突入
────ってなわけで、南東の〝穴〟直上。
「ちなみにだけど、侵入者を検知した場合に崩落するギミックとか……」
「まあ普通に有り得るだろうけど、キミなら何とでもできるだろう?」
ガッと遠慮ナシ担いだ相方を連れて着いた所定の位置。突撃を控えた緊張感をそこそこに、俺は直径二十メートルは下らない〝敵〟の入場口を見下ろしていた。
「いや流石に一瞬で天井が落ちてきたら死ぬけども?」
「じゃあ『一瞬』は僕が稼ぐから、その隙に対処を頼むとしようかな」
「相変わらず俺を無条件期待応答マシンか何かだと思ってんな貴様」
方針として示されているのは同時攻略。即ち道中進行ペースにバラつきが出るのは仕方ないと割り切るとて、少なくとも突入は号を待って一斉が吉。
んなこと言われなくとも分かっているゆえ、念話を待つ間の……他ペアが位置に付くまでの、ちょっとした暇潰し兼コミュニケーションの一幕。
「そりゃまあ……できそうと思ったことは、大概やってくれるのが僕にとってのキミってやつだからね。────ほら。まさしく、こんな風に」
重ねて、南東の〝穴〟直上。つまるところ《タラリア・レコード》の空中歩行能力を以って目的地上空に立つ俺の真隣。やはり同行が慣れない【見識者】殿が、同じく虚空に……正しくは、虚空に浮かぶ『足場』に立つまま楽しげに笑んだ。
まあ確かにソレも俺の仕業なわけだが、
「いや、コレは流石に大したことしてないぞ」
言葉通り。ただ【九重ノ影纏手】の影糸で編んだ『床』を、ロッタの足元に置き固定しているだけ。繋がれている右腕にはヒト一人分の荷重が掛かっているものの、その程度は言うまでもなく超人身体にとって些細な負荷にも成り得ない。
謙遜ではなく、事実として大したことはしていない。────それゆえに、まーた例によって謎の俺全肯定故意的厄介ファンムーブかよと苦笑いを返せば、
「はは、だからトータルだよ。手本にも出来ない万能っぷりが実に頼もしい」
「もう百万回は言ってると思うけど、特筆して信頼が重いの勘弁してくれ?」
相変わらずというか何というか、予想に反さず。浮かべていた笑みの色を人を食ったようなモノに転がして、ロッタは懲りずに俺を持ち上げる。
もう本当、本当になぁって具合────
『よし、準備は良いなテメェら』
────と、隠さぬ表情で以って元祖厄介ファンとの一対一に『やりづらさ』を表明する折。思考の内に号を控えた声掛けが届いた。
それに合わせて、遠目おおよそ十数キロ距離。
相変わらず邪魔をしなければプレイヤーに見向きもしない疎らなエネミー群および〝穴〟の傍ら、俺たち以外のペア二つが位置に着いた様子を眺めつつ……。
『繰り返しになるが、念話の繋がりは切れる想定で当たれ。今んとこは〝千憶〟との接敵が通信障害の原因と仮定してるが、敵側領域は全域ソレでも不思議はねぇ』
『その上で可能な限り生還重視、重要な情報を得るか〝敵〟に何かしら痛手を与えた場合は即時帰還。線引きは任せるが、とにかく生きて帰らなきゃ無意味と思え』
『求めてんのは交換じゃねぇんだ。────いいな?』
「『『了解』』」
刻まれる確認は、改めての作戦方針要項。俺の相槌に重なるのは、他ペアの受信役として直接【総大将】から指揮を受け取っている囲炉裏とカナタの声。
そして、
『よし。んじゃ……────カウントダウンだ。10、』
秒読みが、始まる。
「ロッタ」
「心得てるよ。打ち合わせ通り、食らい付こう」
進んでいくカウントを背景に、こちらもこちらで最終確認。予め簡単に交わしていた『進行案』を言葉にせず繰り返せば、返されるのは当然の了。
────言わずもがな、全力疾走はしない。
あくまで理想は『敵に圧を掛ける何かしらの戦果』であって、それは必ずしも同時攻略でなければならない訳ではないが、そういう問題ではない。
勿論、全力で走るのであれば最初から俺一人あるいはロッタを仕舞ってしまえばヨシとかいう問題でもない。即ち、重視すべきは大将指揮。
迅速と慎重のトレードオフ。
余裕を持って、足並みを揃えて、警戒を厳に堅実に着実に確実に戦果を刻む。そんでもって────おそらく、それが逆に不意打ちにも成り得るという打算アリ。
ここまでの流れを見るに、敵役を演じる〝千憶〟は間違いなく情報を集積している。つまり、ここまでの流れで派手に暴れている俺は確実に見られている。
少なからず注目は浴びている……はず。と考えれば、おそらく緩急は有効策だ。
『3、2、────』
《タラリア・レコード》空中歩行解除、ならびに足場を解いて落下開始。
白と亜麻色。それぞれの髪を轟風に靡かせて自由落下に移動を任せながら……。
『1、────』
最後の最後。チラと視線を向ければ緑色の瞳が雄弁に、疑いもせずに『さぁ活躍を間近で見せてくれ』と楽しげに語っていたものだから。
俺は、そんな困った先達の首根っこを容赦なく引っ掴み、
『ゼロ。────暴れてこい』
片手に相方、そして空いた片手に喚び出すは紅の長槍。得物を彩る透明な紅布を落下速度ではためかせるまま……大口を開ける敵陣へと、音もなく突入した。
鬼が出るか蛇が出るか。
はたまた竜が出るものか。




