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暇つぶし

翌日、E(A)グループの試合場で、僕は師匠の前で魔術を放ってみた。


暴発どころか、放たれた魔術は迷いが消えたせいか、今まで以上に洗練された輝きを放っていた。


「迷いは消えたんだな?」


ニカッと笑う師匠に、僕は満面の笑みで「はい!」と答えた。


そのままEグループの試合を観戦しようとしたが、本選出場者は情報の秘匿性を守るために観戦禁止とのことだった。


手持ち無沙汰になった僕は、本選開始までの暇つぶしとして「冒険者商会」へと足を運ぶ。


冒険者の育成や保護を目的とし、ランクに見合った依頼しか受けられない「冒険者ギルド」とは違い、仲介料さえ払えば誰でも依頼人にも引受人にもなれる、いわばフリーマーケットのような場所だ。


「お前も、こういう所に来るのか」


建物内で依頼書を眺めていると、後ろから声をかけられた。


振り返ると、そこにはウルグと、あからさまに嫌そうな顔をしたガイヤがいた。


「本選出場者は観戦できないらしくて、暇つぶしに……」


「分かるぞ。俺も同じ理由だ。せっかくだし、一緒に依頼を受けないか? 火力不足なメンバーだから、お前がいると百人力だ」


ウルグのやや後方で、ガイヤが猛烈に拒絶するような視線を送ってくる。


彼に気を遣って辞退すべきなんだろうけれど、ウルグのキラキラとした期待の眼差しには逆らえなかった。


「……うん。行くよ」


「よし! 小遣いいっぱい稼ごうな!」


気まずさを紛らわすため、ガイヤと目を合わせないようにしながら、僕たちは依頼を選んだ。


選んだのは「トロールの討伐」。

推定二級、冒険ランクでいえばBランク相当の難易度だ。


ちなみにランクはSからEまであるらしいが、冒険者になるつもりのない僕にはあまり縁のない話だ。


「……なあ。トロールは強すぎるんじゃねーか?」


ガイヤが不安を隠さずウルグに耳打ちする。けれどウルグは「ハンスがいるから大丈夫だろ」と笑い飛ばし、そのまま目撃報告があった場所へと向かった。


その期待が、少しだけ重い。


実際、トロール程度なら苦戦する相手ではない。けれど師匠曰く、トロールやゴブリンといった亜人の中には魔術適性を持つ個体もいるため、油断は禁物だ。


道中、襲いかかってきたトレントを剣で仕留めていく。魔術を使わないのは温存の意味もあるが、何より森に引火して山火事を起こさないためだ。ガイヤは水適性らしいが彼の力量では山火事などの火災は消せないだろうから。


木々が痩せ細り、岩肌が露出し始めた頃。


「地図ではこの辺りのはずだ。そろそろ警戒しろよ」


先頭を行くウルグが注意を促す。

僕たちは雑な警戒心を捨て、細心の注意を払いながら彼の後に続いた。


「……トロールって、こんなに足のサイズが小さかったか?」


岩肌に残った薄い土の膜に、くっきりとした足跡があった。言われてみれば、確かに小ぶりだ。

「座学で習ったのと実際に見るんじゃ違うってことじゃねーの?」


僕といることに慣れてきたのか、ガイヤが呑気に答える。


ウルグは納得がいかないようだったが、考えても結論は出ないと判断したのか、再び歩き出した。


僕も何度かトロールの足跡を見たことがあるが、もう少し大きかったはずだ。けれど、このサイズの生物でこの辺に出現するのはトロールくらいしか思い当たらない。


足跡を辿った先――。


岩を挟んで座っていたのは、トロール二体とオーク三体、計五体の集団だった。


「……なぁ、俺らの手に負えないだろこんなの……帰ろーぜ?」


ガイヤが僕たちの肩を揺さぶって急かす。けれど、僕とウルグはこの光景の「異常性」に気づいていた。


「オークとトロールが一緒に……? どっちも頭が良くない種族のはずなのに、まるで会議でもしているみたいだ」


「ウルグもそう思う? 僕も、なんだか不気味に感じるんだ」


オークとトロールは犬猿の仲だ。見つけ次第、後先考えずに殺し合いを始めるはずの連中が、こうして静かに行動を共にしている。


僕たちの知らないところで、何かが動き始めている予感がした。


「話が通じるか分からないが、捕まえて魔術団か剣術団に引き渡そう」


「僕も同意するよ」


「えぇ……俺、マジで嫌なんだけど」


ガイヤの抗議も虚しく、作戦は決行された。


僕は『ファイアボール』を放つ。生け捕りにするため、威力は極限まで抑えて。


命中と同時に、ウルグが猛然と突っ込んでいく。僕はその五歩後ろを追った。


土煙の中から現れたのは、鉄の剣を構えたオークと、棍棒を握るトロール。


(抑えすぎたか)と一瞬後悔したが、すぐさま思考を切り替え、トロールたちの足元に半径五メートルほどの先ほどに比べて多少魔力を込めて『炎柱』を出現させた。


オークやトロールであれば死にはしない火力だが人間であれば丸焦げだろう。そんな炎の中にウルグは躊躇なく飛び込んでいった。


「何やってるんだ!」と叫びそうになったが、炎の中から「ブヒィッ!」という悲鳴が響く。


岩石化で僕の攻撃を無効化しつつ、中で暴れまわっているらしい。


炎が消えた頃、そこに立っていたのは焦げたトロール二体と、無傷のウルグだけだった。


トロールが渾身の力で棍棒を振り下ろすが、ウルグが腕でそれを受け止めると、逆に棍棒の方が粉々に砕け散る。


その隙を見逃さず、僕は『ファイアボール』を叩き込み、一体を仕留めた。


もう一体が即座に逃走を図ったが、先回りしたガイヤが地面に水を撒き、トロールは無様に転倒した。


そこへウルグが詰め寄り、両手両足を粉砕して制圧する。


「……これで、終わりだね」


あとは運ぶだけだ。


初めて他人と協力して亜人を討伐した。一人で戦うのとは違う、この上ない達成感と喜びが胸に込み上げる。


残された謎は多いけれど、それは専門家に任せればいい。


僕とウルグ、そしてガイヤ。三人でハイタッチを交わし(ガイヤは少し抵抗があったのか小さく)、勝利の余韻に浸りながら、僕たちはトロールを引きずって帰路についた。

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