そして、星が降る
────それから十数分の間、束の間の平和と思しき時間は続いた。
然して開戦の唐突さを思えば気を抜いてはいられないが、身を硬くしてばかりもいられないのがタワーディフェンスにおける防衛側。やるべきことは山積みだ。
プレイヤーの配置に、設備の構築。そして次なる戦波の予測および仮対処案の準備などなど……そもそものジャンルとして多くの場合『初見クリア』を想定されていない遊戯であるために、どれだけ備えても足りないだろうというのが共通見解。
タワーディフェンス系のゲームに関して、俺は『ちょっと触ったことがある』程度の素人であるため大した意見や思考は重ねられない────が、俺以外。
千人余りも集まればTD猛者の一人や二人や十人や二十人は居るもので……例えば北陣営の元序列持ち【犬笛】こと、実質的なノルタリアの現まとめ役【群狼】の右腕【萩】さんを筆頭に、現在進行形で議論が成されている最中だ。
どこで? といえば、此処。
「いやぁ、だから、物量系か仕組系かで取りたい対応が全く……!」
「初見でユニット1000超のTDはソレもうギャグ寄りのジャンルなんよ」
「コストとか気にせんでええのは有情だけどもさぁッ」
「ヒーローユニットも全部ぶっ飛んでるしな……」
「とりあえず、1wave参考に流れ仮組して後手対処しかないのでは?」
「だよなぁ」
「即応してけばユニット性能でゴリ押せるべ」
「ですね。北のジンは好き放題こき使って構いませんので、理想手の前置きができない以上とにかく死に物狂いで〝穴〟だけは空けないよう立ち回るべきかと」
「お。では言質に則り【群狼】様の群体ユニットはフル活用の方向で……」
「言質も何も本人の言葉じゃないさかい、ちょっとは手加減してな?」
「なに言ってんですか、第一波から早速の馬鹿げた物量は見たでしょ。仮にアレが二十四時間続く場合アンタは休んでる暇なんてありませんよ、気張ってください」
「いやウチの参謀きびし……」
毎度の如く……と言えるほど二人の絡みを何度も目にしているわけではないが、ハギさんに苛められている【群狼】殿が場所を変えずに陣取る位置。
即ち、城塞の中心点。
これも例によって俺タクシーにて集合していただいたのが十分前、つまり西陣営初期地点クリスタル前にてワヤワヤやっていた直後のこと。
概ねの方針を決めた首脳陣の内からゴッサンの指令が届き、すぐさま防衛ゲーム戦略分野に明るい面子を搔き集めてからの今である。
そんでもって、これからの現地作戦会議と並行するのは────
「あぁ、使い切って構わないとさ。さっき言った通り、段取り諸々は任せるよ」
向こうでカグラさんが念話越しのGOサインを出している通り、他ならぬ西陣営職人勢による拠点構築開始の合図。既に幾らか運んできた木材によって此処にも掘っ立て小屋の簡易拠点が設営されているが……とにもかくにも、まずは四隅。
敵が突っ込んで来ることが判明するにあたり、各々の〝拠点核〟を擁する初期地点が不動の拠点となることは現状の数少ない確定事項。
ゆえに、取り急ぎ最低限の設備を整えなくてはならない。
その『最低限の設備』が何なのかってのも俺は知らないが、そこはまあ上手いことやってくれるのだろう。カグラさんは丸投げしているが……名高い【大金持】様に任せとけば建築は間違いはないと、あの【侍女】様の同意もあるからして。
然らば、指示が降りれば早速のこと、恐ろしい勢いでアレやコレやが建ち始めた西方向を遠目に眺めている────そんな折に、近付く気配が一つ。
振り向けば、
「……おつかれ、さま?」
「まだまだ元気一杯だぞ」
至近。
微笑む美貌に胸を張ってコンディションを告げれば、本格的にヘレナさんが指揮を開始したことで漸く手が空いたのだろう。傍へ来たアーシェが小さく笑う。
そうして軽率に、俺含む周囲男性プレイヤーの頬を緩ませつつ……。
「また暫く、一緒に中央で待機。……放っておかれて、拗ねているかしら?」
「甘いな。こういう場合に関しては、ソラさんは『任されて』張り切るタイプだ」
「……ふふ、ハルこそ甘い。そういうフリをして、内心では寂しがるのがソラ」
「それも知ってる。俺のパートナー超かわいい」
デシベルを絞った言葉に返す返すで戯れるが、配慮の意味はなかった模様。しかしまあ、聞き耳を立てて沈んだ連中に関しては自業自得として放置でヨシ。
思わずイチャつ……仲良くしてしまったが、別にソレが本題で俺の傍へ来たわけではないことは察しているし、俺が察していることをアーシェも察している。
────然して、
「思ってた〝敵〟じゃ、なかった」
「だな。ありゃ全く別物だ」
端的な言葉で、見解を繋ぐ。
