来る伝令
────特記戦力の派遣から、おおよそ十分程度が経った頃合い。
「ダメだな、こっちも相変わらず繋がらねぇ。突入と同時ずぅッッッッッと〝千憶〟連中に絡まれてんでもなけりゃ、やっぱ領域内自体が通信不可なんだろ」
静けさを取り戻した地上、プレイヤー拠点城塞陣地にて。中央に集い指揮を重ねる首脳陣の中で、東の大将が『気に入らねぇ』といった具合に鼻を鳴らしていた。
念話通信だけではなく、視界端。表示されているレイド人員のステータスバー表記さえも六人分ご丁寧に塗り潰されている始末で全く状況が見通せない。
然らば、隠すこともなく晒された『感想』は彼のものだけではなく。
「……全く、これでは〝お飾り〟ですね」
その隣。思えば互いに指揮官として腰を据え、加えて敵同士ではなく味方同士として本番に知恵を振るうのは珍しいこと。然して父の内心を至近にて容易く読み取った【侍女】が、同意を示すように疲れた声音を零してみせて、
「まあまあ、ええやん? 心配いらへんて、そないに気張らんと」
親子の隣、こちらに関しては二人の思考を理解しているのかいないのか。暢気な京ことばが、自らの言を全うするが如く緊張感も無しにソレを拾い上げる。
さすれば、
「「……はぁ」」
「ぁ、やめて。溜息やめて、つらい」
世間では『メッチャ似てる』と『全く似ていない』で評価が二分している大物父娘に、顔を見合わせられ、心底から息の合った様子で溜息を差し向けられ……威厳は何処かへ置いてきたが座右の銘である北の首領が、情けない声を上げた。
「ったく、お前さんはよぉ」
「ある意味で、一番の大物は貴方ですね。わかってはいましたが」
「あらぁ、褒められてへんのわかるぅ……」
────と、斯くして。親子に揃って半眼を向けられ切なげに糸目を更に細める【群狼】の様子も、別に役割を放り出して遊んでいるわけではなく。
先にヘレナが、ぼやいた通り。想定の一つが的中した形だが、特記戦力三組を反転攻勢に派遣して以降まさしく『仕事がなくなってしまった』からこその暇。
つまり……。
「『報告待ち』ってぇのが、なにより疲れんだよなぁ」
「……わかります」
唯一兵力を派遣しなかった北西をも含めて、敵の軍勢を吐き出し続けていた〝穴〟が全て沈黙したことを踏まえて。これまで約二時間ばかり、延々と酷使してきた頭を休めるターンが回ってきたということ。────重ねて、つまり。
「ぁ、ハギ君から伝言。『お二人共、そこはコイツを見習うべきですね』やって。……え、褒めてないやんな? コイツ呼ばわり含めて罵倒やんな???」
「……そも、なんで今のタイミングで北陣地のハギから伝言が飛んでくんだ?」
「それはアレ、俺が『慰めて』ってコッソリ泣きついたから?」
「はぁ……」
「ヘレナちゃん、やめて。二発目えぐいて」
この、お暢気者の振る舞いが状況に際して正しいということ。
改めて確認する必要もなし、この戦場に集うプレイヤーは末端の末端まで歴戦の猛者。各々が考えて動く程度のこと基本的には造作もなく、単純な思考能力でいえば一人一人が最低でもハーフレイドを率いることができるような者ばかり。
戦局が静けさを見せたのであれば、逐一指揮する必要はない。
流石に戦場とは縁がなかった西陣営勢は話が別だが、そちらに関しては現場と合流した【遊火人】のカリスマと指揮も併せて口出しの余地はない。
ならば……と、いった具合。
つまり実際には褒めていないような顔で、しっかりと褒めている。
気を抜くべき時に百からゼロ、気を入れるべき時であれば惚けた顔でもゼロから百。誰よりも尽力と脱力のスイッチが上手い北の首領に、その一部分に関しては。
親子共々『敵わないな』と────
「まあでも、事実よ? あの面子で片方すら無事に帰って来れん〝なにか〟が在るとすれば、俺らがピリピリしてようがリラックスしてようが変わらへんやん?」
「……そりゃまあ」
「その通りですが……堂々と言葉にするのは、指揮官として如何なものかと」
負けを認めて、ゴルドウとヘレナは用意されていた椅子に開戦から初めて腰を下ろした。全くもって、力の抜けた正論を顔に叩き付けられてしまったから。
【剣ノ女王】と曲芸師二世。
【剣聖】と【無双】。
そして【星架】と【見識者】の計三組。
どれも現戦場における……もとい現アルカディアにおけるトップ5に入る個人戦力を擁した上、これまたトップを占める〝脚〟まで揃えた万全の布陣。
あれで仮に無事の帰還が望めないとなれば、二人組が揃って摘まれるとなれば、それ即ち『最強』にも『最速』にも対応して封殺できる戦力あるいは仕掛けを〝敵〟が用意できるということ。────そんなもの、どう足掻いても詰み。
ジンの言う通り、構えていたところで行く先は変わらない。勿論のこと〝次〟を見据えた立ち回りに切り替えはするが、そうするにしても柔軟性は肝要だ。
ゆえに、
「────どうせ大した時間は許してくれへんよ。今のうち気ぃ抜いとこ?」
「ま、そうだな」
「……そうですね、努力しましょう」
「努力して休憩するん、ヘレナちゃんらしいわぁ」
今も現場で元気に……というよりか、漸くのこと腕を振るって回れると張り切って飛び出していったカグラを除き、北の空気に東と南が迎合して揃い三名。
誰にも憚らず各々の姿勢で指揮卓に突っ伏した、指揮官三名の休息は────
これまた、ジンの鷹揚とした読み通り。
『────ッ、伝令……! こちら北東強襲部隊、一名ッ……はぁ、帰還した!』
「っつぉ、ロッタか────」
『現在こちらの深奥でハルが〝敵〟と交戦中! 対象は単体、推定戦力は……ッ』
束の間の静けさを破る、息せき切った推移の号を以って。
『────【剣ノ女王】に、最低でも匹敵するものと報告します……‼︎』
「……ぁ? おい、マジかよ」
僅か、十分足らずで終わりを告げられた。
地獄のシャトルランおつかれロッタさん。




