僕が持っているんだから、これは間違いなく僕の力に決まっているじゃないか。


そう思えた瞬間、ずっと胸の奥をキリキリと締め上げていたものが、徐々に解き放たれていくのを感じた。


すっかり軽くなった気がする身体で、僕は迅速に身支度を整えると、約束の会議室へと勢いよく走り出した。

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