指令遂行休憩中
……とはいえ、今はバラバラと攻めてくる〝敵〟を蹴散らすのみの安定期。
もとい、やりたい放題砲台の最終試験的な本番本格運用中。この後の展開は薄っすら察せられるところだが、今暫く『思い切り動く』までの間があるのだろう。
然して現状共有の相互報告を経て、ドヤ顔カグラさんの解説受講も経て、ご苦労そんじゃ暫く適当に休んどけと解放された俺は────
「────っ、ハル!」
「お、戻ってきた。おつかれーい?」
「おう、おつかれ。ただい待゛っ゛」
時間にすれば実際そこまででもないが、感覚的には漸くってな具合。ひとっ飛びで帰還した東陣地にて、可愛い三連星を筆頭とした面々に歓迎されていた。
当然の如く真っ先に俺の飛来に気付いてくれた我が相棒は勿論のこと、まあ赤いのもウザ絡み他おふざけナシなら素直に可愛いもの。当然の権利みたいな顔で飛び付いてきて鳩尾を抉った青いのも心配ってか親愛と労い云々は伝わってくる。
ゆえにこそ生じる問題として『現れて速攻で我らが可愛い三連星に囲まれた』俺に対して同士諸君の嫉妬諸々を含む切なげな視線が飛んで来るわけだが……。
「……ハル?」
「いや、需要は武器にすべしと学んできたので……」
平和的解決手段は今に至り心得ているとばかり、ピカッと全周へ放つは営業スマイル。〝表〟ならば煽りになるムーブも〝裏〟ならファンサ。羨みから微笑みへ視線の色を塗り替えてみせれば、逆にソラからジト目を向けられてしまった。
許して。別に味を占めて弄んでいるつもりはないから。保身だからコレ。
「ハル」
「ん」
────と、こなれてきてしまっている俺などより余程の大問題案件。最早アレコレ実状を宣言しないだけで全世界オンエアでも〝振る舞い〟を自重する気がない様子の自称妹を、機械的に見えるよう意識した影糸グルグル巻きの刑に処しつつ。
呼ばれて振り返れば、そこには一足先に駆けてきたソラたちに続いて歩み寄って来ていたアーシェの姿。こちらは既に実状を宣言してしまっている俺の『お姫様』は、小さく笑みながら余計な言葉なく擦れ違い……。
「……じゃ」
「あぁ」
ほんのり肩を触れ合わせるだけで満足すると、一般人の目に留まらぬ速さで一歩。イスティア陣地を後にして、所定位置こと首脳陣地へ駆けて行った。
…………然らば、
「なんあれ。はよ結婚しろ」
「嫁ですが何か? 感が凄い」
呆れつつニヤつく小みっこ二名に、周囲にて再燃する猛りの焔。なお相棒は今更この程度で一々嫉妬していられないとばかり、気にした風もなくソレまた燃料。
「────はは。見せ付けてくれるねぇ、戦争の真っただ中で」
「……アーシェはともかく、俺は決して故意ではないという弁明をだな」
ジッと横で背景ヅラ。のんびり一幕を観賞していやがった我が友ロッタの、それこそ戦争中には似つかわしくない力の抜けた弄りを受けて。
俺も、ひとまずは力を抜くことにした。
◇◆◇◆◇
「ぁあーはいはいはいオティアちゃんかぁー成程ナルホドね納得ぅ」
「……確かに、敵に回ったら最悪レベルの脅威」
「んで知ってんのかい。……もしや、今回も普通に無知案件だった?」
斯くして、休憩中。
城塞全周に屹立した立派な壁が、直接的な戦場を隔てているという安心感。そして城塞中央部近辺にて、バリバリ轟々ご機嫌に働く『兵器』の頼もしさ。
そんでもって、序列持ちに匹敵する大火力による継続援護を得た数百に上る最精鋭。一般枠とは名ばかりで逸般人の域に在る仲間たちが、持ち回りで防衛に当たっている事実に対する信頼感……諸々を鑑みて、気を抜くに躊躇は要さず。
「いんやぁー? あらしらはアレよ、同業のよしみ?」
「うん。参考にしてただけ」
戦争開幕直後の焼き直し。今度は立派な土塊長城の上部回廊そのヘリにて、ご丁寧に設置されていた同じく土塊製の長椅子に並んで四人。
俺とソラに当然のような顔で引っ付いてきた双翼を連れて、職務を全う中。そうとも。今は『休め』との指令を頂戴している身だからな────と、いうことで。
「同業……参考……? ぇ、アレって、どういうアレ?」
「いやいや、ファンタジー世界の〝アイドル枠〟とかさぁ」
「そのままの意味で、現実世界には存在しない教材だったから」
