戦局安定進行中
「休んでる暇、なさそうっすねぇ……」
「そのようです……!」
斯くして、解けた黒翼領域より戦場へと舞い戻った俺たちは……。
「────とはいえ何がどうなってんですコレぇッ!?」
「────私に問われましても……!!!」
おおよそ十分、ほんの十分、されど十分を経て、あまりにも様変わりしてしまった戦場の真っ只中。見渡しゃ即座にツッコミどころしかない、むしろ本当に十分前と同じ戦場かと疑うレベル、三百六十度『なにそれ知らん』で満たされた最中。
避け得ず道理。肩を寄せ合い、互いに困惑を叫び交わした。
由は重ねて周囲……全周から届けられる、賑やかどころではない盛大な戦音。城塞中心部付近からキロ単位遠方、城塞壁の外側から響く撃音数多。
然して、その全周を見渡そうと首を振れば常に視界へ飛び込んでくる馬鹿げた規模の〝壁〟もとい途切れぬ長城。なんすかアレ高さ三十メートルはありますけどもってな具合に余裕でドン引き案件だが、それよりなにより────
『おう、戻ったか二人共』
────っと、生還から慌ただしく混乱と動揺に浸けられ、状況把握の必要性に揃って脚を駆りかけた折。頭に届いた【総大将】の声音が……。
『とりあえず、指揮所に来い。ちゃちゃっと何があったか報告してくれや』
「お、おう……?」
「…………あら……?」
思いの外、と言っていいのやら。
なんというか至極冷静かつ焦燥を欠いていたものだから、思わず顔を見合わせた俺たちは『それよりなにより』の冗談みたいな光景を再び眺めた後。
「………………行きましょか?」
「は、はい」
精神的疲労を押して再燃させようとした意気に……水を差されたとは言わないが、まあ落ち着けと待ったを掛けられた形。
場に即したテンションを上手く見つけられないまま、駆け足移動を開始した。
◇◆◇◆◇
そして、到着した首脳陣地にて。
「とまあ、大体そんな感じよ。交戦再開は、お前さんらが戻る二分前くらいだな」
「はぇー……」
俺は、先に届いた念話の声音通り。落ち着き払った様子で指揮官椅子に座すゴッサンより、それはそれは丁寧な現状説明を受けていた。
それ即ち、賑やかに見えた今に思いもよらず余裕が……それはもう、読み取り違いでなければ今戦争が始まってから最も言えるほど余裕があることの証左。
「【城主】の嬢ちゃん主導の『築城』は見ての通り無事完成。そんでもって防衛装置も漸く……まあ、一機だけだが拵えられて稼働中だ。状況は悪くねぇ」
「ほぁー……」
────とのことで。
舞い戻った戦場は職人および大規模建築オタクの尽力もあり、ひとまずの安定に突入した模様。それはもう、間の抜けた相槌を打とうが叱られない程度には。
「……外で、攻めてきている新たな〝敵襲〟と言うのは?」
然して、俺と同じく多少ポカンとしつつも間抜けというより穏やか寄り。
ういさんが追加情報を求めれば、
「あぁ、またエネミー群団だ。つっても最初みてぇな行儀の良い感じとは言えねぇ、やたらめったらの混成部隊がバラバラと押し寄せてる形だがな」
ゴッサンは、やはり冷静。その語り口から至極わかりやすく『脅威度』の共有も成しつつ……しかし、声音はともかく初めから今まで表情は確か。
「んじゃ、そっちの番だぜ。とりあえず聞かせろ────顛末を、詳細に、だ」
間違ってはいけない、あくまで冷静。落ち着いてはいるが決して余裕に油断はしていないと察せられる顔で、並べられた指揮官席の一角。
会話を任せながらも居合わせる四陣営指揮官を代表するまま、俺たちに問うた。
まだ細かいことは聞けていないが、ゴッサン含めて誰も……カグラさんもヘレナさんもジンさんも口を出さないということは今、特筆して俺たちに伝えるべきことはないということなのだろう。相変わらず困惑しつつも、その程度は察せられる。
となれば、相棒は元気にしてますかなんて個人的な質問は一時保留。
「了解。────では我が師よ。顛末を詳細に、どうぞ」
「ぇっ……ぁ、承知しました」
ゆうて借り物の〝力〟を用いて割り込み救助に入っただけの俺は横に避け、結局のとこ何がどうなってピンチに陥ったのか不明な【剣聖】様に報告の場を譲った。
斯くして、
「では、うい様。可能な限り簡潔に〝遭遇〟からの流れを説明願います」
「はい。では……まず始め。恥ずかしながら予感を活かすまでは成し得ず、気配や前兆を全く読み取れないまま不意打ちを頂戴しまして……────」
