停戦中
戦争開始より、四時間が経過した。
つまり完全休息の開始から数えて二時間弱。いつ終わるとも知れぬ平穏を一秒一秒、大事に大事に英気へ変換していた俺たちを嘲笑うが如く、何も起こらずに。
四つの『穴』は、いまだ奥底に拠点核を残した北西を含めて完全に沈黙。
新たな〝千憶〟どころか兵隊さえ現れる気配がないまま……不気味な静寂を湛えた戦場が三十分も続いた頃、痺れを切らした誰かが言った。
────これ、ガッツリ時間稼がれてね? と。
俺が憤死ものの返り討ちに遭った、悲哀の作戦開始前にも言われていたこと。
撃破点という形で獲得するポイントを用いて『ショップ』を利用する形式の俺たちプレイヤー側に対して、おそらく敵こと〝千憶〟側のシステムはコスト形式。
タワーディフェンスゲームの王道である経過時間なり何なりを参照して蓄積していくリソースを使用して、駒を展開していくタイプのアレだろうという推測だ。
推測というより、もう今までの流れを見るに確定と決め打って良いのではってな次第だが……ともかく、やはりソレを稼がれているのではという危惧。
まあ当然そういった声も挙がるというか、むしろ言うまでもなくってな話。口にしたのは誰かだが、口にしなくとも誰もが思っていたことだろう。
けれども、
────でも別に、稼がれても良くね? と。
誰かが言って、全体が賛同して、今に至る。……といえば適当なノリに聞こえるが、それも一応は歴とした戦術的かつ合理的な判断あってのモノに他ならない。
まず第一に、敵が時間でコストを稼ぐのと同時に俺たちも時間で体力を稼げる。
単純明快、それ以上でも以下でもない。約二時間の戦争状態ぶっ続けで疲弊したプレイヤー側の体力や気力を回復できるのであれば、敵が兵力リソースを回復したとてプラマイゼロだろって話。ぶっちゃけコレだけでも静観択が肯定できる。
第二に、現時点で俺たちは潤沢なリソースを確保しているという事実。
ゴッサンが消し飛ばした真っ白しろ助イオ太郎を含めた〝千憶〟の英傑……敵方の複数ボス駒&敵拠点核三つ分の撃破&破壊ボーナスは、締めて10Mポイント強。
10M、つまりは一千万。
得点の内訳で確定しているのは敵拠点核一つが三百万で、おそらくボス駒〝千憶〟が各一万以上の……失礼な言い方をすれば、ピンキリである。
ともあれ仮に全てを北〝拠点核〟に注ぎ込み『時間購入』を選択した場合、既に戦争残り時間の半分となる十時間を吹き飛ばせるだけの貯蓄があるということ。
そして『時間購入』以外を選択した場合、西の物資やら南の触媒やら東の強化効果やらは基本的に使いたい放題やりたい放題できるという目算だ。
つまり、そう、万全なのである。
開幕から此処まで散々っぱら度肝を抜かれたり肝を冷やされたりと肝に良くない展開は多くあったが、なんだかんだ乗り切っちまったぜという状況。
振り返って細々を見ればヤベェ場面やら局面は確かに数々ひしめいていたのだが、全力必死で当たって砕けろしていたら悉く砕いてしまったぜという状況。
まあ、要するに────
「アルカディアン、未知に慣れすぎ問題か……?」
「唯一、その未知に君は屠られかけたわけだが」
と、東陣地のVIP天幕内。十分な休息を経て両脚も無事に生え揃い、それなりの良コンディションを取り戻した俺の呟きこそ自分で言っといてなんだが推定真理。
数十分前に合流した囲炉裏の皮肉は無視するとして、そうと言う他ないだろう。
「んまー、でもあれよ。いい塩梅なんじゃね?」
それと同時に、囲炉裏と同じく東陣地に一時帰還したミィナの合いの手も真理っちゃ真理。それまたどういうことかといえば……。
「観る人たちは、絶対、面白い」
と、赤いのが居りゃ当然こちらも居ないわけがないリィナの言葉が全て。
