渦中幕間
「────うーわ、やったよマジあの人ほんとマジ」
「手札を増やさなきゃ死ぬ病気なのか……?」
「はいはい平常運転」
「確かに事前通達はされてたけどさぁ……!」
城塞内地。
舞台に顕現した黒翼の球域を仰ぎ眺める者たちから、無数に零れる呆れの声音……然して同時に、それは息つく暇もなく一年間で積み上げられた信と同義。
【曲芸師】改め【星架】が動いたのであれば、やらかしたのであれば、なんとかなる。どうにかこうにか、なってしまう────まさしく呆れるほどの戦果ばかりを残してきたハルだからこそ、描く軌跡は今に至り多くの戦友へ安堵を齎す。
然して、それは群衆ばかりではなく、
「……おし、ういの救出はアイツに任せときゃ大丈夫だろ」
その頂に並ぶ、同じ〝星〟に対しても例外ではない。
進化を遂げた第四階梯『魂依器』が爆発的に芸を増したのは、当然のことレイド全体に共有された周知の事実。ゆえに「使え」と指示して迷わず札を切った指揮官は、周囲の声を聞き流しながら躊躇わず見知った無法より視線を切る。
言葉通りだ。あっちは、どうせハルがなんとかする。
ならば今、ゴルドウが意識を向ける戦局の並びからは一抜けして然り────
「カグラ! 西陣地の方はどうだ!」
「あぁ、繋がったよ! ヘレナの予測で当たりだろうさ!」
手綱を掛けるなど論外な自立済み万能駒は好き勝手に暴れさせておくまま、成すべきことは周囲を迅速に挽回させて働き者の負担を可能な限り削るのみ。
「……では、取り急ぎ確定と断じて動くべきでしょうね。念話通信障害の要因は、ロボットではなく新たに現れた〝敵〟────〝千憶〟NPCの存在であると」
「西の誰かさんをハル君が片付けた途端、やもんねぇ。なんかしら俺らの知らへん〝術〟の類か、はたまた懐にでも忍ばせた〝道具〟の類か……」
ゆえに、此処も等しく戦場。若人の活躍に見惚れている暇も呆けている暇もナシ、集う四者は『指揮官』の名を全うするべく口と思考を回し続ける。
フェーズ進行に際して念話の繋がりが途絶えたのは、南を除く陣地三箇所および中央付近……つまり【剣聖】が近くまで機械兵を運んできた首脳陣地の計四箇所。
発信は可能だが、受信が不能。ゴルドウたち四人が念話を飛ばすこと自体は問題なく叶うのだが、通信障害の起きた地点に居る者たちが受け取れない状態にある。
それ以外、広く散らせたプレイヤーたちに関しては問題なく相互通信が生きており、更にハルが〝千憶〟を撃破した途端に西陣地との繋がりが蘇った。
ヘレナが言葉にした確認が、現状ほぼ正解と見ていいだろう。
連携連絡を断つ────軍団戦闘において最も明快な致命策を展開したのは〝敵〟として姿を現した〝千憶〟NPCであり、また彼ら自身が策を成す端末だ。
……で、あれば。
「やるこた変わんねぇ、とにかく早急に────」
〝敵〟を、討つ。
そうと決まれば同一思考で三者三様。既に片が付いている西の立て直し指揮に掛かるカグラを他所に、戦を担当する東南北の指揮官が声の届く兵士を駆り始める、
『ゴルドウ』
……その最中。東の大将と、断絶していた一駒の繋がりが回復した。
「っ、囲炉裏か!」
届いたのは、北陣地へと派遣していた【無双】の声音。
つまりは、そういうことだろう。
然らば名を呼ぶ声を耳にして視線を寄越す北の頭目と首肯を交わしつつ、諸々を判じる大将の頭は不要な言葉を削ぎ落として────
「とにもかくにも情報が足りてねぇ、そっちは〝誰〟だった!」
既に最低限を知っていることが伝わる言葉選びにて、端的迅速に要求を告げる。それ即ち今なによりも必要な敵情分析、お前は誰を斬ったのかと。
どの〝千憶〟が、相手として現れたのかと。
『紫髪の女騎士〝リグレッタ〟とやらだ。すまないが俺は詳しく────』
そうして念話越し、問われた囲炉裏が意図を違わずに淡々と答える。
答えていった、そんな折。
「ッ────────、うぉアッ……!?」
『ッ────────、なんだッ……!?』
男二人、同時の驚倒。
それぞれの居場所から二人同時に首を向けたのは、二人共に元居た場所。
『おいゴルドウ、どうなってる‼︎』
「知ぃらねぇよ! 念話まだ繋がんねぇままだわチクショウッ‼︎」
即ち……空間を轟と揺るがすほどの大雷が地から天へと昇り瞬いた、東。
イスティア陣営、初期地点の方角であった。
※注:指揮官の方々は基本ほぼ常時、複数の部隊長と念話を繋ぎ指示出しや指揮取りを並行しながら『お喋り』をしています。そりゃチクショウとも言いたくなる。
そんなことよりリグレッタお姉様とかいう外面クール系その実プライベートでは微ポンコツな隠れ甘党かつ可愛いもの好き笑顔下手NPC騎士様について語りたい。
語りたいけど、以降本編に改めて登場する可能性が五分なので控えます。
文句があるなら登場する前に退場させた囲炉裏君に言ってください。




