連星疾駆
《天歩》起動、踏み切り一足。一年そこそこも付き合っていれば流石に慣れてきた、馬鹿ほど長い白髪の重みを引っ提げて刹那の内に空高く。
天秤の再傾。
当然のこと、言葉を交わす必要もなく齎される燐光を引き連れながら────
『イスティア総員、新型には手出し無用。悪戯に上方向へ火力を向けるな』
豪快かつ大雑把を常としながらも、いつだって必要な指揮は抜かりない。
ゴッサンの陣営全体念話による状況共有連絡を聞くと共に、東と同じく開戦から群団の迎撃に当たっている南北でも同様の通達がされているだろうと疑わず。
『地上の残り物を片付けたら休憩タイムだ────また、花火が上がるってよ』
ついでに、期待のハードル上げを頂戴しつつ歯を剥きながら。
「っし……────んじゃ漸くの、お披露目といこうかぁッ!」
属性現界〝雷〟顕現魔力全開放。
夜空に映えるは透き通る薄青、素体に対する『裏側』こと転身体に宿る魔力性質。MID:1500を誇る馬鹿ステータスに相応しい、迸る稲妻を侍らせて。
在るは高空。
敵は目前。
開いた右掌の上には、面数不確の黒色立方体ひとつ。
呼び灯す其の名は、
「殺しに来やがれ────【星引斥ノ指斧】」
神話にて太陽と月を追い天翔ける、双狼と同じくして。
斯くして、その瞬間。
爆ぜて潰れた黒色が、のたうち歪み捻じれて爆発的に体積を増しながら、素材となった【巨人の手斧】よろしく俺の身長を優に超える巨大な戦斧に……。
否。振るわれるべき斧などでありはせず、無声の咆哮で大気を揺らしながら柄も何もない単なる巨大な『斧刃』へと姿を変えた、その瞬間のこと。
俺の身体から放出されていた魔力の光が、夜空を照らしていた〝雷〟が、無数の金線にて彩られる漆黒の大晶刃に呑み込まれて────
煌めく、夜闇を引き裂かんばかりの激烈な雷光。
然らば俺は、臨戦態勢へと相成った極限呪物を引き連れるまま、
「そぅら、ついてこいやァッ!!!」
長きに亘る特訓の果て。
言葉通り漸く以って従えるに至った『馬鹿みてぇな武装』との〝鬼ごっこ〟を開始、空を埋め尽くさんとする勢いで湧出を続ける新型へと突貫した。
◇◆◇◆◇
────斯くして、
「………………アレは、なにがどうなって、そうなっているんです?」
「俺に聞くな。馬鹿に聞け」
星空の最中、蠢く黒雲を蹂躙する星が二つ。
片や、先行する白星。
片や、追走する雷星。
付かず離れず絡み交錯して時に乱回転を描きながら天に曳かれる光の軌跡が、無数の蝙蝠型を膨大な死亡エフェクトの残滓へと……ガラスを覆う雨粒を無造作に拭き取るが如き勢いで、情け容赦なく、まさしく怒涛、端から端まで解体していく。
そんな様を見せ付けられて、諦観半分の呆然半分で零す実娘に笑う実父。
何やら馬鹿げた新武装の特訓を密やかに続けていることはチラッと聞いていたが、披露するまでは内緒と勿体付けられ楽しみにしていたところにコレである。
然して、僅か三十秒。
一般的な基準で言えば十分『遠方』に位置する四方四箇所を文字通り瞬きの内に巡りながら、触れるを喰らい続ける双星が新型を────
少なくとも、城塞の内から見える範囲では全て消し去り、
『ぁーッ、もしもしぃッ? とりあえずッ、このままッ、リスキルッ、続けとくわッ! 相手も、無抵抗だしィッ、で十分、二十分そこそこは、おそらく余裕だからッ! 態勢を、立て直したり、とかッ、今の内にアレコレ諸々を存分に────』
「あーあーあーあー分ぁったから集中しとけ馬鹿この馬鹿たれ……!」
「…………聞こえませんが、なにを言っているのか大体わかってしまうのが……」
現在、城塞の内からは見えない範囲。即ち低空にて〝大穴〟より湧き出す飛行型群を飛び立つ傍から刈り取り続けているらしい馬鹿者から連絡が届く。
とりあえず、なにが「無抵抗」なのかと。
お前が抵抗する余地もなく即殺蹂躙しているだけだろうとツッコミを入れる気にもならず、諦観半分の称賛半分で返答する【総大将】およびドン引く【侍女】。
「なんやもう、凄いしか感想が出てきいひんなぁ」
その傍。己が〝群れ〟を西方向へと差し向けて職人陣営の護衛を全うしていた【群狼】ジンが、愉快気に弧を描く細目のままカラカラと笑い、
「おーおー、よくもまぁ気持ちよく使いこなしてくれるもんだよ」
更に脇。現在進行形で荒れ狂っている呪物の製作者こと【遊火人】が、例によって期待を上回る暴れっぷりを披露した専属顧客を上機嫌に眺め……。
その他、城塞の内外。
其処彼処から呆れと親愛に満ちた歓声やら野次やらが吹き荒れる────
そんな時間が、また暫く続いた後。
「────ん……?」
四陣営『指揮官』の、更に横。
実質的な南陣営の指揮官二人目および数秒にて城塞の端まで駆けること可能な即応最大戦力として、共に城塞中心地点にて待機していた【剣ノ女王】が……。
物は言わずとも、迫真のドヤ顔を無表情に浮かべていたアイリスが、不意に首を傾げる。それは果たして訪れるべくして訪れた予感か、あるいは偶然か────
四方。
突如として各陣営〝拠点核〟から光柱が天高く放たれる、前触れとなった。
【星引斥ノ指斧】制作武器:弐式魔力喚起具現化武装
外見は大体本文の通りで繰り返しになるけど、端的に柄のない大戦斧の刃だよ。
素材の片割れになった【巨人の手斧】の『短い柄部分を覆うほど刃部分が馬鹿デカい形状』そのまま漆黒 with 金線無数の柄無し馬鹿デカ結晶刃になってるよ。
名前の形式が既存の魔力喚起具現化武装と違うね。
ご安心ください、性能云々は今戦争中に続々と詳らかになるそうです。




