戦争
「……、…………うん?」
それは、難を退けたと判断した賑いが歓声を以って静けさを塗り潰した頃合いのこと。囲炉裏の制圧報告に続いて、残る一機を師が仕留めてから数十秒後のこと。
遠目にも見惚れて然りの見事な剣を弟子として誇らし気なドヤ顔で見届け、俺が知る初期のパーティ初心者具合を思えば目覚ましい諸々に感動していた折のこと。
俺とて、周囲と同じ。
また一旦は、これで平和期間が訪れるのだろうと、
「……──────────、」
脚を圧し折り、影糸で捕らえ、今は南陣営部隊に拘束を引き継いでもらった機械兵の傍。ほとんど確信に近い想定のまま突っ立っていたものだから。
「……ぁえ?」
誰よりも、俺が驚いていた。
『総員警戒‼︎ まだなにか居やがるぞ‼︎』
おそらくは陣営全体一斉通信、脳内に響き渡ったゴッサンの激よりも早く、
「────………………ふ、ふぇ……、ぇ……」
当然のこと、片腕に抱いて庇った少女の理解も置き去りに……そして、
『 』
ポカンと呆ける【雨音一粒】殿を狙った、姿の見えない何者か。
そいつが振るった同じく見えない何らかの得物を、瞬き一歩。無意識の急行および無意識の抜刀にて、紅の刃を閃かせ打ち払った俺自身に。
響き渡る撃音。
場を満たす空白。
押し寄せる驚きと困惑そして静けさ、その最中で。
覚えのある超感覚に従うまま駆けた己が身を称える暇はなく、腕の中でパチパチと瞳を瞬く少女を気遣う余地もなく……とりあえず、
何に対する思考も、一切合切を、かなぐり捨てて。
「────全員、動くなァッ!!!!!」
これまで数多の〝突発〟に好かれてきた俺の経験が持ち得る最適解を弾き出し、余裕のない命令一喝と共に舞台を〝影糸〟と〝雷糸〟で埋め尽くす。
〝繊奏五行〟縦横無尽広域展開。そしてシステム的にも感覚的にも『身体の延長』として成るソレらより、光瞬き宙を奔る己が属性顕現魔力を全開放出。
即興即応、約五十メートル範囲隙間ナシの物体感知結界。
ジワリと空間に溶け込む〝水〟の方が都合は良かったが……まだギリ《転身》の再使用待機時間中ゆえ仕方なし、奔放に奔り回る〝雷〟でも用は足りる。
────然して、
「………………ぁ、あわ、わ、わ……」
そりゃあ死ぬほどビックリしたどころの話ではないだろう、いきなり駆け付けた……というか彼女視点では瞬時に目前へ現れた男もといバケモノに抱かれたかと思えば、閃き振るわれる刃物に至近で弾けた加減のない撃音という恐怖体験。
ガタガタと腕の中で震える雫ちゃんさんに、まさか「動くなっつってんだろ」なんて暴言を吐き散らすわけもなく、その程度は許容範囲と飲み込み集中に潜る。
なにか動けば、わかる。だが、不動物体まで捕捉するなど俺には無理だ。
身体の延長たる影糸から無数に散る雷が〝なにか〟に遮られたなら、朧気な感覚として意識への情報返還が無いことはない程度。静止状態の物体が相手じゃ大まかな位置どころか地面か壁かヒトかさえもザックリ判断が精一杯。
「「「「「────…………」」」」」
東、南、北。そして中央。
三方の陣営地および首脳陣地周辺では賑やかな騒ぎが始まっている最中、俺なんかの咄嗟でしかない指揮を忠実に守ろうとしてくれているのだろう。
誰もがピクリとも動かず、声すら発しない西陣営地。その渦中にて思考を回す。
まだなにか居やがるぞ……俺の突発超感覚に一瞬だけ遅れて届いた【総大将】の警告、視界端で突如として削れた小隊員のHPバー、制圧後ジタバタしていたはずが今の状況が始まると同時に一切の動きを止めた機械兵、一定範囲に散らされ当然この場にも複数名が存在する感知系プレイヤーの無警告────狙い澄ましたかのように四陣地同箇所に落ちた砲弾、変形して襲撃を始めたファンタジーにあるまじき造物存在、システム障壁、女神の加護、段階的かつ明確な差異を以って順次展開されたエネミーの群団、そして反生物的も甚だしい役割遂行の化身めいた例のアレ。
四柱戦争。
戦争。
複製品の舞台の上に、デザインされた催し物。
脳裏には、この手の推理思考に関して今や真っ先に浮かぶ〝姫〟の考察。
斯くして……────あぁ、納得がいく。説明が付く。
どうにも自動的進行のイベントにしては違和感が拭えない、所々で『外してくる』感じ。そして〝鎧〟やら〝鉤爪〟やらの武装配備に飽き足らず、しまいにゃロボットまで持ち出して考えてみりゃ隠す気ゼロな製作物のオンパレード。
────重ねて、アーシェが考察した諸々を肯定するのであれば、この『四柱戦争』は〝女神〟とやらの手を離れた〝女神の力〟を用いて造られた目的ある舞台。
その目的とは、察するところ俺たち『プレイヤーの育成』が最有力。
そして、そんな計画の実行が叶う者あるいはモノは〝女神の力〟を継承した『五色の御柱』たち────あるいは、彼らと同じ『女神の眷属』しか有り得ない。
つまるところ、
「……《アルテラ=ノーティス》」
第六感、もとい第六勘、起動。
先は無意識に状況を救った超感覚を任意起動。同時並行で思い出すのは、やはり常日頃から核心を突くことに定評のあるアーシェの呟き。
────……これ、本当にPvEなのかしら。
答えが出たなと、ほぼ確信に近い推測を抱くまま。
「「──────、」」
相手の呼吸に合わせて再び兎短刀を振るうと共に【九重ノ影纏手】および魔力展開を解除。ダメージを与えるには満たない微細な雷の網に炙り出されたわけでも、しびれを切らしたわけでもないだろう、俺の確信を読んだと思しき奴に対して。
再び刃を、打ち合わせながら。
「〝千憶〟」
不可視の暗殺者へと、カマかけの一言。
「………………………………へぁ……?」
然らば、今からでも後方へ放り投げて保護してもらうべきか否か。渦中真っ只中にて置いてけぼり、カタカタ怯えるまま困惑を零す少女を他所に。
「…………────流石、」
眼前より、気配なく『記憶』にある声音が一つ。
なんの因果か……はたまた、これも読んだ上での今か。そこまでは流石に予想外、いやアンタかよと思わず顔を引き攣らせる俺の視界に────
捻じれた風景より、現出するヒト。
声がなければ中性的で男女の判別が困難、水色の長髪を頭頂で括った若々しい美男子。壮麗な外套を纏う、俺が仮想世界で初めて出会った英傑NPC。
その者、薄く笑むセプトラは、競り合う刃から決して力を抜くことはないまま。
「相変わらずの、ご慧眼であらせられます。稀人様」
恭しく、挨拶をしてのけた。
ようやく楽しくなってきましたね。
私も楽しみたいんで以後の戦闘描写の方ちょっと誰か代わっていただけますか。




