総大将
「────……斯くも、星々の連なりよ」
地響きと震動が過ぎ去ると共に。瓦礫の山と粉塵の霧が沈み鎮まっていく最中で、呟きの声音が空間に染み渡るようにして俺たちの耳へ届いた。
「…………」
「っは、おいマジかよ。手加減ナシで殴ったぞ俺ぁ」
然して『だろうな』と、溜息すら零す気になれず閉口する俺。そして楽しげに笑みを噛みつつ肩を揺らし、黄金が擦れる些細な音を散らす我らが大将。
到来した【総大将】ゴルドウの眼前に、先と変わらぬ真白の姿が滲み出る。
相変わらず意味深ワードばかりを唄い続けるイオの様子に、目立った消耗は見受けられず。肌にも纏いにも時間を経て残るような傷は刻まれないまま。
はてさて、なにをどうやって〝今の〟を無効化したのかもサッパリだが……。
「成程なぁ……ったくロッタの野郎、控え目な報告しやがって」
疑うべくもない、現状を示す事実は一つ。
「こんなもん、アイリスの奴を相手にする方が百倍マシじゃねぇかよ。なぁ?」
化物は健在。その領域内へ踏み込んでしまった獲物が二人から一人へ、そして再び一人から二人へと移ろっただけで、危機的状況は絶賛継続中ということだ。
いや、むしろ冷静に考えれば────
「…………まぁ、はい。それよりも」
「おん?」
「重ねて、なにをしていらっしゃるのでしょうか。……指揮官ともあろう方が」
バグとしか言いようがない理不尽の権化。ありとあらゆる全てのプレイヤーに対して〝天敵〟を演じられる怪物の前に、誰よりも姿を晒してはならない者。
誰よりも生き残らねばならない〝頭〟が文字通り『断たれてはならない首を突っ込んできた』という形なのだから、至極単純に状況は悪化している。
少なくとも、常識的に考えれば。
だからこそ義務的にもツッコミを入れざるを得なかったのだが……。
「いや、なんだその喋り。そういや随分と可愛らしい格好しやがって、なんか雰囲気も……──あぁ、精神的曲芸か。話にゃ聞いてたが、こりゃぶったまげだぜ」
平常運転、カッカッカ。
フルフェイスの『ヒーロマスク』に隠れていようが、その奥で快活に笑む表情を読み取ること容易い豪快な笑い声。スマートな黄金鎧を隙無く身に纏う偉丈夫は、自らも化物と認めた〝敵〟を前にして隙だらけな振る舞いを演じて揺れる。
然して……────〝敵〟は、動かない。
「で? お前さん動けんのか?」
ならばと、当然のように会話続行。
余裕綽々かつ、近所の仲良いオッサンが如きフランク極まる適当さで声を投げ掛けてくる【総大将】に……俺は結局、先程同様に気の抜けた笑みを零し、
「まぁ、ちょっと……物理的に無理、かなぁ」
〝想起〟換装、ボロボロの【P・M・C】から【白桜華織】へ。
様々な意味で気を抜くことを赦さないシチュ燃えネタ呪物メイド服に暇を与えると共に、素直に事実を吐き出しながら漸く地面へと突っ伏した。
そうとも、無理だ。
なんせ両足の膝から先を持ってかれちまったのだから────
「とかなんとか言って、潔く諦めてる奴の顔じゃなかったがなぁ?」
「…………そこはそれ、まあ最後の意地くらいはハイ、えぇ、まあ」
────物理的に立ち上がれない、というのが冗談であることは見透かされていたらしい。いやまあ、ほんと、どうしようもねぇくらい身体も心もボッコボコのボコにされていたというのは揺るぎない事実ではあるのだが……。
「〝繊奏五行〟……っとと」
両脚もがれた程度、今の俺ならイコール行動不能とはなり得ないってのも事実。ってなわけで【九重ノ影纏手】起動。窮鼠猫を噛む一手として披露する機会はカッケェが過ぎた我らが大将殿に攫われてしまったが、やることは変わらない。
