違う世界の知らない人間
今日は、テスト返し二日目だった。副教科と国語、社会が返された。
結果は全部満点。別に自慢しようとも思はないし、誇ろうとも思わない。母はこんなことでは、振り向いてくれない。
⋯⋯それに、昨日のことが脳につっかえて、今はそんなことを考える余裕だってないんだ。
結局、終礼が終わっても憂鬱なまま、テスト返し終わり校内の廊下を歩む。
今日は雨で、湿気がすごい。とても、ジメジメとした空気だった。
鞄を片手に、足を動かす。一年一組、一年二組、一年三組。次は相談室で、その次は――
考え事をしながら、昇降口へ向かう。足早に、階段を下りる。コッコッコッという、普段気にしない音まで耳に入る。
気にしないように、気にしないように。
途中で、馴染みのある金髪とすれ違った。
「……っ、ゆ」
どうやら、金髪は一人のようで、何か言おうと、言葉を発した⋯⋯が、続けなかった。
私は何も知らないかのように、通り過ぎ、そのままさっさと学校を出た。
別に、無視したわけではない。あの人が勝手に言葉をとめただけ。
もともと、私には関係のない人だ。今更なんだって言うのか。私の生活が変わることはない。お姉ちゃんももう少しで帰ってくるし。
何ともないのに、普段考えないようなことに頭を使う。
それから、何分か歩いて。いつぞやの金髪と一緒に勉強した、通学路のカフェの前あたりを通り過ぎた頃。
急に後ろから声をかけられた。相手は、走ってきたのか、息を切らしていて、呼吸が大変そうだった。
なぜか、音を増す鼓動と立ち去りたいのか震える足を隠しながら、振り向いてやった。
なんとなくわかっていたけれど。こいつは、いつも私の邪魔をする。金髪は、今度こそ、言葉を発した。
「悠音っ! あの、昨日はごめん。あれは、その、悠音に嘘ついてたんじゃなくて――」
私は、何も言おうと思えなかった。その後も言葉は続いたが、すべてが耳の穴から穴へ通り抜ける感じ。脳には何もたまらなかった。
後ろに向いていた頭を前に向ける。金髪は、待ってと言わんばかりの仕草をしたが、私には関係ない。
そして、歩み出そうとしたとき。手を掴まれた。
うざい。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
普段は思ったこともないようなもので脳を支配されていく。
手を振りほどいて、歩む前にひと言。やっと絞り出した。
「見苦しい」
数ある言葉のなかで、一番寛大なもの。姉はよくそう言っていたような気がする。
私は、後ろに振り向くことなく、駅に向かう。
そう。私とあれは、もともと別の世界に住んでいたのだ。私が踏み込みすぎただけ。
あれも私も、お互いのことなど考えなければいい。そしたら、この喉の奥につっかえている、石ころがすんなり胃に落ちてくれる。
余計なことを考えはいけない。私は、勉強ができればそれでいいから。
◆◆◆
今日は、母のお見舞いの日だった。
私は、駅に着くとやけに静かな改札を通り、人のいないホームに着いた。
もう少しで電車が来る。
そんなことを考えながら、ふと、線路に目をやる。
「あー、見られちゃった」
小首をかしげながらそう言う彼女は、線路の真ん中にいた。
⋯⋯もうすぐ、電車が来る。ここで轢かれたら、電車が遅延してしまう。
私は、咄嗟に彼女の元へ走ると、電車が来る前に、線路の横側の凹みに入った。
電車は、大きな音を立てながら停車し、ものの数秒で何処かへ消えた。
私は、電車が行ったのを確認すると、彼女と一緒に、ホームに登った。
「……なに、してるんですか?」
まずは、そこからだった。制服についた土を払う。
「っぷ! ……え? あたしが何しようとしてたかって? 見たらわかんじゃん。電車に轢かれて死のうと思って」
いつぞやの私に似ていたような気がする。
「なんで」
ふと、その言葉が口から出た。息を吐くみたいに。自然と。
「うー、なんでって聞かれるとなぁ。別に、私なんていてもいなくても同じだし。どうせなら私の肉親にも、人間にも迷惑かけてやろうと思って」
何食わぬ顔で、笑っていた彼女は、あの頃の姉にどこかにていて。
「うん。そっか」
「あれ、案外あっさり系?」
「ね、名前は?」
「莉羽。常盤莉羽だよ」
彼女はどこか姉に似ていて。話していると自然に会話ができた。敬語も取れて、姉と話しているような感覚。
私は、名前を聞くと、次の電車が来るまで、彼女と話していた。
いつの間にか止んだ雨と、真っ赤に染まる夕焼けだけが、私たちを見ていた。
だんだんと減っていく文字数。ぁ゙ア゙(うめき声)
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