Tips
仮想世界における理の常として、如何なる魔法も寿命を持つというものがある。
つまり、アルカディアには『永遠に続く魔法』の存在が許されていないということ。例外なく、ありとあらゆる魔法には〝終わり〟が付随するということ。
火であれば掻き消え、水であれば霧散し、風であれば解けて、土であれば還る。
数多の属性に例外ナシ。プレイヤーが操る全ての魔法は、司る現象に応じた結果を世界へ刻んだ後に跡形もなく掻き消えてしまう。
────では、魔工は?
仮想世界において魔工師が振るう『魔法』そのもの。《魔工》スキルによって生み出された作品等も、同じく時を以って泡沫と消えるのか?
────答えは、基本的にNO。
人か、あるいはヒトか。
プレイヤーの手によるものか、あるいはNPCの手によるものか。どちらでも問わず、魔工によって生み出された魔法の品は時限消滅の魔法則に囚われない。
何故かと問えば、いまだ答えられる人は存在しない。けれども推測に留めるのであれば、唯一存在する《魔工》スキルの確たる特異点を挙げることは容易い。
魔工とは、厳密には魔〝術〟工芸。
アルカディアにおける『スキル』の中で、ただ一つ。世界からではなくNPCから贈られた力────プレイヤーの扱う『魔法』とは、異なる理の結晶。
魔を識り術を以って法を穿つ、魔法ならざる『魔術』の一種であると。
重ねて、人……プレイヤー側に在る情報だけでは推測や妄想の域を出ない仮定事実。けれども事実は事実として、誰もが恩恵に与る内に語るまでもない当然として、時間と共に馴染み浸透していった仮想世界の常識が一つ。
多くの場合『耐久値』という形に姿を変えた寿命は在るものの、プレイヤーが魔法によって生み出す幻想物質と魔工によるソレの存在強度は比較にならない。
つまるところ、両者は似て非なる別物。
魔力……──『MP』という形で数値化された概念リソースおよび『万能触媒』を同じく用いながらも、おそらくは根底からして別枝の存在であるとの考察が主流。
魔法とは、時間に囚われるが刹那的かつ強大な奇跡。
魔術とは、制約に囚われるが恒常を望める安定的な技巧。
即ち一長一短。即座に大事を成せる魔法は爪痕こそ残せるものの形や恩恵を長くは維持できず、魔術は綿密な準備と精緻な技術を要する代わり永く在れる。
さて、要するに────
「────以上が、アルカディアで『土魔法士』が大規模な土木建築工事の最適解になれない理由。有名どころの高位魔法士たちが造る気になれば、一瞬で巨大な城を作ることさえも簡単と言われているけど……まあ、そういうことね」
「なーるほどなぁ。仮に馬鹿デカいもん作ったとしても」
「すぐ崩れちゃうから、意味ないってことかー」
斯くして、とある現実世界の賑やかな一室。和気藹々と盛り上がりを重ね重ねて一時間ほど、何度目か訪れたフェーズの狭間に一服とばかり臨時講義。
戦いは途切れども激動は止まない『戦争』の光景をスクリーン越しに見守りながら、大学生たちは平和に存分に〝好き〟に満ちた時間を満喫するゆえ……。
「んで、ただし例外アリってなわけだな。成程納得のランキング一位だわ」
「うわはぁー……The・ファンタジーじゃんね、なにアレやばば」
「…………知ってはいたけど、実際こうして大々的に権能行使の様子が公開されたのは初……のはず。つまり物凄く貴重な映像。これは流石に要永久保存」
親しい駄弁りは、時間に囚われることなく止まず消えず。
「……………………────さてと。か、え、で、ちゃーん?」
「────ぇあっ、ふぇ、な、なにっ……?」
「いやぁ……『なに』ってなぁ?」
「楓、スマホ見過ぎ」
「そりゃ気になるのは翔子ちゃんも同じくだけどねぇ?」
「や、ぁ、ちが……わないけど! だ、だって、連絡ないんだもん心配で……!」
じゃれあいもまた同様に、長い夜は続いていく。




