繋いで、紡いで
「『火入れの献儀』」
重なり合うのは、小さな掌。
「『風の抱擁』」
繋がり絡むは、華奢な指先。
「「『焚べいる薪は廻り廻りて黒を過ぎり』」」
「「『透いて透いて透き通るは金剛の架け橋』」」
それぞれ空いた片手に携える一揃えの絵筆は、左右に在って翼の如く。
「『光を呑み、熱を見て、時を聴く汝は輝石の王』」
「『悠久は此処に至り、憧憬を其の身に集め』」
頭上に頂くは、二人で一つの巨大な王冠────
「「『今、産声を上げる』」」
然して、
「『かがやけ、輝け、耀け、赫け』」
連ねて重ねて、
「「『はるか、遥か、遙か、見果てぬ彼方まで』っ……!」」
溶け合う声音が、
「双翼を以って「此処に描く……ッんさぁて! それでは御覧あれぃ‼︎」
描き出すのは……──ただ、ひとつ。
「《斯く輝くは……────‼︎」
「────……金剛の地平》」
仮想世界に於いてプレイヤーが成し得る、最大規模の奇跡絵図。
────斯くして、その瞬間。
二人のすぐ傍、城塞内に櫓代わりとして突き立てられた砂剣巨塔天辺の横合い。即ち高空、フィールドを一望できる特等席から奇跡の顕現を見届けた俺は、
「………………仮に、俺がゲームマスターなら、一切の躊躇なく下方修正するぞ」
一体全体、距離にして何キロに及ぶのか知れぬ途方もない影響範囲。
障害物の存在しない高みより睥睨する二人……視界内全てが射程圏内と謳う『東の双翼』の言を真実と称するが如く、城塞周囲をグルリと囲うように奔り抜けたのは────異空の星夜に照らされて燦然と輝き透き通る、金剛石の大障壁。
瞬きの間に存在を成立させた、城塞外周に続く二枚目の城壁。
おおよその高さは十数メートル。元から用意されていた城塞の壁に比べて少しばかり低く、また馬鹿げた顕現範囲との兼ね合いか、厚みも大したことはない。
────だが、
「っ……んにっへへぇ…………久々に撃ったぜ〝最強魔法〟ぉ……」
「っは、ふ…………三時間は、動けない……つかれた」
二人共の、魔力全損。
並びに単なるキラキラでは済まされない、夥しい数の術式を練り込むがために一撃で激しい幻感疲労を引き起こすという……ちみっこ二人の、奥義はまさしく。
「ぐへー…………────と、お兄さん。漏れはー?」
「…………ぁー、無い。先頭連中は、綺麗に呑まれて消えた」
現アルカディアに於いて三本の指に入るほど有名かつ高名な〝究極最強秘奥義〟が、まさか『ただの綺麗な薄い壁』で終わるはずがない。
《斯く輝くは金剛の地平》────ミィナとリィナが最初に編み上げた詠唱術こと〝土〟にして〝地〟を司る極大魔法、秘める権能は〝不壊〟と〝同化〟。
外から来るモノには壊されず、内に抱いたモノは抱き殺す。
つまりは影響範囲に捉えた標的の存在を塗り替えて消すと共に、思い描く通りの形に巨大な防壁を築いてしまう瞬時攻防一体……もとい、一撃必殺絶対防護顕現。
外からの攻撃ならば『魂依器』に近しい耐久力、即ち早々は成し得ない超高威力を局所的かつ刹那的に喰らいでもしない限り、あの煌めきは砕けない。
とはいえ『一撃必殺』の方に関しては概ねという注釈が付くらしく、存在リソースが莫大なもの……所謂ボス格の強大なエネミーに対しては存在の塗り替えが間に合わず、内から砕かれてしまうという難点はあるものの────
たとえば、プレイヤー。あるいは巨大でも強大でもないエネミーの大群など……それこそ、今まさに北東から城塞へ肉薄していた〝小物〟程度は問題外だ。
然して、燦然と輝く金剛壁の内。
捉われ囚われ瞬く間に『同化』されたのであろう〝敵〟の群れが、亡骸も残さず残滓さえも逃げられず檻の中で僅かばかり瞬いて消えると共に……。
「……大丈夫、そ?」
「………………ぁー、うん。ビクともしてねぇ」
後続、四方。
一拍あるいは数拍。遅れて第二城壁に到達した靄を纏う獣……やはり目を凝らしても何故だか特徴を掴めない靄獣どもが、自らの勢いで次々と頭を潰していく。
よじ登る、というのも無理な話だろう。
第二の城壁は元より用意されていた城塞壁より背は低いものの、遠慮ナシの外向き傾斜設計により全体が鼠返しの様相を呈しているから────
「ま、暫くは」
「入ってこれない」
「とはいえ、想定外の大ジャンプとか更に穴掘りしてくる場合に関しては……」
「オーダー外。……他の皆で対処、よろ、しく……」
「でーっす……」
とまあ、自分たちが成した仕事の結果を見届けて満足げに座り込む二人の言葉通りだ。二枚目の城壁(不壊)という間違っても気休めには納まらない『余裕』を得ると共に、突如の開戦に際して暫しの時間的猶予という得難いリソースの確保。
文字通り、瞬く間に、それだけの貢献。
たとえ最強の火力砲台を数時間の再起不能に陥らせようとも、その損失を許容して然りの一手には違いないだろう。────そうとも、
それとて、二人の言う通り。
「おつかれさん────さて、ゴッサン?」
『おう、よくやった二人とも。回復するまでは気兼ねなく休んどけ』
「うぃー……」
「んー……」
これは決して、特記戦力だけによるヒーローショーなどではなく。
『出番だぜ野郎ども。近接隊は壁を越えろ』
それらも併せて纏め上げる、大将たちの指揮の下で────
『とりあえず……────来る奴は拒まずだ、一匹残らず〝歓迎〟してやれ』
軍団が、戦吼を上げる。それこそが四柱戦争であるからして。
なお高さに関しては今回のような十数メートル程度が限度(影響領域を〝地〟から離し過ぎると全体の強度が著しく低下する)なので、ネタが割れている&何かしらの手段で二十メートル程度の跳躍が可能なプレイヤーにはタイミングを合わせての大ジャンプで躱される模様。第十回で【総大将】諸共に全滅した魔法士部隊は最低限の機動力を確保しているだけの純魔の群れだったので諦観の下に星となった。
加えて何かしらの手段で瞬間的にでも全周防御が可能&魔法成立後一瞬の猶予で内から金剛を砕ける火力を持っているのであればタイミング次第で真正面からでも対処可能。ただし呑まれた時点で全ての物質が〝同化〟されていくのでタイミングが遅れたら防御手段ごと塗り潰されるし、物理的な手段で突破を強行した場合は用いた武器あるいは肉体が大なり小なり瞬間的な〝同化〟で被害を受ける。
結論、無法。
────おまけ・えいしょうのよみがな────
・《斯く輝くは金剛の地平》
『火入れの献儀』『風の抱擁』
『『焚べいる薪は廻り廻りて黒を過ぎり』』
『『透いて透いて透き通るは金剛の架け橋』』
『光を呑み、熱を見て、時を聴く汝は輝石の王』
『悠久は此処に至り、憧憬を其の身に集め』
『『今、産声を上げる』』
『かがやけ』『輝け』『耀け』『赫け』
『『はるか、遥か、遙か、見果てぬ彼方まで』』