なんのことかといえば、他でもない〝敵〟────俺たちが予想および警戒していた例の〝黒〟とは似て非なる、思いのほか平和な戦争相手についての話だ。
『緑繋』攻略の第一幕、そして第二幕で都合二度。俺たちが相手取らされた『黒歪』ならぬ〝黒〟の存在が〝敵〟として登場するパターンを有力視していたのだが……結果として、その警戒は取り越し苦労だったらしい。
一発目の巨大穴掘りミミズの時点で……斬り捨てて、即座に察せられた。妙な黒い靄を纏ってはいるが、今回の戦争相手は例の〝黒〟ではないのだと。
「……あの〝界〟に対する模造品と称された『四柱戦争』の舞台。システムが意味深に寄越した『敵』という表記。十中八九、そうだと思っていたのだけれど」
「肩透かしで済ますべきか、逆に不気味と思うべきか……ってとこだわなぁ」
言った通り、予想を外されたからか何とも言い表しづらい気持ち悪さはある。
とはいえ違うなら違うで、一旦は置いておくべきってか切り替えるべきだ。例の気色悪い〝黒〟ではないにしろ、今回の〝敵〟とやらも十二分に……。
なんというか、変な相手であるゆえに。
チラと視線を交わせば、おそらくアーシェも同じ方向へ思考を流していたのだろう。小さく頷き、その頭の中に在る情報を手早くまとめて────
「────……これ、本当にPvEなのかしら?」
まさしく、俺が。そして、俺以外にも前線で連中を相手にした多くの者が思い浮かべて然りの言葉を、ぽつりと躊躇わず口にした。
さすれば、同意でも何でも。
それに対し言葉を返そうとして……。
「「────……」」
俺は反射的に【早緑月】の柄へ手を置き、隣でアーシェも手に『剣』を喚んだ。
束の間の平和が始まってから、数えて二十分少々。
全体を通せば、イベント開始から一時間が見えてきた頃合い────まだまだ、準備など整っていようはずもない俺たちの下へ。
「……お次は」
「……なにかしら、ね」
次なる戦波の気配が、静けさに乗って届いた刹那。俺とアーシェだけに限らず、この舞台に上がっているプレイヤーほぼ全てが同時に身構えたであろう瞬間。
響き渡るは、号砲の如く四方より轟く音響。
それはまさしく、何かを撃ち出す大砲めいて大気を揺るがす盛大な連射音。彼方から立て続けに鼓膜を震わせるソレを聞いて、音の出所へと……。
「「「「「…………………………」」」」」
誰もが無言で、迷わず目を向けて然り。
城塞外。四方の大地に開けられた大穴それぞれ、思い思いの方向かつ上空へと視線を飛ばした俺たちの目に映ったものは、
「いや、そのまんまじゃねぇかよッ‼︎」
誰が叫んだか、そのまんま。
まさしく、言われたならば思い描く極々シンプルな『大砲の弾』……真っ黒で、真ん丸で、遠目にも分かる、それはそれは巨大な無数の砲弾が────
「ッ……ハル!」
「坊主ッ!」
空から降り注ぐとあらば、勿論のこと。
「減らせるだけ減らすッ! 無理な分は任せる何とかしてくれ────‼︎」
《天歩》起動。
後手が返せる初手など一択であると、誰よりも俺が自負しているのだ。
斯くして、一足にて翔け上がった天高くにて。
挑み掛かった、一発目。
相も変わらずというか、徹底しているというか。もう人物どころか動物ですらなく物体じゃねぇかとツッコミがてら、これまでの〝敵〟同様に黒靄を纏う大砲弾の大質量を目前。不明な耐久値を相手に無駄な挙動はしてらんねぇと決め打ち。
とりあえずの全力殴打で、粉微塵にせんと肉薄した俺は────
「────ッ……?」
首筋を過った『勘』に従い、ほぼ無意識かつ反射の実行。虚空を踏みにじりながらの急制動および姿勢制御にて攻撃態勢から防御体制へと瞬時の急転換。
さすれば、再びの刹那。
【真説:王鍵を謡う契鎧】瞬間完全着装および【九重ノ影纏手】影糸全力展開、鎧の上から糸の繭によって来る〝なにか〟に対する策を重ねた、俺の視界を。
「ッッッ………………はぁッ!?」
とてもとても見覚えのある、薄紅の光幕が。
黒靄の大砲弾を基点に展開された、権限を持つ者以外を寄せ付けない壁が。
「なんッ、システム障壁────」
埋め尽くして、叩いて、空から地へと、殴り落とす。
◇《強制交戦》◇
『四柱戦争』において各陣営『序列持ち』が行使可能な戦時固有スキル。個々人に与えられる〝三点〟の持ち点から〝一点〟を消費することで起動する内外干渉不能フィールド。十メートル範囲内に存在かつ目視している他陣営序列持ちを対象に宣言することで条件達成、両者を起点とした障壁が展開され範囲内に他のプレイヤーが存在した場合はフィールド外に強制転移させられる。
端的に言えば、権限を持たない者には絶対に破れない〝壁〟である。




