間隙の平和
のんびり歩いて、からの駆け足。
臨時義足を慣らしがてらの散歩ってなわけで、延々牛歩も如何なものかと負荷を求めて地を蹴り早五分。たとえば【九重ノ影纏手】越しの《天歩》など試したこともなく、ソラのジト目を前に自重したゆえ真に小走り程度だったが────
まあ、それでもホームを目指す程度であれば問題ナシ。
「うおはぁ……〝町〟?」
「……と言うには、まだ流石に小さい気が?」
相棒を伴い俺は無事、出立前から更に様変わりした東陣営へ帰ってきた。
然らば、出迎えたのは城塞内で待機しているプレイヤーの面々。そして方々から手を振ってくれる彼らの姿を疎らに隠す、立ち並ぶ建築の数々。
大体が天幕や掘っ立て小屋の二種だが、前者は大きく立派なもので後者も名称から来る適当さや頼りなさは纏っていない。パッと見は完全に非一時間クオリティ。
そりゃ、非現実建築技術をフル活用しているのだから当然なのだろうが……。
「星空イベントで建築に関しては多少なり知った気になってたけども……こう、あれだな。初っ端から専門プレイヤー総人員は流石に別次元だな……」
「ふふ……本当に凄かったですよ。早送りナシの早送りを見てるみたいでした」
「あーそれ生で見たかったわー」
いやはや、こうして我が目で体感すると普通に感動もの。二時間前まで殺風景な寂れた『壁だけ城塞』だったというに、呆れるまでの爆速大変身。
そちらも『土塊の速復長城』と『金剛の不壊外壁』とで初期とは比較にならない防御力を得た高壁と併せて、もう完全と言っていいレベルだろう。
紛うことなき、堅牢な防御陣地だ。
今は俺たちと同じく休憩中……もとい稼働を停止しているが、見た目的にも性能的にも頼もしいが過ぎるメカニカル化物【試作八式:人造火竜車】も在るしな。
────と、
「……ちなみに聞き忘れてたけど、襲撃が完全に止まったのって?」
「ぁ、えと、二十……三十分? 前、くらいから、でしょうか。タイミングとしては多分、ういさんと囲炉裏さんが敵〝拠点核〟を破壊した頃じゃないかって」
「なーるほどなぁー」
なぜカグラさん曰く「二十四時間稼働も可能」とのことらしい自立型移動式拠点防衛迫撃城塞闊歩砲が穏やかに沈黙しているのか。
決して物資節約のためだけではない理由について問うてみれば、健気お利口なソラさんからの返答は滞りなく。ウチ以外の他二組とゴッサンが拠点核を潰した三方面だけでなく、いまだ健在な北西も含めて〝穴〟は全て沈黙中とのことらしい。
勿論『幸い』と『嫌な予感』の表裏一体。
全体が完全休息を取れそうなのは純粋に助かるが、やはりというか敵方の沈黙というのは不気味。心に警戒を置いておくのは必須であり、これから先のことをアレコレ想像してしまえば休憩中でも気疲れは避けられないというもので────
「────お、ハル君! おかえ、……っり!?」
なんて適当に考えつつ、やあやあと方々に手を振り返しながら陣地内を散歩続行していた折。バッタリ……というよりは、アレだろう。
「どもっすゾウさん。東陣営第三位ただいま帰還をば」
どうも身振りから俺を探していたっぽい、我が友【ElephantThree】殿と遭遇。俺の膝から下を見てギョッとしたイケオジフェイスの二度見、三度見をスルーしつつヒラヒラ手を振れば、意図した軽薄な振る舞いに隣のソラさんは苦笑い。
仕方ないのである。どうせ、詳しい説明とか今はできないし。
「ど、どっ……」
「まあ、ちょっと色々ありまして。見ての通り生きてますし、戦果は上がってますんで心配いらないっすよ。ハイタッチでもしときます? イエーイ!」
「あぁ、や、まあ、元気そうで何より……?」
俺がボッコボコにされた事実について、今戦争中は箝口令。
この有様から少なくとも『苦戦どころではない戦いがあった』ことはどうあれ見た者に伝わってしまうし、今はそれで充分という首脳陣の判断。
まあ妥当。無警戒は論外だが、余計に士気を削ぐ事実散布も同じく今は無用だ。
「…………え、と……?」
なんて、野郎同士で適当なスキンシップを交わしている脇。柔らか可愛らしく「それで、ご用件は?」の意を漂わせたソラに「おぉ、そうだった」とゾウさん。
「VIP用の天幕がある、案内するよ。しっかり休ませろって大将からの言伝でね」
「あー」
と、そのために俺を出迎えに来てくれたらしい。
なんというか……こう、何から何まで特別扱いで恐縮至極。性根としては無限に気が引けて然りだが、でないと他も気兼ねなく過ごせないということは学んでいる。
柄ではないが事実として『上』なのだから、堂々と立場に居ないとな、と。
「んじゃ、頼んます」
「心得た。では我らが第三位、此方に……あ、どうぞソラちゃんも一緒に」
「ぁ、は、はいっ……──もう、ハル?」
わざとらしく堂々ふんぞり返って案内に続いた俺は、脇腹を相棒につつかれた。
◇◆◇◆◇
然して、ゾウさんの案内で天幕に辿り着くまで一分ちょい。
それから最低限の椅子やら卓やら、あとは戦場真っ只中ということを考えれば間違いなく贅沢品なクッションを使ったソファベッドやら内装を検めるのに数十秒。
そして「VIPだからな遠慮なくVIPらしくしよう」と言い訳グダグダしかし迷いなくソファにドカリと腰を下ろし、ソラさんも隣にちょこんと座るまで十秒。
そんでもって、暫し会話もなく俺が天井を見上げて脱力した後────
「────お邪魔します」
「うわビックリしたぁッ……‼︎」
バサァッ!
男前な勢いで、テントの垂れ幕が払われるまでが五分弱。
現在襲撃停止中、東陣地の只中、隣には相棒。諸々の要素から流石にヨシと完全に気を抜いていたゆえ、気配の接近に全くもって気付けなかった。
悲鳴を上げたのは俺一人。つまりソラさんは気付いていたのだろう客人は……。
「「────ぇ」」
ツカツカツカ。名を呼ぶ間もなく一直線、俺の元へ歩み寄ったかと思えば。
「「ちょ……」」
ドサリ。何の躊躇もなく、俺の膝上に座る……というか、倒れ込むようにして身体を預けてきた。────然して、ハイ。さーん、にーい、いーち、
「え、あの、なに────」
「 な に し て る ん で す ぅ ? 」
普通に戸惑うも困惑より嬉しさが1:100で勝り、申し訳程度のツッコミを入れようとしながら頬を緩める俺の隣で天使由来の圧が発生。&ホールド。
細っこい指に首根っこを掴まれた俺が、反射的に仮想の冷汗を流す最中。
今に至り『全く同じ立場』であるがゆえ、特定個人に対しての特定限定状況下においては一切の遠慮をしなくなった俺の可愛いパートナーこと婚約者様と……。
「ん……なにしに…………────お嫁、さん?」
「まだですし、私もですし、ッッッもう、アイリスさんっ!」
我が道を往くが座右の銘と思しき、天下の姫君。
こちらも同じく畏れ多くも俺の婚約者様との痴話喧嘩が、俺抜きで始まった。
ご安心ください、あとでニアちゃんに詰められます。




