会敵
『────うい、もう十分だ。よくやってくれた』
「あら……承知いたしました」
淀みなく動く四脚を用いた突進、脊椎フレームから分離して襲い来る無数の肋骨の刃、単眼より照射される高威力直線あるいは広範囲拡散レーザー。
豊富とは言い難いが、そのどれもが直接的かつ端的な殺意の塊。単純がゆえに遊びなく最短で殺しに来る無機質な攻撃を捌き続けて、早数分。
流れと思い付きで演じた『見本役』は思いの外レイドにとって好評だったらしく、お褒めの言葉と取って良いだろう念話が頭へと届いた。
然らば、次の瞬間。
もう何度目ともつかない突進を躱されての振り向きざま、これも何度目ともつかず機械兵が真赤な機械に光を宿した……その瞬間。
「七の太刀────」
脚部基盤より、四脚および脊椎フレーム下端が。そして浮いた脊椎フレーム上端より、頭部の根元が。順番に、刹那の内に斬り離され、行き着く最後。
「────《七星》」
深々と刻まれる一文字。枠に納まるまま綺麗に真っ二つにされた〝眼〟の内から火花が散ると共に、分割された機械が次々と地へ落ちる。
そして、太刀を鞘へと納めた【剣聖】が、
「…………ふぅ。お役に立────っ……!?」
一難去って訪れた四難、その最後の一つを恙無く片付けて言の葉を紡ごうとした瞬間。四方陣地より湧き上がった歓声が遠く距離を越えて殺到。
途方もない実力を思えば信じらぬほどに小さく華奢な肩を、盛大に揺らした。
『ま、功績に見合った称賛だな』
斯くして、再び頭の内へ届くは揶揄い半分の楽しげな声音。
『初見のバケモンの情報を丸裸にした挙句、それを丁寧にレイド全体へ見せた上で魅せてもくれりゃあ当然よ。士気も上がるってもんだ、よくやったぜ重ね重ね』
「あら、あら…………ふふ、それはそれは……」
とはいえ、揶揄いや世辞ばかりではないのだろう。先に置いた『称賛』という言葉の中へ自分のソレも含めつつ、手放しで労う【総大将】に微笑を一つ。
「私も、ちーむぷれいが板に付いてきたようですね?」
『……なんかなぁ、不安じゃねぇんだけど絶妙に不安なんだよなぁ、お前さん』
照れ隠しも謙遜もなく、堂々と胸を張るのが【剣聖】である。
元より備えていた性質ではあるが、ここ最近は特筆して。張り切って〝誰〟に見せているつもりなのか、そも『見せようとしている』自覚はあるのか、自信を以って自身を磨くスタイルが頼もしくもあり危なっかしくもありといった具合。
────立場、実力、その物腰。いくつもの理由から『見守られる』ということが少ない彼女は、そんな極少数の視点……同等あるいは同等以上の立場から見守らんとする者にとって、実際のところ相当な問題児であることは言うまでもない。
誰にも表立って言うことはないが、仮想世界によって繋がれた知人友人仲間たちのなかで、誰が最も『危なっかしく目が離せない』かと言えば誰よりもコイツ。
どこぞの姫こと自立どころか婚約まで突っ走り一抜けした誰かさんに、置き去りというかなんというか。ういのことを今なお心配な娘枠として見ている東陣営の父は、しっかりしているはずなのに大人に見れない序列一位に苦笑を零す。
「ふふ……心配は要りません。きちんと警戒していますよ」
『あぁ、まあ、それは偉いなぁ。流石は東の第一位だぁ』
「…………なんだか、なんでしょう。子供をあやすように言っていませんか?」
重ねて、誰にも明かすことはない胸の内。歴とした大人同士であること自体は認めているからこそ、心配しつつも尊重する絶妙かつ微妙な心持ち。
大人なれど、同時に本人も自覚する若輩の身。まだまだそこまで人の深淵を知らない若き【剣聖】は……これも一つの『親の心、子知らず』というものか。
倍以上も生きている友人の含みある弄りに、ほんの僅かばかり無意識にムッとしつつ────ここまでも警戒は残していた、機械兵の残骸へと意識を戻す。
「んんっ……さておき、如何いたしましょう?」
それ即ち、消える気配のないエネミーの亡骸へと。
『悪いが、そのまま暫く警戒続行で待機してくれ。すぐ回収班を向かわせる』
然して、問いに対する答えは即座。
「回収班……」
『もとい、解析班。アルカディアじゃ見たことねぇメカメカしいロボ、しかも倒しても消えねぇとくりゃ何から何まで未知の手合いだ。とにかく調べねぇとな』
ゲームにおいて、情報とは何よりも価値ある絶対の力。そんなことは例外なく誰しもの共通認識であり、ういとてソレを意識して動いた結果が今に他ならない。
然らばゴルドウ……だけではないのだろう、首脳陣の采配は極々道理。砲弾襲来から機械兵出現までの一幕を無事に対処し、静けさが訪れている内にという思惑。
全くもって、道理。現場一本で戦術や指揮といった才を持たない身の上から、あれやこれやと意見を浮かべる余地もない自然な流れ────だからこそ、
『そうだ。お前さんも流石だったが、坊主の奴も流石の期待以上ってか斜め上でな。あいつに関しては速攻無力化から捕獲ってか鹵獲しやが────』
「その前に一つ。気になった点がありますので、報告しても宜しいでしょうか?」
ういは、意見ではなく〝報告〟を優先した。
視線を『残骸』に向けるまま。警戒の意識を、向け続けていたからこそ……今、時間を掛けて、ようやく形になり始めた違和感を伝えるために。
『────……なんだ?』
然して、言葉を遮られたことよりも声音の色から真剣を読み取ったのだろう。
お喋りを引っ込めて問うた【総大将】に、
「駆け引きが、成立していました」
東陣営序列一位にして、仮想世界の『最強』に並ぶ『至高』が告げる。
「私は、機械兵などという存在と対峙した経験はありません。無機質で、意志の介在しない、全く命を感じられない相手と死合ったのは、これが初めてのことです」
『……おう』
「だというのに、経験が活きました」
『…………おう』
穏やかに、しかし淡々と────最早、視線は逸らせずに。
「ゴルドウさん、私以外の方々へ改めて警戒の呼び掛けを。今すぐに」
ういは、仮想世界に相対して『考える』のが得意ではない。ゆえに、こうして語っているのも『直感』そのままの言語化でしかなく、だからこそ急げない。
弟子のように、迅速かつ柔軟な思考を以って推測を叫ぶことができない。
それでも必死に予感から説明への変換を連ね、
「先程までの立ち会いを反芻して、遅ればせ確信しましたが……」
『…………』
出来得る限り、懸命に。
「これは、おそらくヒトです」
『……────』
戦を終えても、なお去らぬ極薄い……本当に、無いに等しい、気配とも言えない気配。最上位の感知スキルでも役を果たさないような────意志が。
自分たち以外の〝何者か〟の思惑が、まだ此処に居座っていることを。
連ねて、伝えて、数秒の後。
『────ッ、総員警戒‼︎ まだなにか居やがるぞ‼︎』
思念の先。
あやふやな予感の報告を、明確な危機的推測に繋げたゴルドウが激を叫ぶのと、
「ッ────……っ゛!」
気配も、殺気も、起こりも、前触れもなく。
姿もないまま。不可視の刃が【剣聖】の脇腹を抉ったのは、同時のことだった。
ロボットには、二種類ある。




