準備期間
斯くして、下りて伝えて受け取りノンストップひとっ飛び。
上空から見た光景をリィナの幻影を交えて共有した後。俺はゴッサンから指令を、ロッタから早々に完成した地図を受け取り────
「ぃよっす!」
「うわビックリした、至近距離に着地すんじゃないよ騒がしい……!」
対角線へと空翔け数秒。西陣営の初期地点にてズシャァッと着地すると共に声を掛ければ、目指した御仁は僅かに肩を跳ねさせた後すかさず俺に文句を投げた。
こりゃ失敬。
ともあれ、他にも二百余りの視線と注目を受け流しつつ、
「はいコレ、ウチの地図職人から」
大事に抱えてきた巻物を手渡せば、今四柱における西の頭目役────
「あぁ、そういう……相変わらず仕事が早いことで」
現職人第二席にして俺の専属魔工師様こと【遊火人】は、戦場に在れども常と変わらぬ着物姿に紅の髪を揺らしながら泰然と薄く笑む。
緊張など、欠片も持ち合わせていない様子。
平時は割かし軽々とキャラ崩壊を起こすくせして、こういった大舞台に関しては以前の『緑繋』攻略よろしく小揺るぎもしないらしい。流石の貫禄である。
さておき、
「使える?」
「使える。存分に活用させてもらうさね」
ロッタが完成させた地図は、俺が上空から目視した光景そのままシンプルな絵面で至極サッパリとしている。つまるところ、従来の迷路図のように単純明快わかりやすい恩恵が俺には読み取れない────が、職人様の目には違って映るようで。
「おぉ、見識の坊は流石だの。配慮が行き届いとるね」
即答で頷いたカグラさんに続き、傍にいた爺様……──前期の第八席【大金持】Oz-爺さんが、横合いから覗きつつロッタの仕事ぶりを称賛する。
……見識の、坊? ロッタが、坊…………いや、うん、置いといて。
「んじゃ、建築云々の段取りは任せたよ爺さん」
「あいよカグラちゃん。どーんと任せときなさいや」
俺からカグラさんへ渡した地図は更にオジジさん……西陣営有数の建築特化魔工師様へと渡り、白髭禿頭の小柄な賢人は飄々と手を振り輪を離れていった。
然らば、彼の向かう先。そちらも建築分野に秀でる職人集団の最中、俺の姿を見つけて大きく手を振る『干支森』メンバーのオークス氏に挨拶を返しつつ、
「さて……────とりあえず、作戦通りかい? 伝令様」
冗談めかして指示を仰いできたカグラさんに、使命に準じて伝えるは単刀直入。
「あぁ、指揮官集合。お連れするんで、姫か俵か選んでくれ」
────然して、数秒後。双方の提案を蹴られた俺は我儘な姐さんを丁重に運搬用異空間へと仕舞い込み、再び伽藍洞な城塞の空を翔けた。
◇◆◇◆◇
そして、数分後。
「────出来得る限りで現状報告」
伽藍洞の中心地点。重ね重ねて常の四柱舞台よりは狭苦しいが、狂ったスケール感を正して見れば普通にというか無駄に広い城塞の只中にて。
お手軽空輸タクシーの活躍を以って軽快に集った四陣営指揮官より南の姫……即ち【剣ノ女王】ことアーシェが、今日も今日とて絶好調の無表情にて音頭を取る。
然らば、
「ま、なんもわかんねぇな。とりあえず、部隊分けは進行中だが」
東の大将、
「同じく。拠点核にもアクセスできないから、なんのこっちゃわかんないね。持ち込んだ素材にも限りがある、今のとこは想定と段取り組みくらいしかできないよ」
西の姐御、
「同じくやねぇ。ぁ、作戦通り北の子たちは散らせとるよ。ほら見て」
そして、北の統領。
言葉通り遠目にも移動を開始しているのが見える北陣営の面々をジンさんが指差して、以上終了。結果として報告も何もない現状共有に終わったが仕方なし。
「ん……南も同じく。城塞規模に合わせてヘレナが部隊を再編しているけれど、これからの展開次第で何度でも必要になるでしょうね」
