四難、起動
「────ゴルドウ、配置に着いた」
城塞北端、ノルタリア陣営の初期地点。
一般基準を遥かに凌駕する早駆けと言えど、流石に競争相手が『縮地』の開祖および仮想世界最速ともなれば到着三番手は避けられぬこと。
イコール、これにて準備完了。東は少女、西は後輩、南が先生の北が自分。
当初より予定された通り単独特記戦力としての運用。それを全うするべく大将の指揮に従うまま、自らが任された場に到着した囲炉裏は端的に告げた。
さすれば、
『────よし、四人とも聞こえてるな。今から【城主】の嬢ちゃんが〝城〟を退ける。ただ、無理を押しての超遠隔顕現のせいで一つずつ順番にとか器用な真似はできねぇらしいもんだから、一斉にってことになる。つまり……』
『一箇所ずつ様子見するのは無理って話だな』
『そういうこった』
即席状況対応班としてのオープンチャンネルを作ったのだろう。五つの気配が感じられる繋がりを伝い、早速ゴルドウの指揮統率が下り始めた。
然して、ハルの相槌に肯定を返した流れのまま。
『うい、囲炉裏、ハルの三人は重々承知してるこったろうが、慣れてねぇソラも居るから言っとくぞ────それぞれ、無茶すんな。自分を第一に考えて動け』
『オーケー』
『心得ております』
『が、がんばりますっ……!』
「了解した」
集団戦における自分たち……即ち、事実として特別たる『特記戦力』が振る舞いの大前提。己を〝替えの利かない駒〟であることを、しかと自負して残る。
生き残り続ける強駒こそ最高の戦力であるという真理を言い付けた【総大将】は、囲炉裏を含めて並んだ応答に再び『よし』と頷きを言葉にした後。
『周囲状況報告。問題なけりゃ簡潔に』
『私を除いて、皆さんには十分な間合いを確保していただきました』
『こっちも問題ない。職人様方は南の部隊が護衛についてる』
『大丈夫、ですっ……! 防衛隊長さんが、まとめてくれていますっ』
次なる確認。際しては、また並びゆく東西南の報告を聞きつつ。
刀の柄へ手を置きながら、周囲を大きな動作で……最終確認の意を知らしめる為わざとらしく見回した囲炉裏は、こちらも他所と同じく既に完成している『包囲網』の内にて目が合った【犬笛】の首肯を受けて────
「北も問題ない。いつでも退けろ」
右手一本で蒼刀一本のみを抜き放ちながら、最後の了を返した。
そして、一拍の後。
『んじゃ、カウントダウンだ。────5、』
果たして、一体〝なに〟が出てくるのか。
そもそも、本当に〝なに〟かが出てくるのか。
誰にも一切わからないのは言わずもがな。
ゆえに、これ以上の言葉は並べようがない。そのことを理解するゴルドウが、後に続く無駄口を省いて『お喋り』ではなく『数字』を並べ始める。
『……、…………』
繋がりの先から、微かに届く緊張の思念。
誰の息遣いであるかなど考えるまでもなく、条件反射で励ましの一言でも贈るべきかと口を開きかけた囲炉裏は……しかし、役ではないなと瞬時に思い直し。
『────『4ッ!』
即座の、次。
食い気味に大将のカウントダウンを乗っ取った後輩の悪戯に笑みを零して。
「っは……────3、」
おおよそ予想通りの気遣いを支持するように。また、この程度のアドリブにも即応できないような者は今この輪に居ないだろうと許容しながら戯れに乗り、
『ふふ……────2、』
微笑ましげに柔らかな声が続いて、
『っ……────い、1……!』
聡く意を酌んだ少女が健気に励ましを受け取り奮い立てば、念話越しに薄っすら響くは忍び笑いの気配。年寄りぶって頬を緩めていたであろうゴルドウが、
『────ゼロだ。頼んだぞテメェら』
