抱く黒翼
第三階梯到達時に俺の魂依器が獲得した『真白ノ追憶』。その名と振る舞いが表す通り、それは真白なキャンバスに描かれた情景の投影能力だ。
なにかと『色持ち』モンスターこと御柱に対する、特別な反応を見せてきた結果。それこそ巷では〝主人公武器〟なんて背中が痒い評価を受けていたりいなかったりする【真白の星剣】だが、その実コイツは生粋の真似っ子である。
主人公というよりは、英雄に憧れて背伸びする子供。
それもまた一つの主人公らしいと言われたら、まあその通りではある────
ともあれ、つまるところ【真白の星剣】……今や懐かしき【白欠の直剣】から始まった我が魂依りの器が備える本質とは、憧れに学ぶこと。
第一階梯、ヒトの身で空を駆けた誰かさんのように。
第二階梯、主の手を離れてもなお主に侍る魔剣のように。
第三階梯……主と共に再戦を遂げた、かの宿敵。久遠を生きた〝竜〟のように。
確かに誕生秘話として『色持ち』の因子が組み込まれはしたが、俺が思うに以降の進化に関して言うほど白剣は神様方の干渉を受けていないはず。俺がそうであったように、まさしく俺の魂の片割れとして相応しく在ったというだけのこと。
然して、第四階梯。
『緑繋』攻略を契機に階梯を上り、拡張された能力の枝葉も、その具現。
真白ノ追憶《緑繋》────誇る権能は、絆を繋いだ者からの能力中継拝受。
陣営、組織、などなど関係性エトセトラ。どれだけ俺との〝繋がり〟が在るかで行使可能な『外部能力』の強度が決定する、言うなれば親愛の輪たる力。
そう、つまりこれは、俺たち自身が持つ力ではなく、
あらゆる空間を飛び越えて、喚び受けた仲間たち自身の〝力〟を振るう権能。
それ即ち……。
「抱け────《黒天の鵬翼》ァッ‼︎」
たとえ『語手武装』の権能であろうと、俺が手にするのは模倣した贋作ではなく原典となる真作の力そのもの。本来の主を除いて決して誰にも扱えないはずの一点物だろうが何だろうが平気で借り受ける、真実ひッッッでぇ反則技だ。
斯くして、今は戦場に在らず。けれども仮想世界に在って『許可』および『出力』の中継送信を行ってくれている後輩一号……【不死】から流れ込む力の奔流。
鍵言を以って解放された黒翼の権能が、虚空から滲み出ては織り重なる無数の羽根が、暗幕となって空間を閉じていく────幕を、下ろしていく。
展開される領域の形は、俺を基点とした真球状。闇が空間を浸食していく速度は、子供でも走れば容易に逃げ切れる程度。……けれども、
「あ゛ぁ゛あ゛……ッ、慣゛れねぇ……‼︎」
力を駆って命を下した俺さえ含めて、黒の領域から逃がれることは叶わない。
鍵言を放つ瞬間より以前。解放すると決めた瞬間から生じる《黒天の鵬翼》……語手武装【真説:黒翼を仰ぐ影布】の効力は、笑えるほどに絶対的。
まるで影を縫い留められたが如く、ピクリとも身体を動かせないまま。俺は眼下の濛々ごと、焦らすような速度で空間を満たす世界に閉じ込められて────
完成するは、真っ暗闇。
然して、ユーザーインターフェースを除き全ての視覚情報が途絶えた瞬間。入れ替わるように戻った身体の自由を迷わず掴み取り、一目散に俺は駆けた。
どこへって、そんなもの。
「っ……! ハ────んむぐッ……!?」
「ごめんなさい失礼します大変ごめんなさい後生です静かに……!!!」
真下。
現場到着以降ずっと捉え続けていた、お師匠様のおわす座標に他ならない。
斯くして、視界ゼロだが寄れば気配は滲み出る。ならば親しく見知った師のサイズ感、諸々おおよその位置を目視以外の感覚で読み取るなんざ朝飯前。
ゆえに、接近から即座に口を塞いでしまう大失礼を働くのもベリーイージー。
向こうも気配で……というか《黒天の鵬翼》を展開した以上は他の誰でもあるはずなく、瞬時に俺と察して名を呼ぼうとした【剣聖】に掛けるは迫真の内緒話。
然らば、とにもかくにも。
「っ……はぁ…………大丈夫です、とりあえず、なんとかはしました。即座に対応されることも有り得ませんから、まずは互いに落ち着きましょう……オーケー?」
視界端。断続的な減少が止まった師のHPバーを確認して安堵の息を零しつつ、万が一を考えて塞いだ彼女の口をそのままに求めるところを矢継ぎ早。
さすれば、ういさんは小さくコクコクと頷いてくれたので……。
「…………ごめんなさい。助かりました、ハル君」
「お気になさらず、何かしらの『初見殺し』だろうとは察してます」
手を離せば、至近。身を寄せて返された小声に頷きつつ、その様子が予想より幾らか平静であることを受けて安堵と余裕を手繰り寄せた。
────ってなわけで、
「ちなみに、何されたのかは……」
「ごめんなさい、全く、わかりません……」
無事、電撃的な安全確保が成ったのを確認。ういさんの『被害』が止まったのが何よりの証左、テトラの《黒天の鵬翼》は間違いなく無法を果たしている。
この領域内に在る限り、遍く者は光および内在する法を失う。
つまりは何も見えないし一切の自前能力が使用不可ということで、更には領域内限定の〝ルール〟で全ての状態が上書きされるため異常の類も持ち込めない。
ゆえに、ういさんが受けていた『被害』が全く何のこっちゃわからないままだとしても、とりあえずの仕切り直しは強引に成立させられたわけだ。
加えて、
「まあ……殺られるのを最悪と考えて、こっからは丁寧にいきましょう」
「心得ました……」
まだまだまだまだ、この借り物の〝力〟を理解しきれちゃいないまでも、数少ない確定事項として今暫くの猶予だけは疑わずに信じられる。内緒話の暇がある。
「…………ちなみにですが、相手方も……?」
「えぇ、間違いなく中に居ます」
この領域は展開に際して『対象』を設定する必要があり、それ即ち行動の束縛を以って能力の必中は揺るがない。そして俺たち同様の〝ルール〟に縛られるわけで……まだ見ぬ相手方は深い困惑と、もしかすれば恐怖の中に没しているだろう。
視覚情報および、能力の全封印。
そして、とある唯一のステータスの異常化など。
「さぁて、それじゃ……」
自ら借り受けて振るうことで、いまだ浅くとも深々と察した無法の語手。その名も【真説:黒翼を仰ぐ影布】が創り出す、無力と恐怖の世界にて────
「ちゃちゃっと、片付けましょうか……!」
「はい……!」
何をしてくるかわからないのであれば、何もさせずに終わらせればヨシPart.2。
理不尽に満ちた狩りを、始めるとしよう。
………………なお、
「とはいえ……その、一体なにをどうすれば」
「……そっすね。まず、ちょっと離れましょう。そんな密着する必要はないので」
「でっ、ですが、本当に何も見えなくて、流石に少し、なんと言いますか……!」
「ぁはい、ほら、あの、コレ。とりあえずコレ掴んでてください俺の片側套」
「しょ、承知しましたっ……」
ういさんは領域内初体験だし、二人乗りは俺も初体験。余裕綽々を気取ってはいるが、行く先は領域と同じく真っ暗闇である事実には目を瞑るものとする。
内在情報量が多過ぎて順番に出しても出しても開示が終わる気がしないバグ。
これだから『語手武装』はどいつもこいつも。




