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欠落女子と高嶺の花  作者: 古宮ふえ
第二章 私がそこに在る時間
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祖母の日記

 普段より、鬱憤が溜まっている。

 何気ない日こそ、いつにもましてそう思う。曇った影が、日を遮り、雨を降らす。


 「はぁ」と、軽く息を吸うたびにため息が出るほど、憂鬱とした気分だ。

 ーーため息は幸運を逃がすと言うけれど、本当にそうなのか。ため息は、自分の体から不幸を逃がしてくれる。

 だから、ため息は不幸を逃がしてくれる、救済的なものなのだ。


 唐突に、雨が強まる。ザー、ザー、ではなく、ばぁー、ばぁー、と。

 手に持っているビニール傘の取っ手に力を込め、意味もないのに飛ばされないように奮闘している少女のモノマネをしてみた。


 雨は、湿気で嫌になる。でも、雨は嫌いじゃない。

 雨音は、すべてをかき消してくれる。

 私のなかの、異物を洗い流してくれる。欲も、希望も、夢も。


《ねえ、もし、あなたがどうしょうもなく辛くなったら。その時は、この日記を読みなさい。でも、それまでは決して読んではいけないよ。いいかい?》


 ふと、頭のなかに亡き祖母の言葉がよみがえる。温かくて、優しくて、おおらかだった人。

 祖母はいつも私に構ってくれ、寝る前によく、昔話をしてくれていたように思う。

 そういえば、あの日記はまだあるのだろうか。祖母はあのあと、私の両親には秘密で、私の机の引き出しに入れていた。

 母らに見つかっていなければまだあるはず。


 私は、来た道を引き返すことにした。

 先ほど、家族がいない時間帯を見計らって家に入ったが、つい先程まで家族がいないのなら、今帰ったところで、誰もいないだろう。

 一応、家族なので、あの人たちの思考は把握していると自負している。


 だんだんと、先よりも威力を増していく雨。今日の雨は、いつもより臭く、鼻につく匂いをしていた。もっとも、あくまで私個人の感想だが。


「……死にたい」

 

 脳死でいると、何かしゃべろうとすると、これしか出てこない。最近の私の悪癖だ。 

 故意ではない。ただ、頭が死んで、素直になるだけ。


 ろくでもなく、ただの"普通"の人間な私は、自意識過剰で自己中心的な有害のある生物だ。だから、祖母の言いつけも⋯⋯。


 家まで着くと、窓から中を確認する。やはり、家族はいなかった。多分、家族旅行でも行っているのだろう。


 私は、秘密裏に作っていた合鍵を取り出すと、家のなかにはいる。


 相変わらず、古い間取りで急な階段が多いここにうんざりする。


 リビングを通り抜け、下に降りる。明らかに古びていて、何か出そうなものをまとっているところが、私の部屋だ。

 兄とは、1、2階分部屋が離れている。


 木が軋む音を流しながら、古びたドアが開く。ドアは歪んでおり、開けるのにも一苦労だ。

 私は、そっと自分の部屋にはいると、小学時代に使っていた、自作の勉強机——と言っても、いらないダンボールをつなぎ合わせてただけだが——の近くによる。


 図工の時に作った、キャンバスのノートが3冊ほどはいるくらいの木製の物入れを取り出す。

 中は、だいぶホコリ被っており、中からいくつか過去に描いていたであろう漫画が出てきた。


 キラキラした青春に憧れていたからであろう。なんとなく、目を通しただけで、どういう話かすぐに分かった。


 紙切れや、写真の購入の紙を取り除いていくと一番下に、いかにも、という感じのノートが出てきた。


 中をちらりと見た感じ、これが例のノートであろう。


 これからじっくりノートを確認しようとした時だった。

 聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「夏希ー」

「おかーさん、なにー?」


 普通の親子の会話。そのはずなのに、これは違う。彼らの世界で、私はいない。

 ⋯⋯同じ血なのにね。


 まだ、どちらも上の方に居座るようだ。下に降りてくる気配はない。


 上から聞こえてくる話によると、旅行へ行こうとしていたが、父親の急な出張で取りやめになった、なんて感じだった。


 何にせよ、ここに二人が戻ってきたことは誤算だ。

 私は、ノートだけ手に取ると、先ほどの物入れをまた元の位置に戻し、過去に愛用していた裏道へ行く。


 実は、うちの家の駐車場には、シャッターがあり、鍵は両親と兄しか持っていない。駐車場へ行くために使う鍵もその3人しか持っていない。


 そこで、私はある道を見つけた。

 お風呂場がリビングより1つ下の階にあるのだが、その風呂場の中の小窓は、外にそのままつながっているのだ。

 成人男性がはいれるほどのすき間はないが、細い女性なら、ぎりぎり入るくらいの大きさだ。高さもそんなにないため、家からこっそり出たいときは、よく使っていた。


 小窓との思い出を蘇らせながら、あの頃のように、小窓の隙間から外に出る。

 あの頃と違い、背も伸び、少し太ったので、以前よりも出にくかったが、それでも使える。

 今度からは、ここから出ようと思う。


 立ち読み、ながら読書は危ないと聞くので、悠音ちゃんの家に帰ってから読もうと思う。

 

 私は、日記を抱えるように持つと、まだ降り注いでいる雨に打たれながら、急ぎ足で帰路についた。


 湿気でよれた日記は、努力のおかげか、雨に濡れることはなかった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!話のなかでは書かれていないのですが、一応莉羽視点で書いたものです。たまに、急に視点が変わることがあるので、悠音視点じゃないときは、だいたい別の人だと思っといていただければ!(?)

ぜひ次話も読んでください!!


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