基本なんでもありな仮想世界にプレイヤーが……少なくとも、その上位層が慣れ過ぎているがゆえ、上位の『戦い』では初見殺しが初見殺しにまで成り切れないという『限界いたちごっこ』みたいな地獄になっているわけだが、それがヨシ。
大体の場合に理不尽と不条理の正面衝突みたいな絵面が頻発するため、んなもん面白くないわけがない。俺たちは勿論、仮想世界の外側で見ている人たちも。
「ふふ……そうですね。おじ────祖父も、日頃から言っています。仮想世界の戦場は、中身が尽きない玩具箱のようだと。えんたーていめんと、です」
そう。こちらも囲炉裏たちと共に合流した、お師匠様の言う通り。
「今の『えんたーていめんと』リピートしてほしい人────」
「ハル君?」
「ごめんなさい」
────さておき、であるからこそ『別に良くね』が補強される。今現在、こっちが準備万端に整っているのであれば……是非も無し。
好きなだけ戦力を溜め込んで、どうぞ盛大に攻め込んでくりゃいい。
第三の理由。
アルカディアの理。お祭り騒ぎが盛り上がれば、強くなるのは俺たちの方。むしろ、わかりやすく大挙して襲い掛かって来てくれるのであれば願ったり叶ったり。
俺たちは楽しい、観客も楽しい、ついでに〝千憶〟らも楽しめるもんなら楽しみゃいいよと、初志貫徹プレイヤー流を体現する構えというわけだ。
────とはいえ、このように。
「…………で、いつ来るん?」
「「「さぁ……」」」
暇そうな顔を隠そうともせず卓に突っ伏したミィナの疑問が、そろそろ戦場全体の総意になりそうなのも事実っちゃ事実。もう二時間だぞ、いつ来るん???
俺と囲炉裏とリィナによる『知るか』の意が気だるい三重奏をピタリと奏で、横合いで【剣聖】様が困ったように微笑む平和空間が果たしていつまで続くのやら。
アーシェは一時間前に首脳陣地へ帰って行ったし、入れ替わりで顔を出したカナタは『見回り! 行ってきますっ!』と速攻元気に飛び出していったし、俺とアーシェの二人掛かりで「いい子いい子かわいいねぇ」と揉みくちゃにされて元気一杯(?)なソラさんも「ぁ、わた、私もっ……!」とカナタの後を追いかけてった。
その際、三人共から「ハルは休んでいて」「先輩は休んでてくださいね!」「ハルは休んでいてください」と怒涛の釘打ち三連打を叩き込まれたもんだから、こうして今に至るまで後から後から顔を出す身内と大人しく駄弁っていたのだが……。
────そろそろ、いいかね? ほら、脚も無事に完品なわけだし。
然らば、
「ちょ」
ちょっとリハビリがてら、散歩でも行ってきますわぁ────と、なんかアレ病人や怪我人特有というか『動いたら「動くな」って言われるのかな』と若干恐々な断りを入れつつ、席を立とうとした。
ちょうど、そのタイミング。
『────ちょっといいかい、ハル』
「おうッ」
「「ちょおう???」」
「ハル君?」
「なにを鳴いているんだ君は」
脳裏を不意打つ念話の声音。意図せず素っ頓狂な声を上げた俺、首を傾げる小みっこ二人、きょとんとするお師匠様に、隙あらば斬撃のブロンド侍。
「ぐ……────ぁー、ゴホン。もしもし、どした?」
然して、間抜けな声を晒してしまい避け得ず恥を呑み込みながら。不意に届いた現『指揮官』ことロッタの声に、誤魔化しの咳払いを置きながら。
なんだ念話かと納得しつつも、俺を見続ける面々の視線を受け止める俺に……。
『暇してるだろう? ちょっと今から、西に行ってもらいたいんだ』
届けられたのは、指令(?)が一つ。
『君に用事があるってさ』
「あぁ、うん、了解。……────ぇ誰が?」
まあとりあえず、西に行けとのお達しであった。
こういうグダグダシーンもアルカディア世界の世間様には無限に需要あるよね、間違いなく。こういうグダグダシーンこそ描くの超大変って話する???




