非現実的現実兵器
────酷く今更な『おさらい』になるが、アルカディアにおいて遠距離武器とは不遇の代名詞。基本的にプレイヤー本人の超人的能力を〝威力〟として活かしづらいがため、下手をすれば投石の方がマシとさえ言われる可哀想な扱いである。
弓だろうが銃だろうが、何かしらの矢玉を用意した上で間に機構を挟み込み投射する。そして、その挟み込まれる機構が基本的に人力を凌駕できないのが問題点。
剣でも槍でも鈍器でも、プレイヤーが直接的に握って振るうことで全ての力を集約する『端末』足り得る近接武器には絶対に及ばない。そして様々な観点から『矢玉』では刹那的かつ万能の代価手段……もとい上位互換となる『魔法』に劣る。
そうしたファンタジー的に形を成した非現実的実在理論を理由として、仮想世界で遠距離武装を運用するのは基本的に〝趣味〟とされてきたのだ。
勿論、何度でも『基本的には』という注釈は付く。
実際に俺が……現【星架】が【曲芸師】時代より堂々と活躍の場を与えまくった【紅玉兎の緋紉銃】の大暴れ以降、趣味人たちに火が着いたらしい。
魔力を籠めることで成長し、蓄魔力の密度に応じた出力で推進飛翔する性質があり、更にはキッカケを与えることで火を灯し盛大に炸裂する【紅玉兎の魔煌角】。
そんな、まさしく【紅玉の弾丸兎】の名に相応しき素材こそ技術開花の要。
挙げ切ることができないほどの難点や扱い辛さは無視できないが、仮にポジティブな面だけに注視するのであれば『理想的な弾頭素材』としか言えない夢の代物。そんな選択肢を掲げられた技術者たちが、手を伸ばさないわけがない。
────そして、如何なる世界だろうと如何なる時代だろうと数多に等しく備わる難題。即ち『小型化』に拘らないと予め妥協点を設定して臨むのであれば。
曲芸師が当然のような顔で馬鹿反動にぶっ飛ばされながら乱射しているアレのように、携帯性と破壊力を両取りする欲張り仕様を放棄するのであれば……。
「────ドラグーン……ねぇ」
アルカディアの魔工師たちにとって、怪物製作は不可能案件ではないらしい。
自立型移動式拠点防衛迫撃城塞闊歩砲とかなんとか思わず口に出したくなってしまう怒涛の羅列文をカグラさんはスラスラ宣っていたが、まあ大体その通り。
ガションガション……どころではなく。
ガゴシャーン────!!! ガゴシャーン────!!! などと馬鹿とんでもねぇ駆動音を地鳴りと共に響かせながら、かの『怪物』は確かに闊歩している。
……しかしながら、それは今のところ歩くために歩いているのではなく、
「うーん…………いいのか? プレイヤーが〝あんなの〟作れちまって」
「身一つの〝あんなの以上〟が言ってりゃ世話ぁないさね」
甚大な起動音さえ、掻き消すような大轟音。
四本足の背に搭載した巨大な『砲』から放たれる深紅の砲弾を、空の彼方へと撃ち上げた後。莫大な反動を殺すため機械的に行われる精密な後退りおよび射後の位置調整────つまるところ、歩くための歩行ではなく、
機体にも足場にも無理を掛けず連続砲撃を成し得るための、義務的闊歩だ。
成程、成程────そういうわけで、ドラグーン。
改めて、大地を踏み砕く脚部は四本。四足歩行と表すよりか『四つん這い』に近いシルエットだが、それでもなお見上げるレベルの全高おおよそ十メートル弱。
脚幅も丸太どころではなく、小さな家程度なら一踏みで潰せるであろうサイズ。つまりソレらに支えられ持ち上がっている本体部分も同様のアホなスケール感だ。
デカいが全体的に見ると平坦な造形、端的に表すと『頭と尾の無い鰐』のよう。
ともすれば間抜けた造形に見えなくもないが……その圧倒的な質量感および、馬鹿げた巨体を稼働させ得る関節など機構部の説得力が、生み出す感想は一つ。
「ちょっと流石にカッケェなぁ……」
武骨なロボットの類には特段食指が動かないタイプの男子とて、迫力だけで問答無用そう言わされてしまうレベルの格好良さ、凄まじさ。
