北の常識人
同時刻、北陣地。
城塞内部に満遍なく戦力を並べた東、そして行動を開始した職人たちの護衛など『要点』に部隊を割り振った南────対して、ほぼ全戦力を外側へ散らした北。
個人戦闘能力では基本的にイスティアへ遠く及ばず、集団戦闘能力でもソートアルムに軍配が上がる。ならば北陣営ノルタリアの強みとは何か。
それは、他ならぬ生存能力。
基本『冒険』に特化した趣向を持つ北の精鋭たちが備えるのは、未知に対する抜群の適応力および判断力。つまり知らぬ状況で〝とにかく生き残る〟ことに関して、多くの場合ノルタリアのプレイヤーは他陣営同格の追随を許さない。
然して、レイドに際し特技が最も輝くポジションは言わずもがな斥候役。
生き残り、見て識り、情報という名の戦果と共に帰還する。遠征において必須かつ最も重要と言える位置を専門とする者たちは、当然のこと戦場……特に状況が刻々と変わり得る長期的戦場では、多くの活躍を望まれる必須ポジション。
過去の四柱戦争でも存分に『遊撃力を併せ持つ〝目〟』として活躍してきた────が、やはり重ねて個人集団を問わず単純な戦闘力では確かに劣る。
更に言えば、回避あるいは逃走が許されない状況。即ち〝防衛〟はノルタリアが最も苦手とするところ。遠征において『拠点を攻められる』という状況は、起これば即座に『抗戦』ではなく『撤退』の択が取られるのがアルカディアの常。
理由は単純。基本的にプレイヤーの群れよりもエネミーの群れの方が強いから。
例外的に『北の三法』が同行しているレイド遠征ならば話は別だが、その場合は拠点襲撃そのものが起こり得ない。ゆえに、総じて必要がない。
正しく〝好き〟に適応してきたからこそ、北陣営は防衛を得意としない。
────とはいえ、世情の理。
そこはノルタリアが他陣営へ特技を提供するのと同じく。
ある意味でイスティアを凌ぐ自由人たちの集まり、斥候特化陣営という尖りに尖った趣味人たちの不得意分野は他が担当すれば良いだけの話である。
然して……同時刻、北陣地。
「────囲炉裏君」
「……っ、先生」
ほぼ全ての戦力が出払い空っぽ一歩手前。〝拠点核〟操作役および突発襲来に対する対処指揮役として置かれた『頭』の他、駐在人員は即座に数えられる程度。
だからこそ、それがどうしたとばかり。
「ご無事で何よりです」
「ふふ……早速、お恥ずかしいところを見せてしまいました。まだまだですね」
護衛として、大規模戦力を受け入れることには慣れている────が、
「………………いや、過剰では? どちらか西に行った方が……」
流石に、この二駒は過剰。単身でも馬鹿げた信頼度を誇る【無双】に留まらず【剣聖】が到着するに当たり、思わずといった具合で『頭』────【群狼】の右腕にして北陣営の苦労人と知られる【犬笛】は、自然と呟きを零していた。
……しかし、呟きは呟き。
常日頃から『思考の可笑しな第一位』や『いつまでも頼りねぇ第二位』や『東とは方向性の違う以下それぞれ変わり者』と付き合っている身として、アルカディアで常識的な考えが真っ当に役立てない状況が如何に多いかを識るハギである。
【犬笛】もとい【苦労人】は、不要と察した疑問を口の中で呑み込みつつ。
「囲炉裏」
「あぁ、ハギ」
歩み寄っていた足を止めず、気安く後輩へと声を掛けた。
「ういさんも。お疲れ様です」
「萩君こそ、ですよ。副指揮役、ご苦労様です」
併せて、その隣に立つ先輩と会釈を交わしながら。次に送り出す言葉は不要と捌いた『上』の采配に対する疑問ではなく、足を運びつつ用意していたもの────
「────既にウチのトップへ伝達したので東にも連絡が回ると思いますが、ようやく北の〝拠点核〟の提供する恩恵が判明したので共有します」
淡々と事務的な、役割遂行がための連絡のみ。
然らば、囲炉裏が序列入りしてから変わらぬ『北の連絡役』として数年の付き合い。勝手知ったる先輩にして友人の相変わらずに笑みを零しつつ、
「了解。聞こうか」
斯くして、それが彼の平常運転。
自分の思考の範疇にない〝お上〟は勝手にやりやがれとばかり、疑念も諦念も無視して究極的な淡々マイペース。だからこそ『常識的な変人』こと【犬笛】は、序列を下った後も変わらず北陣営の参謀で在り続ける。
純粋な知略と忠誠で主を助ける【侍女】とは、また違った方向性。
仮想世界の誰より畏れ知らず────そんな冗談めかした事実を評判とするハギは、やはり他陣営の一位および二位を前にしても表情を暢気に据えたまま。
「百万ポイントで、一時間。俺たちは〝時間〟を購入できるようです」
未知なる舞台の新たな理を、実に無感動な様子で告げてのけた。
出番メッチャクチャ少ないけどハギさん好きよ。
相棒のジンさんだけに基本辛辣で口悪いとことか特に好き。