「あぁー……」
おおよそ三十メートルの高みから、一望できる外周。
彼方へ続く地平を疎らに染める〝敵〟の小波が迫り来る様、またソレらを危なげなく迎え撃ち処理していく味方の勇士たちを見守りながら。
駄弁る話題は自然、今に関するモノへと流れていた。
「ゆうて〝千憶〟に関しちゃ『アイドル』扱いでファンが付くヒト以外も人気面子ばっかだし、お兄さん以外にも知らない人いっぱい居ると思うよ。へーきへーき」
「アイドル適性がある人気枠だけでも、百人以上いるから、ね」
つまりは直近。俺が切り札を惜しまず撃退した〝千憶〟様についての勉強へと。
「そりゃ安心……で、結局どういう能力持ちだったんだアレ。教えてくれ」
然して、ミィナが「成程」だの「納得」だの言っていたということは、知っているのは『人気』だけではないのだろう。遠慮せず突っ込んで聞いてみれば、
「んまぁ、テト君に近いよね。存在が消えてるレベルの超隠密。……というか」
「オティアちゃんのアレは、実際に存在を消してる説が濃厚な反則能力」
例によっての二人掛かり。返ってきたのは、首を傾げて然りの答えであった。
「実際に……」
「消えてる……?」
然らば、顔を見合わせる俺とソラ。なにを言ってんだと純粋な疑問が半分、そして「あぁ聞きたくねぇ」と続く解説の内容を想像しての嫌な予感が半分。
総合すれば、聞きたくないが状況的に敵対するに当たっては聞いとかなきゃダメ案件。小さく溜息を零し合いながら視線で先を促せば……。
「〝千憶〟のヒトたちってさぁ、基本的に神出鬼没じゃん?」
「呼んでもないのに現れる時は、いきなり忽然と唐突に湧き出すことが多い」
「んで片手で数えられるくらいだけど、ギリ曖昧に登場の様子を感覚の端っこで捉えられた気がしないでもないですーみたいな例はあってさぁ」
「その情報を元に進められた考察。〝千憶〟NPCは固有空間を所有してる」
「まあ、何処にでも繋がるクランホームみたいなアレじゃねって推論ね。そういうポケットディメンションを自由自在に使えるから、基本的に居場所が掴めないし」
「基本的に、いつも何処から来たのか全然わからない」
任せろとばかり、始まったのは再び怒涛の二人語り。
「っていう説が、まあ今の主流なんだけど……これは、流石に知ってたっしょ?」
「あぁ、まあ」
「私も、はい」
そんで、差し込まれたミィナの確認に首肯を返す間がありつつ。
「んじゃ、後は簡単。オティアちゃんはね、ソレを扱う制限が無い子なんよ」
続けてミィナが断じたものこそ、この勉強会の結論なのだろう。
「姿を現すとこも姿を消すとこも観測できないって、つまりプレイヤーに『見られてはいけない』か『見られていると使用不能』な類の能力云々ってことじゃん?」
「でも、オティアちゃんは人前でも堂々と消えるし現れる」
「つまり、二択は『見られていると使用不能』ってことだよねって流れからの」
「彼女は『特別』……あるいは、神出鬼没の『原典』────っていう説」
……然して、
「はぁー……」
俺と同じく知らない事柄だったのだろう。素直に感心の声音を零すソラの隣。
────なんだよ、それ、クッソ……!
「………………」
黙る俺が脳裏に明々と描くのは、退場時に向けられた恨みがましい視線。
いや、まさか。話を聞くに〝千憶〟NPCとは誰も彼もが特別な集団。決して彼女が『特別な特別』ってわけでもないのだろうと、冷静かつ合理的に。
漠然とした嫌な予感から、静かに目を離そうとする俺の耳へ────
「あ、ちなみにだけどオティアちゃんってさぁ」
「お兄さんが、お世話になったヒトの関係者でもある、よ」
飛び込む〝追加情報〟が、どうやら忘却の択を許さないようで。
なんか、そんな気がしたんだよなぁとか。こういう時って大体のこと、何かしらの〝縁〟が絡んできやがるんだよなぁとか。経験則に則り、諦観を胸に。
「…………関係者?」
問えば、明快。
「「セプトラさんの妹」」
なんそれと言うしかない繋がりが、俺の頭に『今後』を植え付けた。
兄妹どちらも容赦ナシの初見殺しで封殺した男、縁が繋がれていないはずもなく。
伏線でもないけど髪色が同じ水色系だったね。




