北、そして
斯くして、火蓋が切られ戦局が四つ。
東を見れば無数の剣塔、西を見れば影糸の濁流、一瞬だけ遅れて南からは空高く光線が撃ち上がる最中……────北に巻き起こるは、氷焔の竜巻。
その渦中、緋蒼の灼熱零度が荒れ狂う旋風の中心にて。
「…………勘弁してくれ。SF化学は苦手分野なんだ」
なんとか咄嗟の対処は間に合えども、微かに晒した冷や汗は隠せず。
光線に対する氷幕────揺らめく〝炎〟と凍える〝氷〟双方の性質を持つ氷焔が〝光〟を拡散および収奪、自らに撃ち放たれた光学兵器を無効化することには成功したが……白状するのであれば、それは全くの偶然でしかなく。
レーザーだのビームだの、少なくとも創作物における『架空兵器』に関して極めて無知な剣道馬鹿……もとい異国容姿の侍にとって、唯一の親しみある創作世界の外に類するアレコレは苦手分野にして専門外。
あくまで、対魔法。つまり『物理攻撃』ではない脅威に対しての対抗策として編み出した氷焔が、ほぼ最適解として機能したのに最も驚いたのは囲炉裏である。
────然して、それゆえに。
先手の光線照射が無力化されたと判じた瞬間、ガシャリガシャリ。生物のソレとは全く異なる方向性の威圧音を打ち鳴らし、氷幕の奥から迫り来る気配へと。
「……迦式二刀」
昂ぶりゆえに荒ぶる、特定の誰かさんと向かい合う時とは異なる様。
広く戦闘狂のイメージを持たれながらも『粗野』や『狂暴』といった言葉を当て嵌められることのない【無双】にしては、実のところ珍しい表情。
「二の太刀」
即ち、不機嫌そうかつ憎憎しげに目を細めるまま────光を呑み干して煌めく緋蒼を劈き、目前。命を獲りに来た黒鉄脚の鋒を束ねた二刀で掃った刹那。
「《獅車》」
守攻連鎖。
唸りを上げて捻じ回った双閃が轟音を打ち鳴らし、矮小へ圧し掛からんとした無機的な巨体を真っ向から叩き返して地響きを生む。……その様を、
「……全く」
張り倒した機械を上から踏み付け眺める囲炉裏は────無様な狼狽を晒し、確証の無い対処を咄嗟に頼った己を顧みて、恥から来る憤りを視線に宿すまま。
「なんでもアリは大概にしてくれ。そういうのは後輩で間に合ってる」
粛々と、八つ当たりを開始した。
◇◆◇◆◇
「ゴルドウ、済んだぞ」
『おう、よくやった。被害は────』
「無い。……運に救われた部分は否めないが」
数えて、三十秒と少し。
頭部一つ、頭部アーム六本、脊椎フレーム三分割、脚部基盤、レッグ四本。申し訳程度にイラつきを誤魔化すが如く極めて丁寧に解体した戦果を地に転がしながら……いまだ遠方から届く戦音を耳にしながら、囲炉裏は上司へ念話を繋ぐ。
連ねて、仕事を果たした二刀を鞘へ納めながら。
「他は────」
自らの担当した北陣地以外について問おうとすれば、
『楽勝!』
『なんとか、なりました……!』
おそらく、狼狽えた自分に先んじて無力化を遂げていたのだろう。既に統合念話に入っていたらしい後輩および、そのパートナーの声が答えを寄越す。
然らば、だろうなと驚きも何もなく無意識に笑む囲炉裏を他所に。
『だそうだ。────的確に瞬殺したソラも偉いが、まあハルだな。まさか『捕獲』しやがるとは思わなかった、驚かせやがってコイツ』
『いやぁ、余裕あったし情報いるかなと思って』
『ぅ……ごめんなさい、その、私は必死になっちゃいまして……』
『いや、二つも三つも生かしとく理由はねぇ。お前さんも百点満点だ』
『そうだぞソラさん。頑張って超偉いぞ。流石は俺のパートナーだ偉い』
『……ぇ、えへへ』
『おい。頼むから合同通話でイチャつくなテメェら』
一難去って、また一難を退けて、早くも再度の平和時間を匂わせている三人も他所に……────改めて、いまだ遠方から届く戦音の方。
「…………まあ、誰が最大の戦果者という話なら」
東でも西でも南でも北でもない、中心点からは位置をズラした城塞内地。
「────間違いなく、先生だな」
『それな』
『ですね……』
『違ぇねぇ』
生きた情報をレイド総員へ懇切丁寧に示し続けるように。暴れ狂う無傷万全状態の機械兵の相手をしている【剣聖】の姿へ、自然と視線が集まった。
『ロボットなんざ……まあ、それっぽい奴ぁ今までもチラホラいたがな。にしてもアレほどゴリゴリのメカ野郎は見たことがねぇ、つまり全員にとっての未知だ』
その通り。だからこそ、
『しかし、こんだけ見せてもらえりゃ、もう初見にはならねぇ。仮にアレの大群が攻めてきたとしても、今なら大した犠牲もなく対処が効くだろうぜ』
各陣地から遠目ではあっても、プレイヤーの超視力であれば『観戦』は容易。それにより一人残らず全てのレイド人員に未知なる相手の戦闘風景を提供する判断を下した彼女こそ、四人の内で群を抜く戦功者とすべきだろう。
満場一致、異議など湧くはずもなく。
『………………成長してんなぁ、ういの奴も』
然して、彼女に対してさえも親父あるいは御爺の目線と思しき【総大将】の感慨深げな呟きはスルーしつつ。一抹の不安も生じない光景から安心して視線を外し、
「ちなみに、俺の方は腑分けした。必要なら、脆い優先攻撃箇所を報告するが」
『……ふ、腑分け』
『言葉選びが怖ぇって』
『お前は、なんてぇか、まあ安定して仕事するわな。毎度毎度よ』
別に八つ当たりの恨みつらみだけで成したわけではない己が仕事を、堂々と開示し共有すべく。綺麗にバラバラにした戦果へと振り返った。
ゲームとしてのアルカディアの理屈には程々それなりに順応しつつも、実のところゲーム脳および創作物適応脳の度合いでは作中ワーストに近い囲炉裏君。
そして宣言通り、全力で軍団戦闘を頑張っている剣聖様。
どっちも可愛い。




