南
斯くして、火蓋が切られ戦局が四つ。
東を見れば無数の剣塔が屹立し、西を見れば影糸の濁流が湧立ち、北を見れば焔氷の竜巻が舞立つ最中……────南に在るのは、ただ一閃の音鳴り。
そして、刹那。
破滅的な一条の光線が、空間を揺るがすほどの威と熱を以って天を穿った後。
「────結式一刀」
砕くまでは成し得ずとも、強かに単眼を打つと共に籠められた〝力〟を解放。鋭利で剥き出しな脊椎の背を強引に反らせて射線を上向かせたのは、投じられた鞘。
これだけは弟子に追い抜かれてしまった、切り離し籠める『外』の極致。
「八の太刀」
けれども、原典は此処に。威力や応用では後れを取ろうと、瞬時の練り上げに関しては先を行く────然らば、不意の致命とて穏やかに。
ただ撫でるように、息を乱さず、いなした彼女は────
「《昇雨》」
縮地、踏み込んでは本領を振るう。
瞬間、駆け巡るは轟音と衝撃。小柄な体躯と比して一層に巨大な機械仕掛けの化生、その足元へ音もなく滑り込んだ【剣聖】が閃かせるは大太刀の刃。
敵足元への縮地、そして横転からの輪転。故意に体勢を崩す踏み込みで以って横倒しになるまま捩り上げるような軌道で頭を下から断つ、姿在る不可視の一刀。
小柄なヒトと巨大な物の怪。絶大なスケールの差は、主の小さな身の丈を優に越える大太刀の刃長が補い……──重ねて、生じたのは轟音と衝撃。
つまるところ、斬音ではなく打音を以って。
「っ、硬い……!」
射角を正そうとしていた奇怪な『頭』を更に跳ね上げ、衝撃が通ってのことか光線の放射は中断させたが……断つを成せなかった必殺を見届けながら、技後の余韻にて宙へ浮く【剣聖】が些細なれども眼を見開く。
余裕を以って臨みはしたが、加減を携えて臨みはしなかった。ゆえに正真正銘の手抜きナシ、会心の踏み込みで以って渾身の一刀を繰り出した結果が────
『──────』
「無傷ですか……!」
本当に、ただ仰け反らせ上を向かせただけとは笑ってしまう。
然らば、ういは驚きと共に心のまま笑みながら素直な感想を零しつつ。仰け反った勢いを溜めに転じて振り下ろされた鋭い前脚を、手刀で弾きながら。
衝撃転換、姿勢制御、着地。
「では、打撃は如何でしょう」
その瞬間、既に手中に在るのは次手の刀。
第七階梯魂依器【天目一箇神】────〝刀〟を統べる概念権能を持つ神名の小槌は、ただ主の思うまま。いつ如何なる時とて、相応しき者の手に作品を託す。
つまるところ、
「二の太刀」
こと『刀』に限れば、ういは弟子にも匹敵する多彩を戦場に持ち込める。
「《打鉄》」
諸手一刀、剛の撃太刀。振るわれたのは短丈肉厚、異形の小刀。
【撃刀・峰討】────加えられた全ての衝撃を〝根〟から逃す性質を持つ特殊鉱【平和主義石】を加工して作られたソレは、素材そのまま。
全ての衝撃および反動をも収束して吐き出す〝刃〟を持った、二度打ちの刀。
即ち二重の意味で二の太刀となった【剣聖】渾身の『対斬無効物体ぶん殴り剣』が、実質的に瞬間二撃。脚襲を受け流されて僅かに体勢を崩していた機械兵の脊椎フレームを捉え────やはり両断も砕断も叶わなかったが、構わない。
目標は達した。つまり、今度は確かに宙へ浮いた巨体を目掛けて。
「十の太刀、改」
左に一刀、右に一刀、並ぶ刃は水平に。
真っ直ぐ突き出した両手の先、上下二段に重ねた二刀を握り込み、
「《雷砲》」
蹴り脚で地を砕く、最大出力の『縮地』突貫。
無用と断じて過去に斬り捨てた可能性を糧に、堆く積み上げてきた尋常ならざる膂力を今こそ出番とばかり惜し気もなく振るい────
「全力で、お相手しますので」
見守る者が、瞬く内に。一から十まで、ポカンと呆ける内に。
「続きは、あちらで」
【剣聖】は機械仕掛けの化生諸共、その場から稲妻の如く姿を消した。
この絶対的な安心感。
東西南北一話ずつに区切りたかったので少し短め。
代わりに今日明日は二本ずつ更新します。




