天墜
────際して、困惑を置き去りに思考が駆けた。
「《鏡天眼通》」
金右開眼、加速倍率最大。予想も予測も何もかもを裏切って突如襲来した窮地を文字通り眼前にして、十倍へと引き延ばした思考速度に限界まで意を詰める。
経験と勘と『記憶』を以って見間違いようもない《強制交戦》つまりは〝女神〟由来の力と思しきシステム的な理を備える障壁。急ブレーキと共に備えて受けて限界まで威力は殺したが接触時の衝撃と共に五割が消し飛んだ体力ゲージ。耳で数えていた連射音から割り出せる『砲弾』の総数は三十六発。【蒼天を夢見る地誓星】の衝撃耐性でも殺し切れなかった甚大な圧による瞬間的な行動不能は札を切れば即座に脱出可能────全て踏まえて、今これから俺が成すべきことは、
「ッ……四凮一刀、四の太刀」
《フラッシュ・トラベラー》起動。眼前および上からの被圧殺と、至近および横からの並走もとい並墜へと瞬きの間に状況を擦り替える────
影糸散開、楔鎧除装、手を這わせるは刀柄。
当然のように灯る天秤の燐光を力として受け取り、限界超過出力全開。
「《爐》ぃッ‼︎」
薄紅の障壁を絶やさぬままに引き連れて、俺を逃してもなお地へと突き進む大砲弾に刀を放つ。然らば、抜き打った【早緑月】より現界するは三日月の衝刃。
かの【剣ノ女王】が放つ必殺の通常攻撃とも打ち合える極大威力が、俺の知る限り『用意された正規の手段』を除いては突破不能な障壁に触れて、
「っ……!」
まさしく突破不能を突き付けられるが如く、影響など無しとばかり。そよ風のように吹き散らされて消えゆく己が渾身の結末を見届けて────まず一つ。
《天歩》再点火。目前の障壁持ちを捨て置き、目指すは次なる最寄り。
「結式一刀、口伝────」
繰り駆る翠へ、先に放った威力を喚び戻して結わう一刀。
「────《結風》ぇッ‼︎」
抜刀、納刀、からの抜刀。現行に抱える反動その他なにもかもを一切無視して如何なる状況からも最大威力を約束する口伝の太刀が、二つ目の大砲弾を……──
「っ……‼︎」
無事、両断。然らば、これにて二つ。
考えるまでもなく猶予など在りはしないだろう一拍の時。その最中で起こし得る最低限度最大効率の必要情報証明を終えた俺は────重ねて、
降り落つ砲弾群の落下速度から予測できる着弾までの猶予は十秒フラット。
つまり、相談をしている暇など真実ゼロと断じるままに。
「スゥ────────……」
何一つ、迷うことなく。
「────────ッッッソラぁアァアアァアアアァアアァアッ!!!!!」
ただ、この世界に於いて誰より信ずる相棒の名前を、呼び叫んだ。
◇◆◇◆◇
見上げていた。彼の成したことを。
捉えていた。彼の伝えたことを。
そして、聞いた。相棒が自分を呼ぶ声を。
────ならば、
『指揮官』からの指示ではないだとか、自己解釈からの独断行動だとか、そんなことは些事と捨て置くのを躊躇しなかった少女は恐れず朗々と。
「《剣の円環》」
天秤の再傾、時差ナシの以心伝心。
パートナーが求めパートナーが思う『最適解』を迷うことなく掴み取り、
「《地轟百塔》ッ‼︎」
地から天。大砲弾の雨が霞んで然り、巨剣の百塔を撃ち上げた。
斯くして、一秒、二秒────衝突無数。
「ふ、ッんぐ……ぅ…………!」
思念感覚からの反動転写。それが意味するところは、外的威力によってソラの魔剣が砕かれ打ち破られた事実。……しかしながら、裏返し。
それが意味するところは、ハルとソラの連携が確たる『情報』を炙り出した戦果の証明に他ならない────つまるところ、砕けた三十一と砕けぬ三。
魔剣の巨塔による迎撃が通り砕けた大多数の中から、ただ三つ。先に相棒を叩き落としかけたモノと同じく、薄紅の障壁を展開して突き進む特別製が現れる。
然して、ここまで七秒。
依然として降り来るは、ソラが盛大に砕いた砲弾の欠片が無数。そして健在の脅威が数えて四つ。それらが向かう先は……終端までを、目で追う必要などない。
四方、四陣営の初期地点だ。
そして、着弾まで残り三秒と少し。
誰もが他者からの指揮など望めず、また要すこともない刹那。
防御手段を持ち得る者は持たざる者を庇い、持たざる者は持ち得る者を陰から支え、僅かな時に二人が成した戦果を称えながら────来る衝撃に構えた果てに。
「────────────メイ、今です」
全ての者が、信を以って軍団を託す『女王』は呟き、
「んぁ……────分割顕現」
全ての者が、来歴を以って無法を認める『城主』は、むにゃり。
眠たげに呟けば、その瞬間。
地を穿つは撃衝、解き放たれるは御伽の城。
斯くして、薄紅の障壁を侍らせた大砲弾が着弾すると同時。そこへ蓋をするかの如く四分割圧縮【白亜と黒樹と御伽の城】が────
物質化した異空間こと、仮想世界最硬の城にして盾が、顕現。
そして、
『総員、耐えなさい』
『歯ぁ食いしばりな』
『死ぬなよテメェら』
『ま、大丈夫やろて』
四陣営各指揮官より、伝達された命令と激励と号令と楽観の声を最後に。
ほぼ全ての威力を封じ込められた隕石落下にも等しい衝撃が、地上を奔った。
十秒フラットの出来事でした。




