用事対面
────で、まあ別に構わんけどもと西陣地へ赴いてみれば。
「ぁ、あっ、ぁ、あの、あのあの、ど、どう、どうも……」
「は、はい。どうも……?」
用事があると俺を呼び出した待ち人は、ちんまりぽつねんと一人きり。
トレードマークである雨合羽めいた緑衣のフードを目深に被るまま、東陣地と同じ造りのVIP天幕内にて限界までソワつきながらスタンバっていた。
言わずもがな、誰あろう【雨音一粒】殿こと雫ちゃんさんである。
……然して、
「……、………………、…………」
「…………………………」
「…………、……、……、……………………」
「…………………………」
「……、……、……、……っ…………、………………」
「………………え、……えー、と。だ、大丈夫すか……?」
「っだ、ぁだ……だ、だ────────大丈夫…………!!!」
顔を合わせてから早数十秒、ずっとコレこんな感じ。
まさに今の、力が籠もり過ぎている意気込み一声よろしく。なにやら気合いを入れて挑む……挑む? 俺、挑まれてんのか? なにが、なんで? なにを?
────いや、まあ、なんでもいい。とにかく、本人は一生懸命なにかしらを成そうとしている、それは確かに伝わってくるのだが……。
「「…………………………」」
参った。どうしたらいいのかサッパリわからん。
幸いというべきかなんなのか、いまだ停戦の静けさは破られないまま。はてさて敵さん一体いつ来んのかね状態を継続中であるがゆえ、別に話を急く必要はない。
ないのだが、だからといって現状を続けたいかと言われると勘弁願いたい。
────苦手なんだよ、俺。物静かな子と二人きりって。
今の交友関係、クール系やら無口系やらは誰とか誰とか思い浮かぶ顔は数あるが、思えば雫ちゃんさんタイプは一人もいない。なればこそ懐かしい感覚を思い出したような気持ちだが……そうだよ、俺マジ苦手というか下手なんだよ。
過去こういうタイプの子にメチャクチャ嫌われた経験があるもんで、どうにもこうにも積極的に手を伸ばしたり踏み込む気になれないというか……──
「────────ぁ、……あのっ」
「ぁはいっ」
とまあ、つまるところの、お互い様。
単に個人的な苦手意識であって、彼女自体に思うところが在るわけもナシ。口下手、人見知り、何でもかんでも大変結構、全てを個性と受け取るのが俺の主義だ。
なので、参っているし困ってもいるが『頑張る』というのであれば、いくらでも無限に応援するし時間が許す限り待つ所存。むしろ上手いこと立ち回れなくて申し訳ねぇ……という俺の内心が、見事に伝わってくれたわけでもないだろうが。
「…………ひぅっ」
卓を挟んで、互いに椅子の上。向かい合ってから一分ちょい。勢いを付けるように一度ギュウと強く瞼を閉じて、開いて……薄緑色の瞳が初めて俺に向いた。
そうとも、今この瞬間こそが記念すべき初の視線合わせ。なんか気合いか悲鳴か微妙なところの声音も零れ落ちていたが、人類にとっては偉大なる一歩である。
「わ、わた、し……お、ぉ、お、お、お……ッ………………!!!」
そして、続くは尊き二歩以降。
なんかもう逆に申し訳ねぇやらで心中「頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れ────‼︎」と謎に全力応援団を展開している俺を他所に。
「ぉ………………──────男の子、こわくて、ぇっ…………!!!」
胸の内にて拍手喝采。遂に明確な己が気持ちを言葉にしてのけた年齢不詳幼女殿が、意味不明な感動で打ち震える俺の眼前にて────ゴッッッッッ!!!!!
「ぇっ」
物凄い勢いで、卓上に額を打ち下ろした。
ぇ、大丈夫ですか。今アレですよね間違いなくダメージ入りましたよね微かとはいえダメージエフェクト散ってましたし……と避け得ずドン引きする俺を、
やはり、置き去りに。
「が、外見っ……。年下、とか、年上、は、全然、大丈夫なん、なの、だけど」
「ぁ、は、はい」
「お、ぉ、同じくらいの、男性が、昔から……!!!」
「ぁ、あぁー、あ、はい。はいはいはい……!」
「た、多分ッ……しょ、小学校で、あの、いろいろ────」
「あぁー! あぁー‼︎ いや大丈夫大丈夫いや大丈夫いいから詳しいことアレコレとか全然ほら他人に仔細ぶっちゃける必要とかないだろうし全然ッ……!!!」
なんというか、暴走特急が如く空回り始めた彼女は────再びの、
「ッッッ……!!!!!」
「なになに次は何ッ……!?」
ゴッッッッッ!!!!!
