答来
────さて、どうやら俺は敵を見誤っていたらしい。
そのことに漸く思い至れたのは、交戦開始より二十分程度が経過しようかといった頃合い。同一の能力を完璧に使いこなす者同士、出力優位と経験優位の乱数を交えて危うい拮抗を保ち続けたがゆえのアルカディアらしくない超長期戦の果て。
「……………………そういう、ことですか」
強制的に膝を突かされ、低くなった視界に沈むまま。状況対処の戦闘思考に掛かり切りとなっていたせいで目を向けるのが遅れた……ともすれば、
無意識に目を逸らしていた事実が齎した〝結末〟を、俺は見ていた。
「……恐ろしいまでに、見事だった」
然して、些細な足音さえも鳴らぬ歩みが一つ。この場において道行きを踏める者は、いまだに両の脚を備えている者だけ────つまり、
「掛け違えがあれば、容易く覆る語らいだった」
その手で斬り飛ばした、俺の脚が転がる地を、悠然と進む〝千憶〟のみ。
「讃えよう、其方は強い」
然して僅かばかりの猶予時間が尽き果て、十数秒前に持っていかれた両足が手の届かない場所で燐光と爆ぜ失せる。……どの道『最終手段』を初手で切らされている以上どうしようもなかったが、ご丁寧に視覚へ植え付けられた無力感よ。
「なればこそ、どうか許すな」
なけなしのプライドというか、負けん気というか、オマケ程度に立場を考えた体裁というか……地に伏しても、せめて頭は擦り付けてなるものかと辛うじて上体は持ち上げた姿勢。絶やさず戦意を向け続ける俺の視線を受けて────
「盗人猛々しく力を振るった、此の身を」
視界の中。目前へ着いた真白な姿が膝を折り、無感情な瞳に俺を映した。
「………………、……────」
負けた。
総評としては、誰かに語る気にもなれないような、ふと思い返すことがあれば恥じ入るばかりだろうと切なくなるような、どうしようもねぇ戦いだった。
爪痕を刻めたのは、開戦直後の僅か数分足らずのみ。
ほんの少しの出力優位なんて、瞬く間に順応され適応され攻略された。
既存の技は勿論のこと、端から端まで通用しなかった。
苦し紛れに編み出した奇策新技諸々は、思考を読み取られて悉く叩き潰された。
技術も、スキルも、そして武装も、何から何まで『俺』を俺以上に使われた。
……盗人だって? いや、違うだろ。
お前が『此の身』とやらに備えている最大級の理不尽は、決して〝複写〟なんて上っ面だけの能力じゃねぇだろ。わからいでか、他ならぬ────
「────……『記憶』の、才能」
その尋常ではないズルの極致に、誰あろう俺だけは気付けないはずがない。
然して、
「……それは正しく、それは誤りだ」
笑み一つ。不格好で不器用ながら、初めて零された本音と思しき感情の粒。
「其方のソレは、贈物などではない」
俺を見下ろしているはずの〝千憶〟が、まるで跪いているかのよう。
俺の過去を掴み、今を識り、未来までも捕らえて我が物たる『記憶』として掌握し、最後には俺の〝勘〟など及びもつかない未来予知めいた動きで殺しに来た、
まさしく俺の完全上位互換たる、真白の人影が。
「そして、ゆめゆめ忘れるな、此処に敗者はいないことを」
その手に提げた星剣を、恭しく捧げるかのように────
存在しないという、敗者の首元へ。
「糧として必要あらば、私は幾度でも」
「…………」
突き付けて……断つ。
「此の身を以って、稀人の道しぶべっ」
即ち、終幕来る、その刹那であった。
迸った黄金が、真白の御大を『五月蠅ぇ』とばかり吹き飛ばしたのは。
完全に、知覚外からの到来。音も無く────否。音と衝撃は今、事実の来訪より数拍も遅れて追い付いてきたほどに迅速を超えて暴力的な神速。
無感動な無表情ごと殴り飛ばされ、洞穴広間の奥にある〝拠点核〟と擦れ違うように至近を横断。その身に叩き込まれた馬鹿馬鹿しいまでの威力を示すように壁面を割り砕きイオが着弾した瞬間、その余波で容易く人を殺せるであろう、
大爆発が、巻き起こった。
……いや比喩ではなく、本当に大爆発。それも、ただの爆炎ですらない。
「………………っは、はは……」
色とりどり。
言うなれば、子供が大喜びするであろうヒーローショーの演出めいた……。
然して、
「────おう坊主。どしたよ、調子悪かったか?」
地に這いつくばるまま、流石に可笑しな笑いを零さずにはいられなかった俺を……甚大な殺人余波から守る、なんとも大きすぎる背中が一つ。
「……ったく、なにやってんだか」
そうとも、流石に笑みを噛み殺せない。ツッコミと共に後から後から湧いてくる。だって、お前、なぜって、お前、そんなもの────
「あぁ? ────〝大将〟やってんだよ、カッケェだろうが」
颯爽登場してくれやがった俺の大将様が、流石にカッケェ過ぎたもんだからさ。
まさかの主人公奮闘シーン全カットは、独白通り『誰かに語る気にもなれねぇ』ようなボロボロの消耗戦だったから。なお完全上位互換相手に二十分も耐えた模様。
それは冗談として主人公の活躍が全カットされた本当の理由は、お察しの通り。
このシーンの主役が、最初っから主人公ではないからだそうです。