無敵の姫君、そしてその旗頭を支える『女王様』とて情報ナシでは考えようがない。ゆえに出来得る限りを全うすれば、共有会は滞りなく進行する。
────斯くして、
「……十分」
なにもわからないまま、わからないなりに出来得ることを遂行し続けて六百秒。
アーシェが区切りを示すように言葉を刻んだのは、従来の四柱に於いて意味のある時間……即ち『開戦前の準備時間』が終わるタイミングをなぞってのこと。
これまでの陣営間競争形式であれば、転移から十分経過の直前で〝柱〟の出現を報せる光塔が立ち昇り、次いで巨大迷路区への入口が解放される流れであった。
それゆえ、必然の警戒。代表としてアーシェが口にしていなくとも、俺を含めて全員が視界端に表示されている戦場経過時間を気に掛けていたことだろう。
「…………なにも」
「起きひんなぁ」
だからこそ、直前にも、今になっても、静けさが支配するばかりで動きのない舞台へ向けて気の抜けた声が出る。カグラさんの呟きにジンさんが乗り、
「ま、長めに時間くれるってんなら願ったりだがよ」
「そう、ね……」
ゴッサンが状況をポジティブに受け取り、アーシェが頷く。
まあ、ゴッサンの言う通りだ。拍子抜けの停滞と見てしまうのは間違いであり、現状の俺たちは右も左もわからない未知へ放り込まれた羊の群れ。
態勢を整える時間も、来る〝なにか〟に心を備える時間も、いくらあったとて不足はないのだから……────と、タクシーはタクシーらしく物言わず見守る中。
「…………ん。私たちは、このまま暫く待機。それぞれ遠隔で各陣営の指揮を」
「だな」
「あいよ」
「ほい、了解」
アーシェが次の判断を下せば、他三人が即座に応を返す。
今回の新生四柱戦争では従来の『大将』システム……陣営から一名を選び特大のメリット&デメリットを付与する機能は失われている。
が、代わりに『指揮官』という名称に改められ一部のメリットが続投────他でもない『念話』機能であり、これは今までと全く同じ形で自由に使えるようだ。
全く同じ形ってなわけで、各陣営の指揮官が別陣営のプレイヤーへ『念話』を繋ぐことは不可。よって全ての人員で密に連携を取ろうとするのであれば、これ。
四陣営の指揮官が、一堂に会する他ないということである。
なお、南に関して役職を背負っているのはアーシェではなくヘレナさん。
なのだが、女王様は東西南北で今回最大人数となる四百名を現在必死に調整中ゆえ代理で姫が来たということだ。まあ南の頭脳は二人三脚が通常運転みたいなところがあるので、二人の連絡連携について心配など無用であろう────
と、いったところで……そろっと、タクシー挙手。
「ぁー、俺も待機でオーケー?」
静けさに際して動きようがないのは俺も同じことだが、黙して思考連絡に没頭している各々方の脇で真実ぼけっと突っ立っているのは居心地がアレ。
ゆうて必要とあらば各人を瞬で移送するため居るのが無意味というわけではないが、それならそれで『居ろ』という指示が欲しいなぁ……なんて、
俺も俺で、油断しているつもりはないが多少なり気が抜けていたのだろう。
ぁヤベぇ無用な戯れを言って無駄に集中を乱すようなことを……と、秒で反省した俺の内心を知ってか知らずか、振り向いたアーシェが薄く微笑んだ────
そんな折。
得てして〝事〟とは、空気が緩む刹那を好むように、訪れるようで。
「えぇ、ハルも此処に居────」
皆の旗頭様が、小声で俺を甘やかそうとした、その瞬間。
激甚な震動が俺たちの足元を駆け巡り、比喩ではなく舞台が軋みを上げた。
は、只今を以って終了いたしました。




