帰還、休息
「────とまあ、以上。いやはや面目ねぇっす」
「「「「「────────…………」」」」」
揃っての、絶句。
結果としては個人的な戦果ゼロ。もう心底どうしようもないくらいの敗走を噛み締めた俺を出迎え、諸々の報告を受けた仲間たちの反応がソレだった。
出立から帰還まで、最終的には一時間足らず。
けれどもゴッサンに連れられ生還した俺を最後に出揃ったらしい『三方面』それぞれの攻略事情を並べれば、内包されている情報量は溢れかえっている。
それも相まって、余計にトドメとなったのかもしれないが……。
「…………ぁー、ソラさん? 大丈夫だからな?」
「はい。わかってますけど」
「そ、そうか……わかって、ぁ、はい。左様で……」
たとえば、五体満足とは口が裂けても言えない状態で帰還した俺を見るなり、血相を変えて飛び付いてきて以降。両足共に膝から下を失っているため座ることも上手くできない俺を、片時も離れず抱き支えているパートナー様とか。
「────よしよし……」
「お前はソレなんか余計にヘコむから即刻やめてほしいんだけど」
たとえば、洞穴を進んだ先で遭遇した〝怪物〟に、俺が完膚なきまでボッッッッッコボコにされた旨を報告して以降。ちみっこのくせにと言いたくなるような慈母めいた表情でナデナデナデナデナデナデナデナデ頭を撫で回してくる自称妹とか。
「ま、そういうこともあらぁな。お前さんも無敵じゃねぇってこった」
「……ゆうて俺、元から別に最強無敵無双キャラではないと思うんだけどな」
そしてたとえば、俺を無事に救出してくれた大将様は置いといて。
「「「「「────────…………」」」」」
改めて、舞い戻った城塞拠点中央部。首脳陣地に集い報告会に参加した面々の大部分は、まさしく唖然呆然といった具合に各々で動きと言葉を止めていた。
三組中ぶっちぎり最速で帰還したらしい、ういさん&囲炉裏の侍ペア。
ちょっとしたアクシデントには見舞われたそうだが、トータルで言えば問題なくアレやコレやと戦果を持ち帰ったらしいアーシェ&カナタのペア。
そして、託した伝令役を無事に果たしてくれた上で予想通りゴッサンから今戦争の『指揮官』を引き継いだらしいロッタ含め、各陣営の要人各位。
見渡せば、今や三百六十度万全の構え。留守の間に滞りなく済んだらしい〝築城〟の成果こと、今や真に完成した馬鹿スケールの城塞が理由だろう。
ちょうど一段落ついたタイミングだったとのことで、城塞および今後必要となるであろう各種設備を建築設営に注力していた西の新旧序列持ち面々も勢揃い。
この場に居ない非一般人は、務めを果たして南陣地で堂々スヤスヤ寝ているという【城主】殿くらいなもので……まあ、なんだ。つまるところ、
錚々たる面々の前で恥を語った挙句、静まり返った空気の中で注目され続けるの超絶居心地が悪い。せめて誰か青いのにツッコミの一つでも入れてくれ────
「────…………ともかく、」
と、参ったならば今の俺が助けを求める先など自然一方向。
周囲と同じく唖然呆然……というより、若干なんというかショックを受けたような顔で固まっていたアーシェに視線を投げれば、再起動に要した時間は一秒弱。
「過程はどうあれ、結果として残った事実は〝敵〟……〝千憶〟の推定最高戦力を犠牲ナシで────……プレイヤー側が、落とせたということだけ」
犠牲ナシと言いながら、失われたままの状態で些細なエフェクトを散らす俺の脚を見つめ僅かばかり困った顔をしたものの。推測混じりでも現状正真正銘の事実を語り、まさしく俺とは対極的な安定感の怪物こと【剣ノ女王】様が音頭を取る。
「敵側の〝拠点核〟も三つを破壊。ゴルドウが討った……イオ? の他にも、ういたちと私たちとで二人の上位〝千憶〟を討伐済み────状況は、いい」
然して、俺が齎してしまった不安と動揺を取り除くように。
「警戒していた反応的な襲撃も無し……改めて各々、ひとまず十分な休息を」
場を取りなす旗頭の言葉に、当然のこと異議は挙がらなかった。
◇◆◇◆◇
斯くして、とにかく『気張っていた奴ら一旦全員休め』との指揮が下った後。あらゆる意味で消耗甚大筆頭な俺は最優先とばかり会議の輪から追い出され────
「いや参った参った、流石に両脚いかれるとは不覚どころの話じゃねぇよなぁ」
「……歩きながら、なに言ってるんですか」
