西
斯くして、火蓋が切られ戦局が四つ。
東を見れば無数の剣塔が屹立し、北を見れば焔氷の竜巻が舞立ち、一瞬だけ遅れて南からは空高く光線が撃ち上がる最中……────任された、西にて。
「【九重ノ影纏手】ッ‼︎」
真ん丸ボディから四脚胴長蟹モドキへと迫真のトランスフォームをキメた『砲弾』改め機械兵野郎が何か宣い、その単眼を煌めかせた瞬間。
俺は躊躇なく、振り翳した右腕の固有一点物より影糸を────否、糸どころの騒ぎではなく、光を呑む闇色の津波を引き出し溢れさせた。
十割、勘。
しかしながら、当たるという確信を帯びた勘。
だって、そりゃあ、そんなもん。特にロボ好きってほどじゃないにしろ男子の端くれ、真赤に目立つ機械眼がピタリと狙いを付けた上で発光すれば流石にわかる。
あぁ、コイツやるぞと。
ベッタベタなことを、やりやがるぞと。……然らば俺は、
「……悪いな。非実体低圧力じゃ、この影幕は貫けない」
盛大に展開した【九重ノ影纏手】の〝影〟────俺の意思を除いては断つこと叶わぬ不壊の遮断幕を用立てて、迫真ごん太ビームを受け止めるのみ。
光圧。質量を持たない『光』とて運動量は持ち合わせており、それにより発生する圧力というものも存在する。そして、その圧力は仮想世界アルカディアの『現実比オーバーな物理法則』が適用されることで……まあ、それなりのモノにはなる。
けれども、所詮それなり程度。
これが例えば雛さんこと我らが東陣営序列七位【熱視線】の爆圧熱線とかなら話は別ってかカーテンごと吹き飛ばされて終わりだが────重ね重ね、この程度。
大した威圧感も溜めもナシに放てる程度の光線ならば、恐れるに足らずだ。
「少なくとも、筋肉換算300程度の圧はねぇと、なぁッ!」
然して、いざ操演。
ご挨拶の破壊光線を受け取め呑み込み押し流す濁流、からの瞬時包囲。この規模を展開して精細操作など無理ゲーだが、大雑把に巻き込む程度なら朝飯前。
とはいえ、押さえ付けるのも推定だが同じく無理ゲー。
あの見てくれ、あの質量感、遠距離攻撃はともかく綱引きになれば今度は俺が瞬時に引き倒されるであろうことは考えるまでもない────
ならば、次手など決まっている。
「〝繊纏〟」
出力凝縮、および〝想起〟。影の濁流を右の腕輪から切り離すと同時、喚び出す双盾【双護の鎖繋鏡】を間髪入れず影糸コーティング。
《天歩》全力点火。
繋がりを断たれ瞬時に薄れゆく濁流の残滓その最中から、いまだ在る殺意の光が俺あるいは周囲の誰かを貫く前に────着弾。
元より魔法耐性の高い超一級品に、相性ガン有利な【九重ノ影纏手】の重ね掛け。まさか破られるはずも、毛ほどの威力とて裏に通すはずもない万全の二重防護を盾に突っ込んだ果て。その表面を光線発射口……即ち、
如何にも大事そうな、文字通り一つしかない単眼に叩き付け塞ぐと共に。
「四凮一刀、無刀術────」
デカい蟹面ってか蟹体面を踏み付け、盾の握りを手放し、両腕テイクバック。
転身体専用手套【氷織の燐光手】に【真説:王鍵を謡う契鎧】経由【神楔ノ閃手】重複着装、外転出力『廻』臨界収斂《天歩》&《天閃》並列起動出力合一、更に《水属性付与》+《拳嵐儛濤》両碗六百発全装填────ッ‼︎
「《星……────砕》ぃッ!!!」
双掌、撃浸。
単なる打撃でも単なる浸透撃でもない、打って浸み込ませる崩壊撃。
物理、魔力、衝撃、震動、あらゆるジャンルの威力を共存させるまま叩き込み、表面と内面からの同時攻撃を単身にて成立させる防御無視の新必殺。
それが、光線遮断に噛ませた双盾越し。狙い澄ました極一点を────
『──、────Pi、……──……────ッgガガ』
破砕。
形容し難い鳴き声……というか、機械音そのものであろう異音やノイズを立てる元砲弾機械兵が脚部関節を折って地に伏せる。
果たして、それが内部を駆け巡った威力に屈してのものか、威力を賢く殺すための防衛行動だったのかは────まあ、知ったこっちゃないというか。
「『武装化』」
この振り上げた瞬殺の意思は、どうあれ貫き通す以外の思考がないというか。
武装顕現【至竜大剣 エルヴァド】────まず、一つ。
「来い」
回帰顕現【廻り回輝する楔の霊剣】────続けて、二つ。
「〝想起〟」
想起召喚【愚螺火鎚】────そして、三つ。
ズドン、
ズドン、
ズドン。足蹴にする体勢から、立て続けに都合致命三度。
総重量2トン強。俺のインベントリ内訳より馬鹿重量トップスリーを、理由はどうあれ伸びた脚の関節部分へ順番に丁寧に力強く投じ叩き付けてやった。
然して、結果は……。
「ま、流石にな」
四脚の内、二本が大破。最高重量の大戦鎚を投げ付けてやった一本は圧し折れて断絶と……──まあ、だろうなといった具合。
初撃でレンズ部分以外は綺麗に無傷で済ませやがった頭部のデタラメな頑丈さには、ポーカーフェイスで密かに面食らったものの……そこはアルカディア。
これまで馴染ませてきたファンタジー世界観に蹴りを入れる代物とはいえ、ロボをロボとして出すのであれば『お約束』は外さないと信じていた。
斯くして結果は、この通りだ。
健気にジタバタ足搔こうとした蟹足の如き六本の頭部アームおよび、のたうち回ろうとした脊椎フレームを影糸で縛り2トンの重石を噛ませてしまえば……、
ハイ、蟹の簀巻き一丁上がり。
「ヘイ大将。なんか〝蟹〟を捕獲したけど、息の根どうする? 止める?」
『なに言ってんだオメー、無事なのか。オッサンにも理解できるように説明しろ』
SFロボの主眼と関節部は、基本的に貫かれたら負けの致命部位ってな。
・機械仕掛けの行動速度を上回る仮想世界最速の反射および実行速度
・超硬フレームを貫く浸透撃など含む多様な攻撃属性
・即座かつ的確に弱点と成り得る隙間を見て穿つ勘と器用さ
・光学兵器を完封し得る超有利相性ぶっ壊れユニークのオーナー
・初見相手の対処に必須な『決めたら迷わず動く』思考性質
・未知の状況における謎に安定した勝負強さ────などなどエトセトラetc……
完全に天敵です。対戦ありがとうございました。
基本的に目で追えない時点で大概の存在の天敵定期。




