攻守転換
斯くして、招集。
「────推測ですけど、おそらく相手さんは『コスト制』で動いてます」
イスティア陣地から俺と小みっこ二人、そしてソラ、カナタ、ロッタを含めた特記戦力六名が首脳陣地に呼ばれ、始まったのは〝相談役〟……即ち拠点防衛遊戯のプレイに関して一家言や二家言や三家言ある者たちの推論報告共有会だった。
「エネミー各種は雑兵役の『駒』と見て間違いないでしょうね。そして〝千憶〟のヒトたちがヒーローユニット、いわゆる『強駒』と思われます」
「出来得る限り効率的に。刺せる時は容赦なく。基本的に無駄は省く。でも戦力の逐次投入……つまり時間稼ぎはTDにおいて無駄じゃない。────節々から感じ取れる相手方の〝じれったさ〟も併せて、ほぼ間違いないんじゃないすかね」
とはいえ、流石に予め整理されていたのだろう。
長々と続くことはなく、代表者たちが報告に費やした時間は僅か一分少々。然して、頷き「ご苦労」と労うまま流れるように話を引き継ぐは我らが大将。
「ってなわけだ。予測として、今この瞬間も〝千憶〟連中は『コスト』とやらを稼いでる。疎らに飛んでくる殺る気のねぇ矢玉どもは、俺たちに対する牽制らしい」
「『だろうな』」
────と、遺憾ながら念話で会議に参加している囲炉裏と相槌が被ったが、遠方との無意味で不毛な睨み合いは一瞬で捨て置く。
今は戯れている場合ではない、そのくらいは理解している。
防衛側ではなく攻撃側だけに『コスト制』が適応されているのではという考えには至っていなかったが、言われてみりゃ確かにってな具合。とはいえ何かしら次の備えをしてんだろうなってことくらいは察していたゆえの同意。
必要だから休憩は取らせてもらったが、今も決して〝暇〟ではないのだ。
だからこそ────
「そんじゃまあ、繰り返しになるが乗り込むぞ。敵が態勢を整えるのを待ってやる義理はねぇし遠慮もいらねぇだろ。こっちから出向いて、襲撃を掛ける」
とまあ、そういう話になるわけで。
「はいはーい。あたしら、まだ一時間ちょいはクールダウン欲しいんだけどー」
「頑張れなくはない、けど」
「あぁ、お前さんらは留守番だ。派遣に際して護衛が手薄になっから物のついでに呼んだんだよ。これからはバッチし回復するまで大人しく此処に居ろ」
手を上げたミナリナとの会話を前置きに、次いで始まるは采配の伝達。
「言うまでもねぇだろうが、連中が拵えた〝道〟に攻め入る。エネミーの湧き地点も『砲弾』の撃ち上げ地点も重なってんだ、まあ向こう側に居やがんだろってな」
「『…………』」
今度は相槌を自重した。おそらくブロンド侍も同じくだろう。
『……、ふふ』
そんで、無意識か否か。念話で紛れ込んできた『お師匠様』の微笑ましげな声音に関しては、努めて聞こえなかったよう振る舞うとして、だ。
「ってことで……だ。────二人組を、三つ作る」
「……ん? 三つ?」
大人しく聞けば降って湧いた疑問に、今度は思わず首を傾げた。
流れとゴッサンのテンションおよびノリ的に、てっきり城塞周囲四箇所へ空いた〝穴〟全てへ一斉に乗り込むものだとばかり思っていたのだが────
「一箇所、北西の〝穴〟は放置する。理由に関しちゃ……」
「保険のためっすね。こっちから攻め入ることで条件を満たす何かしらの罠があった場合、一箇所だけでも『隙間』が在れば取れる対応策が爆増するんで」
「それに加えて、望める限りの効率性と両立させるためですね。襲撃を掛けるのであれば多方面同時で圧を掛けるのが望ましい。なので他三箇所の同時攻略です」
と、脇に控えていた相談役の方々が追加解説を寄越してくれた。
「無論、諸々の『予想外』は予測した上で踏み切るってぇ話よ。全会一致の決定だ、お前さんらは気兼ねなく突撃して暴れてくれりゃ構わねぇ」
「成程」