ゴッサンから応対を引き継いだヘレナさんの導入に従い、つらつら粛々と……【剣聖】様なりに簡潔かつ最大級の迅速、ういさんが顛末を語り出した。
際して、隣で俺も大人しく傾聴。
お師匠様が気配も殺気も前触れも感知できなかったて、どういうアレだったんだ件の哀れな呪術師ライク〝千憶〟少女様は、とか。そんで例の状況把握を困難にしていた土煙、ういさん自身が咄嗟に返した『見えず触れられない相手への対応策』だったんすね、とか。でも残念ながら無意味で結果として自分と味方の視界を塞ぐだけになっちゃったんすね、とか。畏れながら一生懸命と思しき迅速報告がアルカディア穏やか代表全一の口調も相まって無限に和んでしまいます勘弁してください我が師よ、とかとか────なんだろう、ツッコミどころは多々あるが……。
「────……【剣聖】の勘でも察知不能。【不死】に匹敵するであろう完全な隠密の……あるいは、非実体化の術。そして、呪術師めいた装い、と」
重ねて大人しく口にチャックをする俺を他所に、ういさんの報告を受けて回る思考が四つ……中でも、先行するのが察するに二つ。
おそらく多少の差はあれど道を同じくして推測を進める『父』とアイコンタクトを交わしつつ、モノクルに指を添えた『娘』が淡々と言葉を並べ、
「明るい青の結髪、灰色の瞳、少女……────〝千憶〟のオティア様、ですね」
「だな。そんなメチャクチャ流石に何人も居ねぇ、間違いねぇだろ」
ういさんも俺も知らなかった〝敵〟の名を、当たり前のように看破してみせた。
「ほぉーん……?」
「おてぃあ、さん。ですか……」
然して、これに関しては別に俺たちが勉強不足を恥じる必要はナシ。〝千憶〟は確認されている者だけでも千人超、隅々まで記憶している者の方が稀。
有名どころだけピックアップしようとしても、彼ら英傑NPCは誰も彼もが癖アリかつ特筆すべき一芸を持つ者ばかり。漏れなく全員有名にて要勉強範囲が馬鹿げており、俺も最近ちょいちょい暇を見つけて情報を漁っているがマジ途方もない。
ピンポイントで一人を即座に特定するとか、基本的に冗談抜きでアホの領域だ。
つまりゴッサンはアホ。ヘレナさんは流石の【侍女】様────
「〝斥候〟特化の英傑であり、隠す、あるいは隠れることに関して他の追随を許さない人物です。もし仮にハル様がテトラ君の『語手武装』を借り受けられる状況になければ……危うかった。万が一が有り得た、かもしれませんね」
「あぁ。自爆といい、奴さんら本気だな。やっぱプレイヤーとは違げぇぞ根本が」
「「…………自爆???」」
ともあれ、なんか意味深に考察を深めているらしき二人の様子を見れば、報告が実になったのを察するは容易い。ういさんと一緒に首を傾げつつ、まあ理解は追々で構わないだろうと正しい意味で適当に構える俺は……まあ、その、なんだ。
流石に、そろそろ、いいですかと、ばかり。
「…………ぁー、ゴホン。────その、カグラさん?」
もう流石に、興味やら、呆れやら、好奇心やらを、押さえとくのは限界ですよとばかり。手を上げ断り我が専属魔工師殿へ目を向ければ────返されたのは、
「うん?」
わざとらしく惚けるような仕草および、会心のニヤリ。
────ほら見ろ、知ってた。絶ッッッッッ対ぇこの人の仕業だと思った。そんで俺が間抜け面で質問するのを今か今かと待ち望んでたんだろ知ッッッてる。
さて、それでは望み通り、満を持して問わせていただこうか。
「アレ、なに……?」
アレは……────あの、世界観に至極そぐわない〝怪物〟は一体全体なんなのか、と。事前ミーティングで仄めかしていた『お楽しみ』ってやつですか、と。
「ふふん……!」
斯くして、ご機嫌。
ほんのりキャラ崩壊ってか素が滲み出てますよとか呑み込みつつ、腕組みをしながら実に得意気に笑みを作る愉快な姐御を見守れば……その口から飛び出すは、
「────自立型移動式拠点防衛迫撃城塞闊歩砲」
「なんて???」
「じりつ、はくげき……か、っぽ…………?」
「その名も…………──【試作八式:人造火竜車】さね……‼︎」
「なんて?????」
「どら……???」
自信満々。
恥など知らぬ掛かってこいとばかり、堂々と宣われしロマンの名であった。
楽しそうで何よりです姐さん。
ドヤ顔オンエアされてますが大丈夫ですか姐さん。
自立型どら何たらの詳細は次話。