イオに持っていかれた足先の代わり。改めて編み繋いだ〝影糸〟の義足で堂々と大地を踏み締めながら、他に誰も連れずパートナーとの散歩に興じていた。
一応と残してきた言い訳は、半分事実の『応急処置の義足を慣らす』ため。
アルカディアにおいてプレイヤーが身に受ける『最も致命的な状態異常』こと部位欠損は、欠損直後の高位治癒魔法あるいは状態異常解除魔法による快復チャンスを逃すと、以降は死亡に際しての蘇生または時間経過以外に治す手段がない。
そして勿論のこと死ねない現状。望めるのは後者の自然回復だけなのだが……コレが非常に心折な時間設定となっているため、おそらく俺の両足が新たに生えてくるのは甘く見積もっても二、三時間後。まあリハビリは必須だろう。
然して、引っ付いてきたそうにしていたリィナやチラチラしきりに心配げな目を向けてきていた我が師【剣聖】様の他。俺を構いたげな面々を置いてソラだけを連れ、首脳陣地から東陣地への道程を遅々して歩く残る半分の理由は……。
「……ソラさん、怒ってる?」
「どうして私が怒るんですか。怒ってませんよ」
ズタボロな有様を見せて心配させたであろう、愛らしいパートナーのフォローだとか────別に、そんな無駄無為見当違いなアレではなく。
「私は……ハルの分も、頑張ろうって思ってるだけで」
「そか、安心。まあ知ってたけど」
そうとも、そんな読み違いをやらかしているわけではなく。
「ハルの方こそ、怒ってるじゃないですか。────……大丈夫ですか?」
キッパリハッキリ振る舞って、見ようによっては無茶した俺あるいは俺が酷い目に遭わされたという事実に怒っている様子────その実、不覚を取ったパートナーの分まで自分が一緒に頑張って活躍を埋めようと張り切っているだけ。
つまり、まさしく、そんなソラさんの言う通りというか。
「いや、うん。俺も怒ってるってか、なんというか……」
避けようもなく自分自身にムシャクシャしている有様で、俺に多大なる期待を向けてくれている仲間たちの前にヘラヘラ取り繕って居たくなかっただけ。
……言わずもがな、ういさんとか、リィナとか。
アーシェなんかも筆頭に、囲炉裏やらゴッサンやらミィナやらカグラさんやら他にも各々、特に親しかったり鋭い面々には見透かされていたのは百も承知。
とはいえ、バレてようがなかろうが晒すか否かは俺が決めるってことで。
「まぁー、ちょーっと、悔しい感じだわなぁ」
ヘラヘラと強がる無様を見せるのを、相棒に限らせていただいた。
ただ、それだけの次第である。
────別に、難しい話ではない。
至極単純、予想もつかない怪物との遭遇だとか諸々の『仕方ない』を抜きにして、皆に格好悪いところを見せちまったなぁと微妙にヘコんだというだけの話。
イオという無謀へ挑むに際して散々……まあ強がり半分、自分への鼓舞が半分のヤケクソ気味だったとはいえ、テンション高く臨んでおいて結果惨敗かよと。
そんな、流石に秒では消化できない恥ずかしさを患ったというだけの話。
だから、まあ、つまり、そういうこと。
「ん……、…………。ハル?」
「うーん」
「知ってますか。この戦争、まだ十分の一くらいしか終わってないらしいです」
「っはは、それな。やっぱ二十四時間って設定バグだろ、どうなるんだよマジ」
「あはは、ですね。……ですから、まだまだ時間は沢山ありますよ」
「うーん」
「だから、活躍の機会も、……その、挽回? の、機会も。……ね?」
「うーん」
「……もうっ、なんですかっ! 期待に応えてるつもり、なんですけどっ……!」
「もう一声。もうちょい可愛さ増しで甘やかす感じに」
「叩きますよ。仮想世界ですから、ちょっとくらい暴力の内に入りませんよね」
「今のジト目は結構グッと来ました」
「《剣の円環》」
「待って魔剣は可愛くないヤメテ助けて許して」
可愛いパートナーに癒されて、気合いを入れ直そうと画策しただけのこと。
なんてことはない、ただそれだけの一幕であった。
諸々の戦果リザルトは次話以降順次。
多分こういうとこはシステムちゃん「あらあらうふふ」と空気を読んで映さないと思うので、この事実婚約済みバカップルパートナーの限界イチャが全世界に放映される無差別テロが生じる可能性は九割九分ナシである旨ここに報告いたします。
なお二人の仲良し光景を遠目に見ている者たちの個人アーカイブ視点。




