邁進
境界を突き抜けて地上から地下へと座標を移した瞬間。肌を撫でる空気の質が、気のせいではなく明確に嫌な方へ変化したのを感じ取る。
怖気、あるいは不気味、といったものではない。
ただ単に幾つも想定していた様相の内、特に『こんな風であってくれるな』というモノに近かったという話。つまるところ、面倒な仕掛けが在ったということだ。
「ハル!」
「わぁってる! 常時全方位警戒だな、こりゃ……‼︎」
この〝穴〟が、如何にして〝敵〟を吐き出していたのか。
如何にして……なんと言うべきか、そう。運び出していたのか、送り出していたのかを、信用に足る『感覚』で以って違わず読み取れてしまう。
『竝枝界拓』実装後より付き合っているMIDツリー第一段階《感識》────才能なくとも遍く魔力を察知できるようになる後付け超感覚および、どこぞの天邪鬼先輩の懇切丁寧ご親切にて鍛えられた技術的直感を用いた、いわゆる魔力読み。
【銀幕】や【旅人】レベルにもなれば『初見のダンジョンであろうと入った瞬間ある程度の性質やギミックを看破できる』らしい半システム外スキルにより、
「にしてもアホだろ! あのミミズの仕業かぁっ……!?」
「はは、万華鏡みたいになってるねぇ……!」
理解した〝穴〟もとい〝道〟が備える機構は、悪態必至の無容赦仕様であった。
然して────無駄遣いせず情報の集積に充てた落下の暇は数秒程度。キツめのスロープを描く幅二十メートル弱の洞穴は、エネミーたちが『這い出る』ことを考慮しての形だろう垂直部分は極僅か。すぐさま下端の着地点が現れる。
ってなわけで……!
「っしゃ行くぞッ!」
「あぁ!」
虚空蹴脚、減速、着地、迷わず疾走。
首根っこを捕まえていたロッタを優しく前方へ放ると共に、駆け足。助走を助けて加速の手間を省略させた相方と並走を開始。時速おおよそ百キロ程度、現実世界的に考えるか仮想世界的に考えるかで速遅が逆転する勢いに乗って────
プレイヤーであれば誰もが親しみ、いつもいつとて果てしなく世話になり続けているであろう『機能』で満たされた〝道〟を直進する。
「っ、早速────」
予想を遥かに超えて滑らかな壁面床面に、所狭しと刻まれた紋様。仄かな光が強さを増して、無空の暗闇を照らすのは────重ねて、親しみのある見慣れた青。
それ即ち、転移門。
この〝道〟全てが、継続的に機能する瞬間移動装置としてデザインされている。つまり、道行く俺たちの周囲および前方のソレらが光量を増したということは、
戦力移送の用が、おそらく侵入者迎撃機構に転換したことを意味するのだろう。
斯くして……──瞬時、空間を埋める『兵隊』が現出。
これまた見たことのないタイプ。開幕初期〝ミミズ〟に次いで現れた〝ゴリラ〟に近いが、あれよりも更にスマートかつ小型。前脚も用いた四足歩行は継続しているものの、それを差し引けば全体のシルエットは更に人間へ近付いている。
用意された兵であることを仄めかす『装備』も健在。
頭部を守るヘルメット、および胸部を守るブレストプレート。急所を最低限といった具合だが、それが一層のこと効率と画一の意を伝えているかのよう。そして、やはり謎に認識力を阻害する黒靄が────
「小兎刀」
関係ねぇ、押し通る。
《天歩》無用、右に長槍の左に短剣。道幅および天井高、共に二十メートル弱の真円上にて足場として一切の不足ナシ。目視可能〝敵〟戦力、百を超えて沢山。
ルート構築、よーい、ドン。
「────────ッぁあらよっとァッッッ!!!」
だからどうした。本気で止める気あんなら様子見してんじゃねぇぞと‼︎
幾らでも無限に〝穴〟から湧き出してこないことで、雑兵も『コスト』から捻出されている戦力なのであろうことは察するに容易い。ならば毛ほどの労力にも手間にもならない以上、わざわざ差し向けてくれたオヤツを見逃す理由は存在しない。
両断、串刺し、殴打、細切れ。長短両極の双得物を振るい、地を壁を天井を駆け巡り手当たり次第に片付けていく。────以前までは、不得意だった二刀流で。
取り回しやすい短剣二刀ならまだしもの話。長槍&短剣なんて超変則スタイル過去の俺には絶対に無理だったが今は別、地道に〝教材〟に学んで成した実力だ。
────ずっと身近に、極致みてぇな二刀馬鹿が居たもんでなぁッ!
「止まんなロッタ! とりあえず塵払いは任せとけッ!」
「っはは……! 了解!」
駆け抜ける先々、ピンポイントで戦力が派遣されてくるのは確かに油断ならないが質が問題。ほぼノーコストなんじゃねぇのコレと疑わずにはいられない紙切れみたいな雑兵を、規定行動による半自動行動で消化しながら一本道を直進。
向かう先の果て。何が在るのか、誰が居るのかは知る由もないが────
止める気ないなら、止まらねぇぞと。立ちはだかるを無いものとして突き進む俺たちの前方、範囲を広げた青光が更なる戦力を雑に並べていく。
相変わらずの〝数〟だけ。……ここまで来ると『それが見たい』という意図を感じてしまうが、まあいい。お望みってんなら見せてやんよ……‼︎
「二刀流だろうが、対群団戦だろうが……!」
小兎刀放棄、蓄力満タン、鎌刃展開────突貫。
「今の俺に、苦手分野なんざ基本ねぇぞ‼︎」
情報収集、誠に結構。俺を確実に止めたいなら川か湖か海でも持って来いや。
この程度じゃ最早ほぼ疲労すらしないとかいう体力オバケ。
空中戦を独占する代わりに地上戦にも優れ、近距離も中距離も遠距離もと交戦可能距離に隙間ナシ。事実上の仮想世界最速ついでに仮想世界最強と撃ち合い可能な超火力を保持する上に物理だけでなく魔法も完備。真っ向からの殴り合いを特に好むが搦手不意打ちも割かし得意で戦闘スタイルに好き嫌いがなく、勉強熱心に才能を併せて全ての戦闘を学習し一切を忘れず成長し続けるが、根本的に他者をメチャクチャ評価する性質ゆえに憧れを絶やさず驕りと無縁。他者をメチャクチャ見ているために指揮適性も無ではない。あと謎勘で稀に未来予知めいた動きもする。
なにコイツ。
そしてコイツと競るどころか各方面で基本的には大きな背中を見せ続ける仲間たちの株も際限ナシという事実。どうなってんのアルカディア世界。