然して、まとめに対し呟いたのはジッと静聴していた【見識者】────なんというか、その東陣営参謀の反応こそが俺たちの納得を代弁した形となった。
コイツが否定せず『成程』と頷くのであれば、まあソレでいいんだろうなと。
……さすれば、
「そしたら、組分けだ。ロッタ、お前はハルに付け」
粛々と始まる、定められた指揮執り。
「わかりました。────よろしくね、ハル」
「おぉ……了解?」
予想外とまでは言わないが、親しさに反比例して地味に慣れないペア組み決定。ツーマンセルどころか、なんだかんだ一緒に行動する機会自体これまで数えるほどしか……否、数えるほども無かったのが俺とロッタの不思議な間柄だが────
「次に、ういと囲炉裏」
『了解』
『承知しました』
なんて、ほんのり密かに戸惑っている俺を他所に。
「そんで最後、カナタはアイリスに付け。南陣地で合流しろ」
「ぇあっ……? は、ぁ、はいっ!」
ツーマンセルが三つ、都合六名。
組分けの伝達は迅速に終わり、その結果に異議を唱える者は────
「よし動け。ハルとロッタ、お前さんらは南東の〝穴〟だ」
ゴッサンが締め括りの号を発する前にも後にも、居なかった。
◇◆◇◆◇
そして、務めを与えられた者たちが各方へ駆けて行った後。
「────……さて、そんで『お前さん』に関してだが」
「は、はい……」
呼ばれたにも拘らず、役割を与えられなかった者。
指示を渡されなかった者が、残されて【総大将】と一対一。
他ならぬソラ────対人戦に不安を持つ少女は、自分だけが役割を与えられず、場に留まることを求められた理由を正しく理解して恐縮していた。
不満は無いし、悔しさも無い。
……ただ少しだけ、恥ずかしいと俯きかけるソラに、
「先に言っておくが、お前さんに〝残ってもらう〟のは対人戦不得手とか関係ねぇぞ。お前さんに残ってもらいてぇから、お前さんを手元に置く。そんだけだ」
「…………へ?」
ゴルドウは厳かの欠片も無い様子で、サラリと認識の誤りを突き付けた。
その理解は間違っているぞと、呆気なく。
「お前さんが実際どれくらい……どんな風にヒト相手の戦いを苦手としてんのかは知らねぇし、突っ込んで聞くつもりもねぇ。俯いてくれんな責めてねぇから」
んなことしたら俺が世間様に責められちまうよと、見上げるような体躯の迫力に反比例するような愛嬌を振り撒く偉丈夫はカラカラと笑って言う。
笑って、後に。
「そんでも、俺ぁ【総大将】なんでな」
「っ……!」
相応しい迫力を纏い直して、ゴルドウはソラの気を引き締め上げた。言葉通り、責めてはいない。脅かしてもいないし、威圧しているわけでもない。
────ただただ、ソラ自身が『そう在るべき』と、そうしたいと思って姿勢を正しただけのこと。自ら手を伸ばすべきと断じた礼の具現。そして、
「そん時が来たら、迷わず言うぞ。────戦れるか? ってな」
先んじて態度と言葉で示してくれた、これ以上ない『礼』への返答。
「無理でもなんでも構わねぇ。結果どうなろうと誰にも文句は言わせねぇ。どう戦ろうってのも強制しねぇ、まあ頑張れる範囲で頑張ってくれりゃ大丈夫だ」
そして、謙遜は許されない事実を。
「お前さんには、そんだけの贔屓が許されるほどの戦術的価値がある」
「……、…………────はい」
突き付けられることに、予め用意しておいた覚悟を以って。
「もしダメでも采配した俺が悪ぃし……んなもん無理矢理でも使おうとしなけりゃ、やっぱり俺がアホってな。どうあれ大将が責任取り放題なんだ、気楽にいろ」
優しく降り落ち、わしゃわしゃと髪を撫でる、保護者めいた手への感謝と敬意と共に。取り残されたのではなく温存された特記戦力は、下ではなく前を向いて。
「できることを、頑張りますっ……!」
「あぁ。それでいい」
憂いなく堂々と、最終兵器の役を拝した。
お父さんじゃん。




