お取り寄せ
とはいえ、だ。
極めてシンプルなインターフェースのレイアウトや内容を読み取れなかっただとか、意味を察せなかっただとか、そういったガチの困惑では勿論ない。
「……あぁ、これ、未実装カタログってことか」
フェーズの進行不足による制限か否か。いまだ名称未記入かつアクティベートされていないため押せないボタン、その数……ズラリと並ぶまま無限に下へ下へスクロールしていける、その数に呆れ圧倒されて思考が止まっただけである。
『Apport Articles』────外しにきているというか、あまり使われないと思しき言葉の組み合わせではあるが、まあ簡単に『物資の取り寄せ』といった意味合いになるのだろう。そこだけ読めれば流石にUIの概要を掴むのは容易。
「西は、物資ってことみたいよ。カグラちゃんからの報告を聞くにね」
「成程っすね」
そんでもって既に最低限の共有は始まっているらしく、オジジさんが隣から差し込んでくれた情報でもって全体の様子も薄っすらと予測が効いた。
だろうとは思ったが、四つの陣営毎に〝拠点核〟からアクセスできるコレ……おそらくエネミーの討伐累積点であろう『ポイント』と引き換えられる恩恵が異なっているらしい。即ち西が得られるのは即物的な資源だが、東南北は別の何か。
……北は全く想像が付かんが、東と南は大体わかる。
ほぼ確で東が戦闘に関する時限バフ、南は銀行とかになっているはずだ。
「これ、とりあえず木でも石でも一つ交換してみないとですよねぇ? 『×1』とか、これじゃ流石に素材の質どころか量さえ全然わっかんないですよ」
さておき、ともあれ、様子が異なっているという話であれば四陣営それぞれで確認作業が必要となる道理。ニュッと脇から首を伸ばしてきたティラノサウルスの言う通り、とにかく西に関しては一つ……まあ、最低限それぞれ一つずつ。
取り寄せを、試してみなければ始まらないだろう。
「うん。もう許可は貰ったよ。確認にポイント使ってもいいってさ」
然して、爺は爺でも序列持ちとして取り立てられるほどの建築特化魔工師としてバリバリ活躍し、頼られたなら戦場にだって足を運んでしまうタイプの爺様。
バラスト氏の真っ当な……本当に、おふざけの極致みたいな外見に似つかわしくない真っ当が過ぎる提言に隙なく頷いて、同意および先を示すオジジさんである。
さすれば、彼は割かし機敏な挙動でパッと持ち上げた右手を────
「ほいなら雫ちゃん、押してみんさい」
「えうぇっ、わた、へぇあ……っ!?」
仲良く並んでシステム窓を覗き込む、俺たちの背後おおよそ五メートル。
主に俺を警戒してのことだろう、絶妙に心の距離感を可視化している位置で……なんと形容すべきか、こう、はわはわしていた緑衣の幼女を招くのに使った。
それはまさしく『孫に何かのボタンを押させてあげようとするオジジ』の様。
好意と厚意と甘やかしのみぞ介在する好々爺の仕草を見て、怪物に怯える小動物は数秒ほど迷った後────いやまあ、流石にコレで逃げられたら俺も凹んでた。
【雨音一粒】の名に似つかわしい少女は、おずおずおたおたしながらも思い切った様子でパタパタこちらへ駆け寄ってきた。
そんで、オジジさんを挟んで向こう側。チラリと俺に目をやりつつ……。
「え、ぅ、あの……ど、ど、どれ……」
「ほんじゃ、頭っから試してこうか」
問うて返答があれば、芸術的なまでに会話はつっかえながらも行動自体は意外と迅速……なんてのは失礼ってか、んなもん当然でしかないよなと。
この子も、歴とした元序列持ち。
なんにせよ『動こうとする意志』がなければ、アルカディアにおいて〝序列〟を拝することなど不可能であると断じて良いだろうから────ってことで、
「ぇ、え、ぇぃっ……!」
迅速に、ポチリ。
小さな手が不必要に逡巡する様子もなくウィンドウの上を横断し、その指先がリストの頭……『【基本木材×1】 1P』と表示されているボタンを捉える。
タップ。
◇【基本木材×1】を交換しますか? 要求得点:1P ◇
[ Yes ] / [ No ]
更に続けて『Yes』をタップした、次の瞬間。
「────んふぇえぁッ……!?」
「んおわっ……!?」
「あれまぁ」
「おやまぁ」
操作に連動してのことだろう、仄かな光を放って輝く巨大クリスタル。
そんな優しげな発光現象にビビリ散らかして、物陰に隠れる小動物。
そして、一切の躊躇なく物陰提供者にされた怪物一匹。
つまるところ……わかりやす過ぎるほど至極わかりやすい様子で『助けてー!』と俺を盾にする雫ちゃんさん、および急に頼られ当然のこと驚くばかりの俺。
そんでもって、両サイドから微笑まし気に見守る恐竜と御爺。先に続いて「なにこれ……?」と困惑している内に────あっという間。
拠点核の発光は数秒足らずで落ち着き、広場には平常が舞い戻った。
うん。然らば、
「……ぁ、あのー」
真後ろ。抱き着くとか縋り付くとか可愛らしいアレではなく、マジのガチな感じで俺を『盾』として活用するまま身を縮めている【雨音一粒】殿に声を掛ける。
……なんというか、アレだな。
「っ……! ごっ、ごごご、ごめんなさ、咄嗟、あのっ、すみませッ……」
一瞬の拍すら置き去りに、この場における事実上の最安地────即ち怪物の背中へ迷わず逃げ込んだところを鑑みるに、このヒト案外……。
「え、ぁ……あ……! 『木』……! 私の、インベントリに……っ」
口下手なだけで、西陣営全体で見れば珍しい類の強か行動派かもしれんぞと。
名声および『序列持ち』としての技能や特色しか記されていない、己が人事情報に訂正項を加えつつ。振り返れば、大慌てで俺にペコペコ頭を下げながら────
ドッスゥン。
「入って、ました…………ぇ、ぇへ……」
中々なサイズの丸太一本を鞄の中から放り出しつつ……失礼を働いた自覚はあるのだろう。雫ちゃんさんは誤魔化すような笑み一つ、また身体を縮こまらせた。
今までいなかったタイプのアルカディアン。
いや、似たようなの最近いたな……。




