粛々と灼芍に
仮想世界アルカディアの『戦闘』へ現代人類が臨むにあたり、ソレは他の如何なる要素をも上回る〝核〟と言って差し支えない重大な仕様だ。
作り物とはいえ本物としか思えない自分自身に、自分の意識を降ろして振る舞う異世界体験。仮に顔を変えようとも、感覚的には我が身を晒す実体験。
つまり見ようによっては、人によっては、意識感が現実と変わらない。
然して生じる問題といえば、何をするにしても……ファンタジー世界でならば真っ当なはずで、誰にも見咎められるはずのないアレやコレやを楽しもうとしても、どうしても切り離せない現実的な遠慮や羞恥心が湧いてしまうということ。
その最たるものが『戦闘』であり、技の名前や気合いの声音を放つどころか『大真面目に剣を振る』という非現実的な行為一つにさえ羞恥を覚える者はいる。
一定数というか、普通に数多。
冗談ではなく、単に思い切り大声を張る程度のことさえ気が咎めて出来ない人間は、現代において数え切れないほどいることだろう。
────そして、その問題に対する、ある意味で完璧な回答がソレ。
『感情呼応出力増幅機構』という究極の〝理由〟にして〝事実〟にして正当なる〝言い訳〟が、アルカディアの戦闘行為における羞恥を逆転させた。
つまるところ……本気で臨むだけで誰でも絶対に強くなれるのに、羞恥に囚われて悪戯にパフォーマンスを底で留めることこそ馬鹿馬鹿しいという風潮。
勿論、人それぞれ。乗る者も反る者も往々にして様々。
常は仕様に真っ向から蹴りを入れつつバグり散らかしている【銀幕】などの例外もあることから、非演者とて後ろ指を指されたりはしない。
あくまでも、仕様に則った形はソレというだけの話────とはいえ正当性および有効性が広く認知されたことで、その全容は長らく一部界隈の研究対象だ。
単純明快な、感情の発露。
色は問わず、本気の渾心。
あるいは……真に迫る、理想の操演。
『感情呼応出力増幅機構』などと名称化されてはいるが、正確に言えばクライマックスブーストが読み取り呼応して力と成すのは〝感情〟だけではない。
たとえば、通りすがりの誰かが何の気なしに誰かに手を差し伸べたとする。
クライマックスブーストは発動する。
たとえば、何処からか聞こえてきた悲鳴の下へ咄嗟に駆け付けようとする。
クライマックスブーストは発動する。
たとえば、気付かない内に誰かの応援を背中へ受けていたとする。
クライマックスブーストは発動する。
即ち、ソレは本人の意思や感情すら問わず状況自体に作用する神様の声援。
だから、ぶっちゃけ本気だの感情だのが必要なのではなく、重要なのは心意気とシチュエーションであり……結局のところ、身も蓋も無いことだが、
『どれだけ世界を楽しませられるか』これに尽きる。
そう、つまり、たとえば────
「信じ難い」
「光栄です」
白髪青眼超絶美少女(男)がフリフリの和装メイド服を着込みながら人格までも着込んで成り切って〝役〟に徹するまま貞淑に笑んで暴れ狂う。
そんなもの、最大級の増幅判定が下されて然りの面白さだろうて。
思考加速起動から三秒、既に『決死紅』も何もかも即座に切れる強化手段は全開放済み。遅滞する時間の中を音速を蹴飛ばし跳ね回る俺たちの現状は……拮抗。
頬を掠めた幸運を最後に、やはり俺の刃は通らないし届かない────馬鹿強いどころの話じゃない。冗談抜きで【悉くを斃せし黒滲】が可愛く思えるレベル。
両方を経験して身に染みたが、ガンメタよりも上位互換のほうが遥かにキツイ。
クライマックスブーストにより確保した僅かな出力優位を除けば全て丸写しのミラーマッチかつ、向こうは自前の経験を上乗せしてくるのだから始末に負えない。
なんとか喰らいついている、としかいえない状態。
このまま殴り合いが進行すれば、近い未来に勝敗は決するだろう────と、
思っては、いないよなぁ? おそらく俺の全部を識ってんだからよぉッ!
「「──────、」」
思考加速起動から五秒、再びの描線。
槍撃を揺れ避けて返しの致命を齎さんとしたイオの脇腹へ、抜き撃ち放った【早緑月】が鞘走りの音色を置き去りに傷を……これまた浅いが、確かに傷を刻む。
それで身体が揺らぐことも、真白な瞳が瞠られることも、声音に驚きが宿ることもないが────至近。同時に《鏡天眼通》の効果を打ち切った瞬間。
「……良い衣だ」
「えぇ、一面では確か────に……ッ!」
素直な称賛を伝えると共に、俺の【早緑月】を同じく喚び出した翠刀で以って打ち払い後退。仕切り直しと言わんばかり、距離を空けて静謐に佇んだ。
……然して、
「…………、ふぅ────……」
静かに、棚引かせるように、深呼吸。
落ち着け、人格を絶やすな、心を纏え。お師匠様から頂いた大切な『刀』までコピーしやがってテメェこの野郎とか地味キレ案件に翻弄されている場合ではない。
成り切り、演じて、お褒めに与った『良い衣』の力を最大限発揮することが唯一の勝ち筋。いや本当に、外見に関しては俺にとって地獄そのものだが……。
頼むぜ【P・M・C】────またの名を【Pluto・Maid・Confusion】。使い手によってギャグorぶっ壊れの限界二択、戦闘に際してクライマックスブーストの純度に応じた性能変化を刻々と遂げる真実おふざけネタ装備の本気を……‼︎
「どうぞ貴方も、お召しになっては如何でしょう?」
「控えよう。あらゆる意味で、私には即さない」
このムッツリ〝千憶〟様に、嫌というほど魅せ付けてやろうぜ。
◇【P・M・C】製作装備:全身装衣
Pluto・Maid・Confusion────つまるところの冥土、メイド、そして迷道。
馬鹿ほど稀少素材を注ぎ込まれたゆえ基本的にはアホほど頑丈な耐久性を持つだけのメイド服だが、戦闘時に着用することで唯一の特殊効果が起動。
装者が基点となり生じたクライマックスブーストの〝質〟に応じて全ステータスが増減し、その幅はリアルタイムで蓄積されていく総合的な品質評価……即ち『如何なるCBを積み上げたか』によって刻々と常時変動していく。
増減であり、つまり当然のこと下手な演技等によってCBが途絶えた瞬間にデバフ付与が決定。瞬時に蓄積プラス分が帳消しになると同時、全ステータスが半減する。
その負債を返すには再び一からCB評価の蓄積を行いマイナスを覆す必要があり、また負債返済を履行するまでの間は如何なる手段を以ってしても除装が不可となる。
簡単に言えば『常時良質なCBを維持しなければアホみたいに甚大な呪いが降り掛かる』という馬鹿げたデメリット設定で稼いだリソースを全て『良質なCBを維持するだけで常に制限ナシの特大バフを享受できる』という機能に注ぎ込んだネタ装備。
ネタ装備、のはずだった。
誰かさんがヤケクソになって着こなしてしまうまでは。
是非イオにも着せよう。