加えて、ドラグーン────幻想生物ではなく騎馬兵あるいは騎竜兵という名称相応しく、実際そちらが〝本体〟なのであろう背負った『砲』こそ超ヤバイ。
眺めている間に、姿勢制御および砲撃地点調整からの、次射。
再びの轟音、そして巨大な深紅が飛翔して……────着弾。城塞の外側遠方にて煌光が瞬き、俺にとっては見慣れた魔砲の連鎖爆発が見慣れぬ規模で炸裂する。
メチャクチャ、である。
あんなもん仮にプレイヤーが自力で撃とうとすれば、反動で容易く消し炭になるだろう。超巨大質量の踏ん張りなくしては撃ち放てない、アレはそういうものだ。
……然して、
「ふっふん……! まあ砲威力と時限局地的な運用に関しちゃ、試作とはいえアレで完成品レベルさね。アンタの【紅玉兎の緋紉銃】の超スケール汎用版を組み込んであるから『弾込め』はコンソールに触れて魔力を籠めるだけでいいし、整備士を兼任する魔工師を操縦士や砲主として乗り込ませれば砲撃ごとに修理するだけで耐久性も強引にクリアできる。勿論、可動費用も砲弾費用も、普通に運用するんであれば不可能に近い馬鹿食いオバケだけど────御覧の通り、問題ない」
口にせずとも、俺たちが呆れ返ると共に滲ませていた称賛の表情は読み取っていただろう。実物を見て度肝を抜かれた『観客』の反応に上機嫌なカグラさんが、
「一ヶ月も準備期間を寄越してくれるんなら、基部の心臓を含めて魔力満タン充填済みのパーツを幾らでも用意して持ちこみゃいい。二十四時間稼働も可能さね」
自信満々得意気に宣言する事実に、こちらとしてはHAHAと引き気味に笑うしかない。────いや本当に、こんなもん作れちまっていいのかよってな具合にな。
アレの……──眺める内に更なる次射を放ち、城塞の外側で迫り来ているという〝敵〟を吹き飛ばしている戦術機械の何がヤバいかといえば存在自体。
先程カグラさんが言った通り、ぶっちゃけ『序列持ち級』なら似たようなことは単身で叶えられる。アレ以上の威力を、アレと比べて遥かに少ないリソースで、アレの稼働よりも極めて小回りよく戦場の何処へでも届けられる。
しかし、現実世界の武器や兵器と同じこと。
ご機嫌な【遊火人】様が言うに、今アレに搭乗して動かしているのは自ら修理作業も行える魔工師パイロット。即ち、本来は戦闘能力を持たない無力な者たち。
そんな彼らが、重ねて『序列持ち』に匹敵する火力を扱っているのである。
……それは、つまり、
「────どうだい。これでアンタらも、幾らか安心して戦えるだろう?」
明確には及ばない威力とはいえ、多大なリソースを喰うとはいえ、小回りでは全く太刀打ちできないとはいえ……誰でも、特記戦力の真似事が叶うということ。
正確には一射ごとの並行修理を要するため搭乗員は魔工師が望ましいが、そんな制限は些細なもの。カグラさんが笑んだ通り、その事実は揺らがない。
大火力制圧という俺たちが最も要される『替えが利かない』はずの役割を、仮に俺たち全員が倒れようともアレが残る限り〝誰かが〟代行できる。
その事実が齎す戦果は、言わずもがな代え難い。
「っは…………まあ、そうっすねぇ……」
「ふふ……そうですね。心置きなく、とまで軽んじるべきではないのでしょうが」
ここから、より一層。
普段に増して『慎重』を心に留めていた特記戦力が、自由に────
思い切り、動けるようになったということだから。
なおカグラさんが代表して持ち込んだ『心臓』に一ヶ月掛かりで籠められた魔力は、一般的なMID偏重ビルドプレイヤー基準値をMID:500として約三千人分。
そしてカグラさん以外の複数名が持ち込んだ『砲芯』つまり蓄魔力を消費して魔煌砲弾を生成、砲射する超特大オバケ【紅玉兎の緋紉銃】には一つにつき約千人分のMPが籠められており、そのストックが文字通り幾つも後に控えているそうです。
準備期間しっかり有効に活用していて偉いね。




