一難去って
激震、鳴動。
四方から駆け巡る途方もない衝撃が足元を伝い、少なからずの者が堪らず体勢を崩して転がるが……裏を返せば、それは身体を転がせる大地が残った証。
城────メイの【白亜と黒樹と御伽の城】による〝蓋〟が、地上に拡散するはずだった衝撃を。そして、おそらく持ち得る防御手段にて見事即応してくれたのだろう各地戦力……主に土および地属性魔法士の対抗震動によって地中の衝撃を。
防護に防護を連ね重ねて、結果として隕石めいた砲弾による被害は『とんでもない大地震』程度まで抑えられた。着弾までに砕かれ広範囲に降り注いだ砲弾の破片についても、特に被害の有無を考える必要はないだろう。
あの程度、超越級大規模ボスエネミーの戦域全体攻撃と比すれば小雨以下。今戦争に選抜された精鋭中の精鋭たちが、対応できない訳がない。
……とはいえ、だ。
「────っ……ふうぅ…………やはり、大分、鈍りましたね……」
流石に肝は冷やしたし、緊張は飲み込んだとて確実に消耗はした。
今この瞬間その事実を誰よりも体現するように……常ならざる紫紺の光焔を宿していた片眼鏡を外しながら、自嘲と共に【侍女】ヘレナは膝を折った。
第五階梯魂依器【尊命に尽くす従鏡】────他者の『魂依器』へと力を添える魂依器で以って、本来【城主】の〝城〟が成し得ない超遠距離分割顕現の無法を実現するために協力したのだが……それだけでコレかと、笑うしかない。
権能強化を除いてヘレナが成した役割といえば、リーク元から受け取った着弾位置に顕現座標を被せるための計算補助くらいのもの。たったそれだけ。
思わず零した通り、前線を退いてから随分と鈍ってしまったものだと。
「…………各隊、順次に被害報告を」
甚大な衝撃が過ぎ去り、訪れた一瞬の静寂の内。
然して瞬く間に来るであろうザワめきに先んじて淡々と指揮の手綱を握り直しながら、侍女にして『女王』は慣れた様子で恥を呑み〝役〟を続行する。
「うぉい、大丈夫かぁ?」
「大丈夫です。それよりも────」
そんな役者の顔など俺には関係ねぇとばかり、我が子の頭に掌を置きつつ揶揄い半分の気遣い半分で声を掛けてくる父を振り返り……。
「────カナタ君。貴方のおかげです、助かりました」
その後ろに控えている少年……事が起こる僅か数分前に父の『勘』で呼ばれていた比喩抜きの救世主へと、ヘレナは手放しの称賛と感謝で以って微笑んだ。
然して、ある意味で仮想世界の如何なる無法をも超越する魔法────無数の並行未来より正答を導く閉瞼の魔眼《無見ノ瞳憬》の確定予知により、寸分違わず四箇所の最大被害地点を即座に割り出した最大の功労者はといえば、
「ぁ、いえっ! お力になれて、何よりです!」
自分の成したことの無茶苦茶具合を、正しく測れているのかいないのか。
彼あるいは彼女の師……否、先生? ────先輩こと東陣営序列三位と似ているような似ていないような雰囲気で、謙虚かつ朗らかに笑んでみせた。
◇◆◇◆◇
「マジか後輩二号、あとで撫でくり回して褒めてやらねば……」
怒涛の十秒強を凌ぎ、最良と思しき形で受け取った被害を見届けること暫し。
大将殿から「待機しろ」との命あって上空に踏み止まった俺は、同じくゴッサンから告げられた視界外のカナタによる大活躍ってか超活躍に超感心していた。
なんか俺が障壁に捕まった瞬間には〝眼〟を起動しており、そこから僅か七秒の間に指揮所の『地図』へ点を四つ穿ち「ここに落ちます!!!」と叫んだらしい。
カナタの反則スキルに関しては共有済みだったとはいえ、瞬時に全てを理解して対処を断行した【侍女】様および数秒足らずで求められた城を用意した【城主】殿も大概ってか完璧おかしいが……やはり、なによりご本人様。
よくぞ動いて成し遂げた、ってな具合。
俺は今、なんか普通に感動してるぞ成長したなカナタ……────いや、コレは果たして成長か? 行動力に関しては初対面から大体こんな感じだった気が
『────ハル』
っと。
「はいハルです。上空からは異常ナシ」
そろそろだと構えていたので驚きはしない。頭に届く念話の声を受け取りながら、目に映る地上……隕石着弾の余波で四城の瓦礫が崩れたとか、建設開始に悲劇が重なり早速のこと崩壊した西の建物だとかを踏まえて報告を投げる。
遠目だが、見る限り各〝拠点核〟にも損傷等の被害はなさそうだ。
無傷のまま降り墜ちた四発の大砲弾……『障壁持ち』が核の在る城塞内寄りから離れた外壁寄りの位置に着弾したゆえ、助かった形と見るべきだろう。
……なお、
『了解────そしたら、こっからがまた問題だ。今から〝城〟を退ける』
それが幸運によるものであるのかは、まだ判断できない。
「このまま維持は無理な感じ?」
『ヘレナとの連携で無茶した上にアホほどダメージ喰らったっぽくてなぁ。流石に一旦は仕舞わねぇと、今後に響くってよ』
「そりゃダメか。最強の防衛役を開始一時間で使い潰すのは論外だわな」
さて、どういうことかってのは……。
「……んで、中身は?」
『勿論、健在だ。キッチリ完品とのことだぜ』
そういうこと。
城を退ければ出てくる無傷の『砲弾』が、果たして俺たちにとって都合が良い場所に落ちたのか……あるいは〝敵〟にとって都合が良い場所に落ちたのか。
この後を見なければ、わからないから。然らば────
「了解。俺は?」
『また西を頼む。ういと囲炉裏は南北へ送った』
「オーケー。頼まれ、たッ!」
お次の展開。今度は一体なにが起こるやら、立ち会いに向かうとしよう。
東? ソラさんが任されて張り切ってるよ。
第五階梯【尊命に尽くす従鏡】魂依器:片眼鏡
作中説明そのまま、他者の『魂依器』の権能を強化すると共に操作等の補助介入を可能とする特異な魂依器。単体では一切の力を発揮できない枷を以って中々に酷い汎用性を備えており、能力行使対象の既存能力を単純に増強するだけでなく〝拡大解釈〟まで可能としている。例えばソラさんの【剣製の円環】の権能を『魔法の剣を創る能力』から『魔法の武装を創る能力』へと摩り替えて好き放題もできる。
今回に関しては【城主】ちゃんの【白亜と黒樹と御伽の城】が備える『主を守護する』という絶対意義を『(所有物まで含めて)主を守護する』と拡大した上で〝城塞〟は〝城主〟の物だろ守れと強引な屁理屈で顕現可能範囲の限界を超過させた。
勿論ハチャメチャに無茶を通したので一発で幻感疲労に陥っている。
おつかれさま。




