築城
黎明の頃。まだプレイヤーが能力にも知識にも乏しかった最初期の頃から既に、アルカディアにおける『建築』の効率化事情は現実世界を軽く凌駕していた。
然しながら、反して規模でいえば現実世界のソレに遠く及ばなかった。
なぜかといえば話は単純。純ファンタジー的な世界に高層ビル群など求められていなかったという情緒的な理由および、手間と必要性の反比例である。
仮想世界は、基本的に物置場所を必要としない。
プレイヤー全員が備える『異次元ポケット』を代表として、素材だろうと消耗品だろうと装備品だろうと何であろうと、亜空間収納という究極の利便性を誇る手段がシステムによって最初から用意されていたゆえのことである。
加えて加速度的に様々な超人的能力を獲得していったプレイヤーは、例外なく一人一人が数多くの特技を身一つに宿し得る万能器のようなもの。
重機も、何も、基本的には必要ない。
だからこそ、個人的な趣味などを除いて建築製作界隈で〝大型化〟は流行らなかった。精々がランドマークとして、大規模ギルドが盛大な拠点を建てた程度。
そういった流れが続くことで、アルカディアにおいて『建築』は……少なくとも【星空の棲まう楽園】という様々な意味でブレイクスルーを起こしたイベントが到来するまで、それほど注目されることのないニッチな業界として見られていた。
────だがしかし、決して捨て置かれていたわけではない。
重ねて、個人的趣味で大規模建築を嗜んでいた者たちは少数……けれども実際の人口を数字に表せば優に千人規模は存在しており、業界も確かに密やかに在った。
然して、細々とではあるが、
間違いなく黎明から存在していた、大規模建造物愛好家たちにとって────
「ぁふ………………んぁい、じゃ……始めょぉー…………」
「「「「「おっしゃらぁッ‼︎ 我らが〝姫〟の仰せのままにぃッ!!!」」」」」
仮想世界に親しむ数多の者たちが【剣ノ女王】に紐付ける『お姫様』という称号は、アイリスことアリシア・ホワイトに近しい別なる少女を指す渾名だ。
囁きよりも頼りなく、そよ風よりも力なく、数メートルと距離を飛ばずに弱々しく……やる気なさげに虚空へ溶ける寝惚けた声音もなんのその。
数ある〝土魔法士〟たち────ド派手な土遊びに秀でる、魔法共通の『寿命』という制約さえなければ誰より建築に向いていたはずの者たちの最中。
在る力を夢に活かせず、涙を呑んだ思い出は一度や二度ではない────そんな重症オタクたちは、ある時に突如として現れた彼らの〝姫〟……もとい、
〝神〟の号令を、聞き逃さず。
「「「「「《クレイアート・クリエイション》ァッ!!!!!」」」」」
一斉に叫び放つは、土属性魔法の基礎にして秘奥。
属性適性ツリーの不可視内在熟練度に応じて無限に操作可能規模を増していく、究極の初期魔法を思いのままに解放した。────然して、次の瞬間。
第一城塞壁面の外周にて。数十と整列した仮想世界トップの土魔法士連隊が、両手を叩き付けた大地が鳴動、拍動。刹那を置いて爆発するは土流の高波。
「モデルケースはぁッ……────‼︎」
そして、列に混じる名持ちが一人。かつて【楼閣】という称号をシステムより賜り、西の序列に名を連ねた一人の男が満面の笑みで叫ぶ音頭に、
「「「「「────我らが希望ゥッッッ!!!!!」」」」」
一糸乱れず相乗りする総員が、土塊の奔流にて〝好き〟を描く。
そして、まさしく怒涛にして土濤の勢い。
いざ『造る』と決めて力を振るうのであれば、何人たりとも「仮想世界の建築って基本かわいいサイズ感だよね」などと寝惚けたことは言わせない派手の極地。
せり上がり波打ち迸る大地が、形作るは〝城〟の様。それ即ち、彼らが姫と仰ぐ【城主】メイの魂依器【白亜と黒樹と御伽の城】を模す果てしない土塊の長城。
斯くして、外周の外周に今なお姿を残す金剛の第二城塞壁……極めて例外的な長期残留可能魔法物こと《斯く輝くは金剛の地平》の輝きと、第一城塞壁の間。
その溝を流れる水瀑布が如く、数十名の最高位土魔法士たちの魔力と想像と夢想が確かな〝形となって〟駆け巡り────それら、全て。
下手をすれば数秒で崩れ去ってしまう、土塊もとい砂上の楼閣を。
「んぃ……それ、じゃ…………────《眷属化》ぁ……」
『城』の主が、世界に赦された権限を以って招き入れる。
第六階梯魂依器【白亜と黒樹と御伽の城】が備えるオマケ能力にして、滅多に使われることのない【城主】本人曰くの別に要らない謎能力。
その名も《眷属化》が齎す結果は、主が『城』の一部と認めた建造物体の固定化。つまり、彼女が手を入れた魔法建築は理を蹴飛ばして時を亘る権利を得る。
即ち……────果たして、僅か百秒足らずの大工事。
「嗚呼……ッ! 感゛涙゛ッッッ……‼︎」
「見さらせ世界……これが、馬鹿デカ建造物だ…………!」
「我が生涯に、おおよそ悔い無し……ッ!」
「一生ついていきます城主様ぁ……!!!」
「コレが造りたかったんだよなぁ俺はなぁ…………‼︎」
「爺ちゃん見てるか……俺、夢を叶えたよ……!」
「巨大建築バンザイッ!!! 巨大建築バンザイッッッ!!!!!」
口々に大袈裟な感動を振り撒き狂乱する厄介野郎ども。そして、
「んぅ……うる、さ…………早……く、次ぃ……北…………」
「ちょ、寝ないでくださいよ行きますから! お連れしますから今すぐに……!」
自分で成した大事を他人事めいて見向きもせず、常の浮遊寝台に代わり小さな身体を預けたカナタの腕中。船を漕ぎ始めた【城主】を他所に────
広大かつ長大な面積を駆け巡り建った高さ三十メートル余りの長城が、まずは一画。城塞外周の四分の一を一息に埋めて、堂々と戦場に根を下ろした。
これは防具カテゴリ非公式ランキングぶっちぎり1位ですわ。
…………………………防、具……?




