享楽者たちの宴
そうして、やらかす当人たちを除けば誰もが呆れ返るような勢いで馬鹿げたサイズの長城壁が構築されていくが……勘違いしてはいけない事実が一つ。
アレは、正しい意味での〝職人技〟ではないということ。
多少なり西の職人も混じってはいるが、重ねて〝築城〟に参加しているのは『土魔法士』であって『魔工師』に非ず。言うなれば【城主】に頭を垂れる巨大建築オタクたちでしかない────つまるところ西陣営にとっての本気、
本領は、ここから。
「────改めて、各設備建設の指揮取りは任せるよ爺さん」
『ほいほい。改めて気張るよカグラちゃん』
見上げるほどに立派、そして笑えるほどに都合がいい。
内側は第一城塞壁、更に外側は第二城塞壁こと不壊の金剛壁に挟まれ堅牢な三層構造となった城壁は、言わずもがな中央を埋めた大部分が〝土〟製。
即ち脆い……わけではなく、むしろ逆。ほぼ全てが土で構成されているという極めて単純な『製品』は、裏を返せば破損に際して要する修復作業も事情が同じ。
一流の魔工師が事に当たれば、たとえ大きく抉られたとて手直しは容易にて。
瞬時かつ僅かなリソースによって穴埋めが叶う、ある意味で『硬い城壁』よりも難攻不落な『柔らかな城壁』として、いつまでも機能するのだ。
然して、そんなヒトの手ある限り無尽無朽の壁が全周を覆うというのであれば。
「さぁて……守りはアレで十二分。あとは……」
あとは、それ以外に注力して造るだけ。
そして当然のこと。ありとあらゆる状況を想定して、戦争開幕へ至るまでに協議および用意された要製造品カタログは全魔工師たちの頭に入っている。
そして、当然のこと。その中には勿論、
「好き勝手、やらせてもらうとしようかねぇ……!」
西陣営指揮官代理こと【遊火人】考案。馬鹿げた速度で雪崩れ建ってゆく巨大長城に引けを取らない、確かな技術を要する馬鹿げた〝遊び心〟も含まれている。
「────カグラ姉さーん……っ!!!」
「素材ぃっ……! 持ってきましたよぉぃっ…………!」
「げほっごぼっ……と、遠かった……! 無駄に、広いッ……‼︎」
「魔工師の運動不足ナメないでいただきたいよねぇっ……!?」
斯くして、首脳陣地付近。
到着するは、それぞれのインベントリ満杯に『素材』……プレイヤー側の手で打倒せしめた〝千憶〟二人分の報酬であろう大量のポイントを豪快に使い取り寄せた、大量の『鋼材』を詰め込み抱えるまま必死に駆けてきた作業助手たち。
名を呼ぶ一声目を上げた元十席【百発屋】を始めとして、カグラが選抜し呼び寄せた彼らは基本的にカグラの同類。つまるところ、享楽者仲間。
面白いモノを造り上げるに、相応しい助手たちである。
────然らば、と。
陣地内から歩み出ながら、物言わず「ようやく楽しくなってきた」とばかり。口端を持ち上げるまま視線で彼らを歓迎した【遊火人】が放り出すのは……。
ドゴン────地に深々めり込み豪快に衝撃を鳴らす、インベントリに押し込めてきた唯一かつ巨大な持ち込み素材……もとい、持ち込み部品。
重量おおよそ1トン強。即ち荷重削減アイテムなど諸々を考慮に入れた上で、一人のプレイヤーが懐に納めるのを許される限界ギリギリの上限容量品。
部品時点でのアイテム名称は、その名も【轟塵心臓機関】。
デビュー初期の誰かさんたちとは因縁深いシークレットレイドボス……つまり、東陣営チュートリアルエリア【流転砂の大空洞】に生まれる龍姿の化身。
無尽の砂を自在に巻き上げ侍らす〝風〟を統べし【砂塵の落とし子】の心臓を用いて造られた、超馬力どころか超龍力。発電ならぬ発風エンジンである。
…………さて、
四年と少しが経過した『ゲームとしてのアルカディア歴』において、プレイヤーの欲した『動力』の開発研究は難航を極めてきた。それは【星屑獣】という健気な働き手を望めるようになった今とて変わっておらず、小型化は依然としての難題。
けれども、やはり裏を返せば、小型化しなくて良いのなら。
どれだけ大型化しても良いと割り切るのであれば、動力も……そして、ソレを用いた工芸品も。ただ一つ『空を飛ぶという』神様が赦さぬ道を避けるのであれば。
「────んじゃ、造るよアンタらぁ! お楽しみの時間さねッ!」
「待ってましたぁ!」
「ついてきます姉さんっ!」
「わーい!」
「ちょっと一服……してる暇は無いかぁ……!」
娯楽品では済まない、機械仕掛けの大怪物。
そんな楽しげな設計図とて、当然のこと無数に存在するのである。
姐さんが楽しそうで何よりです。
ちなみに空を飛ぼうとすると動力の要求魔力が莫大になり過ぎて必要な燃料、つまり電池として詰め込むプレイヤーの必要人数が際限なく飽和⇒重量増加により要求動力も増加⇒要求魔力増加⇒重量増加の無限ループで理論が破綻するそうです。
ままならないね。




