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尋問

ティアラがこの大会で仕掛けた「悪事」。


それは、本来シード枠だったヴィクトールを、初戦で無理やりハンスと激突させたことだ。


目的は、ヴィクトールがハンスに殺されることで、その兄・アルフォンスを確実に動かすことにある。


ウィレナに放たれたあの炎柱の火力なら、ヴィクトールはまず助からない。そして弟を溺愛するアルフォンスなら、逆上してハンスを殺害する可能性が高い。


そうなれば、自分は安全圏からレオの動向を観察でき、同時にウィレナへの抑制にもなる。


ウィレナに対しては魔人の脅威を説いたが、ティアラの本音では、レオさえいればどうとでもなる小事。


仮にアルフォンスとレオが共倒れになったとしても、魔人は人類共通の敵として多国籍軍を組織すればいい――ティアラはすでに、そのための書類作成まで済ませていたのだ。


背中に冷や汗が流れる。


ティアラは一級の治癒術師だ。生かしながら痛めつける拷問すら可能であることを考えれば、ここで黙秘を貫くのは悪手でしかない。レオを納得させる「答え」が必要だ。


だが、この男がどこまで情報を掴み、何を考えているのかが全く読めない。ティアラの恐怖と焦燥は増すばかりだった。


カチャリ、と金属音が響く。


レオが取り出したのは、ティアラがかつて何度か目にした事がある器具だった。


「っ……」


思わず息を呑む。鏡を見ずとも、自分の顔が引き攣っているのが分かった。


「あの、何かレオさんを不快にさせるようなことをしていたら謝ります。だから、許して……」


爪に、血がこびりついたペンチを突きつけられた衝撃からか、無知を装ったままのセリフが口をついて出た。


(……しまっ……!)


一秒前の自分の口を塞ぎたくなった。レオの行動は、書類の存在かトーナメント改竄、そのどちらかを確信しているからこそのものだ。


ティアラの推測では、詰められている理由は後者――トーナメントの件だろう。


書類の中で最も致命的なのは「レオが戦闘不能、もしくは死亡した場合」という記述だ。これを知られていれば、闇討ちの計画すら疑われかねない。


だが、これ単体では違和感のない想定とも取れる。ならば、状況証拠が明白なトーナメント改竄を掴まれたと考えるのが妥当だ。


レオが怒るのも無理はない。彼は愛弟子であるハンスの勝利を、ティアラに邪魔されたのだから。


そんな相手に対し「何かしたなら謝る」などと白を切れば、神経を逆撫でするどころでは済まない。


(他の貴族の名義で改竄したし、レオさんは大会に興味がないと思ってたのに。バレるわけないって考えてた……)


身勝手な言い訳を脳内で並べる暇もなく、ペンチが爪に深く食い込んだ。


「考える時間はやらない。五秒以内に答えろ。なければ剥がす。嘘だと思っても剥がす。……もし無実だったら、後でちゃんと謝らせてほしい」


心臓の鼓動が耳元で跳ね、脳が必死に警報を鳴らす。

しかし、その極限状態でティアラの頭にある可能性が浮かんだ。


(レオさんは、私が改竄したという確信を持てていないんじゃ……?)


「無実の可能性」を口にしたことが引っかかる。もし改竄を完全に把握し、激怒しているのなら、そんな前置きは不要なはずだ。


まだ勝機はある。ティアラは目に涙を溜め、縋るように首を横に振る。


「どうしてヴィクトールをハンスにぶつけた。あいつはシードだったはずだろ」


その問いに、ティアラの時が止まった。


もしレオが改竄の事実を知っているなら、今の今まで「何も知らないフリ」をしていたこと自体が、明らかな異変として映る。


泳がされ、反応を見られていたのだとすれば、すでにティアラの背後に「何か」があることは感づかれている。その上で書類の件まで露見していたら――もう、詰みだ。


お先真っ暗な自分の未来を呪いそうになった。


しかし、もしこれがブラフだとしたら。


確信がないからこそ、あえて強引に揺さぶりをかけてきているのだとしたら。


レオの目には、まだ「何も考えず目の前のことをこなすだけの女」として映っているはずだ。


しかしこれはあまりにも都合のいい話であり、こんな希薄な線を追うべきではない。


普通に全て吐いてレオの温情を待つのが1番いいのかもしれない。

そんな葛藤の末出した結論は。


「本当に、何のことか分からなくて……怖いですよ、レオさん……」


無知を貫くこと。


ティアラはボロボロと大粒の涙を流して嗚咽をこぼした。


一歩間違えれば、本格的な拷問に突入する。だが、ここで中途半端に白状したところで結末は似たようなものだ。ならば、わずかな生存確率に賭けるべきだ。


不意に、爪からペンチの圧迫が消えた。


手足を拘束していた縄が、熱を帯びて焼き切られる。


「……本当に申し訳ない。どうか、許してくれ」


自由になった身体に安心感を覚えながらレオを見る。


彼はティアラの目の前で、それはそれは見事な土下座をしていた。

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