激して動くは戦の場
「────……っと」
静かなる残心……なんてものは、残念ながら介在する余地のある『剣』に非ず。
再びの《タラリア・レコード》空中歩行。足場と化した虚空を削りながら荒ぶる豪速回転の余韻を散らし、役を果たした【早緑月】を黒節の鞘へと納めて了。
オーダーに則り景気よく両断した馬鹿馬鹿しいまでに巨大な化生。結局のとこ全長ってか全貌も確認することなくスパッと袈裟に下ろしてしまった謎の……。
…………謎の、なに?
なんか、こう、黒い靄を纏っていたので余計に正体がハッキリとしないままだったが、まあなんか蛇とかミミズとかのニョロニョロ系なのだろう。おそらく頭部を含んでいると思しき大地から屹立した先端部分を斬って落とせば即絶命。
ゲーム特有、アルカディア特有。
ソレを目で見りゃ確実な戦勝判断を成し得る青い燐光……即ち、エネミーに共通する死亡エフェクトに解けて光の瀑布となった謎存在を見送りつつ。
「ま、こんなもんで如何かな?」
『……ぁー、そう、だな…………十分だ。よくやった』
背後および地上から沸き上がり届いた歓声を聞き流しつつ。任務遂行の評価を求めれば、念話で届くは呆れ混じりを隠せていない称賛の言葉。
景気付けとしてド派手に魅せてやれ────そう言って一番槍を送り出したのはゴッサン本人であるのだが、なんとも誉め言葉の歯切れが悪い。
うん、まあ、アレかな。
『んで、なんだ今の……? なにした……???』
「〝なに〟…………超必殺ウルトラ人力ウォーターカッター……?」
『…………そ、そうか。凄ぇな』
溢れるノリと勢いで未公開の新技を披露したら、無事にドン引きされたらしい。
『お前さん、いくつ〝必殺技〟抱えてんだよ?』
「さぁ……? 真面目に数えたことないから、ちょっとわかんないな……」
然して、地上と空中。思考によって繋がれた意図に微妙な空気が流れかけて悲しくなるが……ってか、いや、正真正銘そんなことやってる場合ではないので。
「ん゛ん゛ッ……────さておき、あれだ。予測通りの手応えだったぞ」
サイズがサイズだっただけに、散り際までも馬鹿げた迫力。瀑布となって、洪水となって雪崩落ち、端から空間に溶けていく化物ミミズの成れ果てを眺めながら。
「スッカスカ。レイドボスどころか、ハーフレイドボスにも満たねぇな、今の奴」
俺は自らの掌に残る、極めて呆気ない〝手応え〟を大将殿に述べて伝えた。
『……わかっちゃいたが、あの馬鹿デカいナリでか? どうなってんだか』
「俺が聞きたいっすわ。……いやまあ、万が一あの巨体に体当たりでも許せば普通に壊滅的な被害は喰らったんだろうけども…………うーん?」
他ならぬ俺たちプレイヤーがソレの最たるものだが、ゲーム的なシステムの働くアルカディア世界に於いて身体の大きさや質量は戦闘力を構成する極一部の要素に過ぎず、例えば小さなヒトの身一つで山を吹き飛ばせてしまう程度は普通のこと。
……というのは序列持ち基準で諸々が狂っているかもしれないが、つまるところ『そういう世界』だということには違いない。────然らば逆も、また然り。
デカいは強い。重いは強い。それは確かに真理ではあるが、デカいだけの雑魚や重いだけの雑魚が存在してしまうのもゲームというものである。
ゆえに天災と見紛うような規模のバカエネミーが、プレイヤー側の極まった火力でワンパンされるという状況も、決して起こり得ないことではない。
ない、のだろうが……それにしても、といった具合。
それにしても、あの行き過ぎたスケール感で、たかだか一人のプレイヤーの『超必』ごときで一撃即殺サヨナラ爆散というのは如何なものか。
確かに、なんというか巨大であると同時に弱そうな気配を、わざとらしいまでに振り撒いてはいたが……──まあ、結局なにが言いたいかってのは、
「いやーな感じがするわー……」
『あぁ、気に入らねぇな』
多分アレ、俺たちに被害を齎す役目を、端から持ってなかったんじゃねぇのと。
予感、予測、推測、推論。
俺は一年、他の者は更に長く。各々が親しんできた幻想世界のメイキングが、広々とした信頼の足場にジワリジワリと不安の池を形作っていく。
そうとも。何かしらのイベントが起きて、その内容に拍子抜けした時は────
『警戒しろ坊主。おそらく、すぐにでも……』
「あぁ、だろうよ……」
そうとも。
決まって、必ず、間違いなく……────続けて、何かが起こるのだ。
斯くして、数秒後。
「…………………………」
ザワリ、振動する空気。
遠くから……否、大地を隔てて、そう遠くない距離から。
「………………あー……」
つまるところ、他ならぬ〝穴〟の中から。
「ったく……────バッチリ役割完遂してんじゃねぇ、穴掘りミミズ」
今や全てが虚空に溶けて消えた先の化生が……盛大に突き破り広々と空けた、大空洞の奥底から。湧き上がり迫りくる無数の鳴き声たちを。
俺も含めた、おそらく全てのプレイヤーが察知した、次の瞬間。
『『『『『──、──、──、──、──────────ッッッ‼︎』』』』』
けたたましい絶叫と、轟く進軍の足音を無限に連ねて。
大地にポッカリと空いた直径二十メートルは下らない『口』から────全くもって、数える気にもならない規模の、エネミー百鬼夜行が溢れ出す。
そして、それと同時。
北西、南西、南東────俺が対処した北東に続けとばかり、更に三箇所から。
『『『──────────────────────────────』』』
巨塔の化生が、天高らかに屹立した。
わぁ




