戦力十全
「────……ッ」
相も変わらず流されるまま。今戦争の背景やら事情やらは知る由もなく、在るのかさえも不明だが、事ここにまで至れば流石に状況の流れくらい理解できる。
道の開通。
押し寄せる〝敵〟は地平線の彼方からではなく、絶妙な距離の地中から。
そう、絶妙な距離。既に掘削役が散った北東位置、俺の真下で一足先に『群団』の排出を始めたものを含めて、戦場に空いた大穴は等間隔に城塞から一キロ程度。
近過ぎる。
地面を打ち鳴らし迫る足音の津波、自動車よりも余程に早いソレらにとっては助走に丁度良い距離感。そして迫り来られるプレイヤーにとっては、精神的な脅威としてジワリと作用するに丁度良い距離感……かつ、対応に逸って然りの距離感。
これは良くない。完全に攻める側の有利状況────
『坊主、待機だ』
然らば反射的。まさしく逸りかけた俺の脚を、念話越しの冷静な声音が止める。
別に『俺が何とかしないと』なんて、馬鹿馬鹿しい慢心に背中を蹴飛ばされたわけではない。けれども実際、咄嗟に自分で何とかしようと動きかけてしまった。
そういうとこ、まだまだ流石に戦局眼は追い付いて来ねぇな、と。
「了解、任せる」
基本的に猪突猛進が抜けない自分を軽く笑いながら、大人しく指示に従う旨を大将殿に伝えて返せば────さて、地獄めいた現状を見渡した刹那。
『『『────────────────
先程、俺が成したことのリプレイ映像が如く。
────────────────』』』
巨塔が三本。瞬く間に両断されて、崩れ落ちた。
◇◆◇◆◇
斯くして三方向、刀が二振りに剣が一振り。
一体目もとい一塔目に続いて現出した化生を、ほぼ同時に三つ。それぞれに駆けて斬り倒したのは【剣聖】および【無双】────そして【剣ノ女王】。
「ヘレナ」
然らば、ほぼ同時の内訳。一人だけ城塞のド真ん中から急行したゆえ、実際は距離的な問題で僅かに遂行が遅れたアイリスが声を投げ掛ける。
念話の繋がる先から返るは、勿論のこと。
『問題ありません。放置択は無かったでしょう』
彼女の右腕にして、疑いの余地なき信頼を紡ぐ【侍女】の声音。
『仮に留め置いたとしても、あの巨体に見合わぬ極端な耐久力の乏しさです。ならば今度は、自らが掘削されて通路を空けることも想像に難くありません』
「…………どういう生態、なのかしら」
『怪しいですね、生態があるのかすら』
交わされる言葉は、どこまでも冷静に状況を俯瞰する者同士のソレ。
先の一瞬で迷わず『排除』の号を出した【侍女】ヘレナと、その指揮に対してノータイムで同意を重ねた【剣ノ女王】アイリスが、実声の届かぬ距離で頷き合う。
此処を含め、先んじた北東に続き指揮は完遂。三方向で馬鹿げた死亡エフェクトの濁流と解けて消えていく化生の亡骸を見つめながら────
『では、戻ってください』
「了解」
ふわふわと宙に浮かんでいた姫君は、再び空を強引に蹴飛ばした。
◇◆◇◆◇
「────面妖な手応え……お豆腐でも斬らされたかのようでしたね」
南西。そのもの自重で自壊したとて可笑しくはない柔らかな獲物を斬って捨てた、身の丈を越える大太刀を器用に鞘へ納めつつ。
言葉通りの労力しか覚えなかった【剣聖】が、穏々と感想を独り言ちる。
それこそ、たとえ〝技〟を駆使して到底のこと足りない刃長を補わずとも……ただ刃を触れさせれば、勝手に絶えたのではないかと疑ってしまうほど。
呆気ないが過ぎる散り様で去って逝った怪物に、ういは首を傾げつつ。
「大将さん。次は如何しましょうか」
恥ずかしげはなく、在るべき姿は定めて堂々と。
己には『戦術を浮かべる才』も『戦局を見極める眼』も備わってはいないと識る【剣聖】は、それらを補って余りある〝力〟を────『刀』を体現するまま、
素直に、行く先を他者へ問う。
『おう。とんぼ返りで悪いが、すぐに戻ってくれ』
「承知しました」
それこそは、少しずつ〝ぱーてぃぷれい〟も上達してきた今の【剣聖】である。
◇◆◇◆◇
「────終わった、帰還する。……で、いいんだろう?」
『お前さんは話が早過ぎて可愛げがねぇ。坊主くらいが丁度いいぞ?』
「言ってろ」
南東。二刀を鞘へ納めつつ早速のこと踵を返した【無双】が、先読みの容易い指揮を確認しながら城塞への道を疾く駆ける。
然して、直接の指揮取りを好まないだけで才の有無は言わずもがな。類稀なる戦いのセンス先行、指揮なくして指揮に動ける優等生が連ねる言葉は────
「足止めの必要は?」
『ない。タイミングは任せとけ』
「誰に?」
『勿論、本人たちにだ』
「…………不安になる断言を、ありがとう」
やはり、可愛げのない先読み問答。しかし預けられた手綱を握るゴルドウも慣れたもので、囲炉裏も念話越しに笑う大将が適当を宣っても苦言を呈すことはなく。
「まあいい、了解した」
一キロ少々程度の距離、近接戦を専門とする序列持ちにとって二言三言を交わす程度の目と鼻の先でしかない。然らば、早々に城塞の壁面へと到達した侍は、
「意向通り、念のため待機はしておこう」
『だぁから、俺に指揮させろってんだよ格好つかねぇだろぉ?』
やはり、信頼を以って先読みが通ずる【総大将】のオーダー通り。
再び二刀の鞘に手を掛けつつ振り返ると────怒涛の如く大穴から溢れ出しては迫り来る、慌ただしい百鬼夜行を見据えて笑んだ。
そして、四方に開いた入場口から一直線。
『群団』……時間を掛けて跡形もなく消滅した巨塔の化生と雰囲気を同じくする、暗闇の靄を纏うがため詳細を読み取りづらい〝獣〟の群れが、目指す先。
瞬く間に包囲状況を形作られ、瞬く間に文字通り戦場の中心と化した、城塞に。
「《剣の円環》」
その、内に。
「《この手に塔を》」
突き建つは、剣塔。
次いで、その櫓の天頂。天辺に位置して足場には十分な柄頭の底部へと、空を翔ける〝星〟に攫われ運ばれた小さな影が二つ降り立ち……。
「『ひとつ』」「『ふたつ』」「『みっつ』」「『よっつ』」
「『連ねて』」「『重ねて』」
「「────『織り成す真事』」」
ステージに立つアイドルが如く、朗々と唄を歌い始めた。
こんな城塞は攻めとうない。