ダボダボの雨合羽ライクな袖の先。まさしく幼女めいた華奢ちんまい両手で抱えた〝何がしか〟を、己が額に続き物凄い勢いで卓上へ叩き付けた。
そして、
「ぁ、……────ありがとうッ! ございました……ッ!!!!!」
「へぇえぁっ……!!?」
もう一体全体結局どんなキャラなんだよと混乱至極の俺に向けて、渾身。全身全霊全力ですと言わんばかりの御礼を、か細い声音の大迫力で、ぶち込んできた。
器用が過ぎる。────いや、ではなく。
「し、失礼な態度っ、いっぱい、取ってた、のにっ」
「いや、まあ、いや、別に全然、気にする程のことではなかっ」
「がが、ガッツリ……! 助けていただきましてっ……‼︎」
「ガッツリ??? いや、まあ別にソレが務めな部分もあっ」
「おぉ、お詫びの一つも差し上げなければ、示しがつかぬと思った次第……ッ‼︎」
「いつの時代のヒト???」
……なんか、うん。なんだろうな。
本当に、正直、なんだろうなってな具合だが………………ともあれ、うん、アレだ。これ以上なく、彼女から俺に向けた『用事』とやらの内訳は理解できた。
────つまるところ、
「ほ、ほんの、気持ち…………つまらぬ、モノですが……」
例の今戦争における〝千憶〟ファーストコンタクト暗殺未遂案件にて。俺がセプトラ氏から彼女を守った件に対する『お礼』ということだろう。
なんだよ。いや、わかっちゃいたけど流石アルカディアと言うべきか。
「…………も、モノに頼って、すみませ」
「いえいえ、そういうことなら頂戴しますとも。ありがたく」
どこまで癖が強かろうとも、結局は好きになれる人しか居やしねぇんだわと。
これもう下手すると死ぬのではと見てるこっちの方が泡吹きそうな様子を鑑みるに、男性恐怖症の度合いは相当なものなのだろう。それを押しての、律儀。
丁重に頂戴しなければ、失礼千万ってなもんだ。然して────
こちらの受け取り態勢を見て取って、再びの低頭。今度は流石にコツン程度で済ませてくれたが、ヘチャッと卓上に伏す姿がコミカルなことには変わりなく。
すぐには苦笑いまでを飲み込めない俺の前へ、ズズイと押し差し出された詫びの品……──彼女らしい緑色の巾着袋を受け取ってみれば、ジャラリ。
中から聞こえるのは、いくつもの小さな物が互いを叩いて鳴らす音。袋の大きさは掌に納まる程度だが、持ち上げれば感じる重量は確かなもので、そこそこだ。
然らば、その瞬間に察しがついた。
────そりゃあもう、かの【雨音一粒】殿からの贈り物ってなわけで。
日々の勉強は、追い付かずとも絶やしていない。なればこそ有名プレイヤーの〝代名詞〟くらいは浅く広く押さえているゆえ、彼女のコレも知識の内だ。
と、いうことで。
「えーと……本当に、貰っちゃいますよ?」
「も、貰っちゃって、くださぃ。……た、なっ、無くなったら、また、あげます」
「…………わかりました。では、遠慮なく」
世間曰くの『広く流通したらやべーブツ』にして、現状アルカディアで雫ちゃんさんしか造れないという特造品。────そして彼女が『良い人』と認めた人物にしか渡さないという、信頼の証めいたジャラジャラをインベントリに仕舞い込み。
「こ、この後、も。頑張って、く、ください。【星架】さん」
「気安く……や、可能なら、ハルで大丈夫ですよ。雫さん」
「っ……、し、雫、で、お願いします。きょ、距離、感じると、逆にこわ、くて」
「了解、雫。────大事に存分に、使わせてもらうよ」
新たな友人に笑顔を向けてみれば……まあ、仲良しこよしは追々ってなことで。フードを目深に被り直して躱されたのは、気に病まず流しておくとしよう。
頑張って生きてる【雨音一粒】ちゃん愛い。
ゴッッッッッ!!!!! で大概の人は好きになれるでしょ。なれ。
そんで今後の爆発的な活躍シーンで更に好きになれ。
ちなみにクソボケピエロ曰くの『過去メチャクチャ嫌われた経験』云々は居酒屋バ先の娘さん家庭教師案件です。覚えてる人だけクソボケピエロに石を投げなさい。