おそらくハルが先走らなければ披露していたと思しき激励の一言を呑み込みながら、端的にピリオドを打った────次の瞬間。
城塞壁端寄りの位置に在る〝城〟……分割された上に圧縮されているゆえ至極なんだかわからない状態になっていた〝塊〟が消え失せて、姿を現すのは健在の黒。
魔法士たちの対抗震動が効いたのだろう。着弾の勢いから考えれば信じがたいことに、真円形の球体は埋もれることなく半分以上も地上に露出していた。
「………………」
間合いを取らせた北陣営プレイヤーたちが構築する警戒包囲の輪、その最中にて距離十メートル弱。近付くことなく、囲炉裏は目を細めて異物を捉える。
直径おおよそ四メートル強。
目に映る質感、些細な光沢の雰囲気から察するに金属あるいは類する不明物質が構成材。滑らかに丸みを描く表面には、傷一つも見られない。
そして、障壁は既に消えている────間近で直に観察したところで、結局その程度しか読み取れる情報はない。わかっていたことだが隅々まで意味不明だ。
疑問点や不審点が多過ぎる。
何故、この『砲弾』は此処へ落ちたのか。
何故、本命四発は決まって各初期地点の此処へ落ちたのか。
何故、その精度で〝拠点核〟への直撃あるいは至近を狙わなかったのか。
────そもそも、コレは一体なんなのか。
仮想世界に於いて、単体で向かい来る驚異的な『物』など見たことがない。
落石やら雪崩やら洪水といった自然現象として発生する演出的脅威ならまだしも、無機物というか人工物。そういうエネミーでもなしに物体が襲い掛かってきた事象など、少なくとも囲炉裏には遭遇した経験がない。
ましてや、システム的な力を発揮してみせる物体など。
それは囲炉裏だけでなく、この場に在って状況を見届けた全プレイヤーの総意たる警戒と思考。ゆえに、これだけの厳戒態勢を以って再度の遭遇に臨んでいる。
そう、だからこそ────
ピシリ、と。
絶対に、間違いなく、なんであろうと、どうであろうと、必ず……論じるまでもなく百パーセント『ただの砲弾じゃねぇだろテメェ』と確信していたからこそ。
その黒一色で継ぎ目など存在しなかった表面に、線が走り抜けたとて囲炉裏は驚きはしなかった。驚かず、狼狽えず、ただ静かに『刀』を青眼に構えた。
さぁ、来い────と。
己が剣のように揺るがぬ自負と自信を以って、来る〝なにか〟を待ち受けた。
けれども、
だけれども、
ピシリ、
ピシリ、ピシリ、
カシャン、ガシャン、
キリキリキリ、ウィイーン、カチカチカチ、と。
「……、…………………………おい」
その、駆動音を。
その、展開音および変形音を。そして、
「………………ちょっと、待て」
ズズズン……──堂々と地に突き立った、穿形四脚の威容を見て。
大いなる動揺。加えて更に巨大な────『世界観を考えろ』という脳内で荒れ狂うツッコミの欲にて、ほんの僅かながら鋒を揺らした【無双】の侍。
それを見下ろす、異形の無機物。言葉に表すのであれば……そう。
鋭利な刃物で組まれた長い脊椎により上下に繋がれる、蟹そのものを模したような頭部と空想科学の四脚兵器じみた脚部を持つ、まさしくの機械兵は。
『──────システムオンライン . 戦闘モード起動 . 』
「ッ、なに────」
あろうことか、ヒトに伝わる言語を喋った上で。
「いや、待て、ふざッ……────!?」
容赦ナシ、情緒もナシのノータイム。
誰にも責められないであろう困惑のままに狼狽する東陣営序列第二位【無双】へ向けて、前頭部に煌めく機械単眼レンズより────極太光線を、撃ち放った。
※注:ギャグシーンではありません。殺るか殺られるかの戦争中です。
それはそれとして囲炉裏君視点を選んで良かったと思っています。