然して、影糸で下肢を編み立ち上がれば……ゴッサンは再びカッカと笑い、
「おし。────んじゃ、下がってろや」
俺に背を向けたまま、悠然と一歩を踏み出して。
「たまにはオッサンも張り切って、若けぇのに背中を魅せとかねぇとな」
【総大将】が、前へ往く。
────聞くまでもないが、おそらく既にゴッサンは『指揮官』の座に居ない。
彼が直々に俺を助けに来たという現状自体が、その証左。俺も俺でツッコミを入れたが……いくらなんでもリアルタイム陣営通話権限という甚大が過ぎる特権を諸共に死地へ抱え持ってくるほど、俺たちの大将は考えナシのアホではないからだ。
察するに、今回の新四柱から実装された一度限りの『指揮権移譲』システムを行使しているはず。今は入れ替わりで右腕あたりが収まっていることだろう。
ゆえに、心配は要らない。
「………………はは」
あぁ、もう、本当に、重ね重ね────俺が思うに、ゴッサンが真に憂いなく、その頼もしすぎる背中に秘める〝全力〟を振るってくれるのであれば。
「よう、お前さんが〝千憶〟のトップってことで、いいのか?」
「…………答えは是であり、否でもある。稀人の長たる黄金の偉丈夫よ」
おそらく、この戦場で唯一その〝力〟だけが、
『理不尽』に抗し得る唯一の解答になるだろうと、思っていたから。
「っは、よせよ。大将面は気取らせてもらってるが、長なんて柄じゃねぇ」
「大将も、長も、容は同様に思えるが」
「違ぇな、違ぇ。心意気が違げぇ。俺が思う〝大将〟ってのは────」
然して、対面する真白と黄金の語らいに。
「────いざって時に、誰より馬鹿やって誰より派手やるのを躊躇わねぇ奴だ」
ギシリ、と。周囲に揺蕩う空間が物言わず悲鳴を上げる。
【総大将】ゴルドウ。東陣営イスティアを、その腕と知で率いる豪傑。
「ま、誰だか知らんが相手するぜ最強の〝千憶〟さんよ。お誂え向き……」
そして、またの名を────
「ここに居るのが、お前さんに見合う娯楽人類トップの〝無敵〟野郎だからな」
時として仮想世界『最強』をも遥かに上回り、頂点に立つ『無敵』の男。
黄金が猛り、地が砕け、空間が軋み、時が平伏す。
斯くして迸る右の拳が、またしても一切の反応を許さず正面から真白を殴り飛ばし────燦然と場に主役として輝き煌めくは、仮想世界にて比類なき宝物。
アルカディア非公式魂依器ランキング武器カテゴリ不動の第一位。史上最速で第七階梯の高みへと至った【英傑の黄金鎧】が誇る主な権能は、ただ一つ。
所属するパーティあるいはレイドの人員数に比例する、際限なき主の強化。
仲間一人毎の強化幅は極僅か、ほんの1%程度ステータスが上昇するのみ。ただし重ねて積み上げられる強化の枚数に際限はナシ、それ即ち────
背負う集団が百人ともなれば、プラス百パーセント。
千人隊ともなれば、プラス千パーセント。
……つまり、この場に在るのは、
「おら、どうした遠慮はいらねぇぞ────どっからでも掛かってこいやぁッ‼︎」
単純基礎数値、Lv.1000オーバー。
理不尽をも容易く捻じ伏せる、無法の極みたる〝力〟の化身、その威容である。
つまり、定員三百名だった従来の四柱戦争では出力プラス300パーセント状態&指揮官システムの特別強化分で戦っていたということ。
つまりLv.400程度プラスα状態のゴッサンを【剣ノ女王】様は一方的にボコったということ。誰かの情報を開示する度に他も一緒に壊れていく世界、アルカディア。




