開戦の星
────それは、揺れ程度と称せるような生易しい衝撃ではなく。
先に確認された従来の四柱舞台同様『浮いている』という事実を踏まえれば、避け得ず『墜落』だの『崩落』だのといった最悪の事態が思い浮かんで然りの事態。
下手をすれば地面越し、アバターにダメージが入りそうなほどの大震動が奔り抜けた瞬間。脅威と思しき未知に晒されたプレイヤーたちは……。
「なんじゃぁッ!?」
「お、始まったか!」
「こーれはマグニチュード10ありますね」
真っ当に驚きながらも笑みを隠せず叫ぶ者、震波を軽く受け流し笑う者、冷静を装いつつも半笑いで冗談を宣う者……────といった具合に、
「………………れ、冷静、ですね。皆さん……」
誰も彼も見渡す限り。少なくとも……反射的に小さく悲鳴を上げてしまい今ほんのりと頬を赤らめている少女から見れば、頼もしいが過ぎる強者の様相。
然して、わかっていたことなれど感心するソラの隣。
「はは……まあ、歴戦の猛者ばかりですからね」
外見は可愛らしい少年なれど本人も『歴戦』に数えて不足ないカナタが、ふらついた少女を支えるべく咄嗟に伸ばしていた手を背中から離す。
そして添えられるは「失礼しました」と、不意の接触を詫びる紳士な一言。当然のこと気に障る理由も気にする余地もない善意の助けである事実、ソラが謝罪を受け流しながら「ありがとう」と恥ずかしげに微笑む────その最中、にも。
「うおっ、余震っ!」
「……余震、という、か、ずっと揺れて、る」
激震が断続的に……否、継続的に鳴り奔る。
ソラたちの傍。自ら飛び跳ねている素振りもないのにピョンピョンしているミィナとリィナの小柄かつ軽い身体が、その証左であると共に……。
「…………地中」
そんな目安がなくとも、おそらく全員。振動を物ともせず静かに穏やかに隣へ歩み寄り呟いた【剣聖】も含めて、この戦場にいる誰もが捉えているだろう。
勿論、ソラも。当然だ────現実世界の限界を遥かに超えて備わる各種感覚が、これほど巨大な気配の現出を取り零すはずがない。
なにかいる。この大地の下に────しかし、
「大物の気配、ですね。……少々、妙ではありますが」
いまだ抱えた大太刀の柄に手も掛けぬまま、のほほんとしている【剣聖】が悠然と浮かべる微笑こそ場の総意とばかり。騒ぎは起これど混乱は起こらず。
そう、彼女の言葉通り。経験値の蓄積で言えば幅広い意味で、この場に集った誰にも劣る少女でさえ感じ取れてしまうチグハグな違和感。
間違いなく巨大であるはずのに、なにやら妙な気配。
盛り上がる周囲三百名余りの只中、まだソラには上手く言語化できない違和感に塗れた『震源』は────そのまま、数十秒も大震動を撒き散らした末に。
「────…………さて、お出ましだ」
ぽつり。
姿も見ぬままに起こりを読み取った囲炉裏が呟けば、刹那。
『────────────────────────────────』
これまでに倍する大轟震、そして文字通り高らかに夜空へ吼える極大響声。
然して……予期して備えていたのだろう、流石の一言。
今度こそ直撃を受ければ大なり小なり被害が発生していたであろう物理的かつ音響的な激震を、危うげなく迎え受けた魔法士たちの保護障壁を挟んで彼方。
位置関係は城塞から見て北東。大地を突き破って現れた巨大な影────
「…………………………なんだ、ありゃ?」
異空間の星空、その天頂を目指すが如く。屹立した部分だけでも全長百メートルは下らない馬鹿げた長躯は、誰が零したか知れぬ呆然が全くもって相応しく。
暗闇を纏った、線形。
そう形容するしかないほどの特徴皆無。まともに聞き取ることすらできない大音量で『吼えている』以上、口は在るのだろうがソレも見当たらない。
ただただ、巨大で甚大な存在。そうとしか言えない異様な在り様。
「……、…………」
視覚的な圧で、気圧される。思わず、反射的に、一歩だけとて後退ってしまったソラを誰も笑いはしないだろう。────けれども、だからこそ、
「…………で、どーするゴッサン? とりあえず磨り潰そっか?」
戸惑うソラの背中にピタリ。励ますように引っ付きながら気の抜けた声音をミィナが届け、それが場違いに思えないがゆえ件の違和感が余計に増す。
そう、あれほど巨大な存在なのに。
圧倒されて当然と思うべき、馬鹿馬鹿しいまでの怪物なのに────
『ぁー、全員、動くな。そのまま待機』
陣営全体一斉念話通信。頭の中で朗々と喋る……しかし、やはり緊張感は含まれていない【総大将】の指示に対しても、焦燥感が湧くことはなく。
『知っての通りだ。────鉄砲玉の枠は、間に合ってるからな』
空っぽな城塞陣地の、中心地点より。
楽しげな戯れ事を合図に、音を置き去りにする速度で地上から撃ち上がった星を見送ることにも────やはり、不安など欠片も湧いたりしなかったから。
「────ハルっ……!」
少女は……相棒はただ、声は届かずとも、声援と共に〝天秤〟を傾けた。
斯くして、化生現出より数えて三十秒足らず。
巨大に迫る極小の〝星〟が一つ、空の上。
「────四凮一刀、二の太刀改」
夜空を裂いて引っ提げるは、彗星の如く青光を闇に曳く翠刃。
振るわれたなら、刀は閃き────
「《涓尽》」
描き出されたのは、水光の真円。
音もなく迸り煌めいた満月の如き大円斬が、
『────────────────
全貌も知らぬまま、見る必要もないとばかり。
────────────────』
揺らめく暗闇を身に侍らせた化生の巨塔を、袈裟懸けに両断した。
星が放つ水月の太刀。
二の太刀《涓》臨界収斂最大出力+《天秤の詠歌》MID上乗せ×《水精霊の祝福》×《水属性付与》射程延長+『竝枝界拓』顕現〝水〟魔力全載せ+《天歩》定点全力連打回転による超射程ウォーターカッターホイールソーだそうです。




