舞台へ
断絶、接続。転移を過ぎて感覚が繋がり、瞬間の空白を経て視界が開く。
そして────
「────…………おぉ」
俺は、見知らぬ光景の只中にいた。
周囲を見回せばヒト、ヒト、ヒト。体感数秒前、即ち転移の直前に東陣営戦時拠点【異層の地底城 -ルヴァレスト-】エントランスにて集合していた者たちの波。
位置は『記憶』そのまま。けれども〝場所〟が違う。いや間取りというか敷地の広さは似たようなものだが、明確に屋内ではなく屋外だ。
つまるところ────
「……廃墟?」
「崩れてんなぁ」
すぐ傍。共に転移で送られてきた囲炉裏がぽつり、次いでゴッサンが重ねた言葉の如く、俺たちは円形に瓦礫が積まれる広場に立っていた。
重ねて、見知らぬ、見覚えのない光景。
けれども、確かな既視感は『記憶』にある。然して、それはおそらく……。
「────……ハル」
「……あぁ、だな」
囲炉裏たちよりも傍、すぐ隣────『対人戦』ではないのであれば、参戦要請が来ないはずもなく俺の隣に居ないはずもない相棒も含めて。
『記憶』のギフトなどなくとも、多くの者が即座に思考を達したことだろう。
見上げれば星空、常の光景。見渡せば壁、形は違えども常の光景。そして、在るのは〝城〟だったモノと思しき瓦礫、常ならぬ光景……つまるところ、
攻略面子が、そして観客たちが、過去に見た〝界〟の……四柱の舞台に似て非なる〝オリジナル〟の空間と雰囲気を同じくする、そんな場所へ。
飛ばされてきた俺たちは、
「……────よし、ロッタ」
「お任せを」
依然として『なにもわからない』という状況把握など、僅か数秒で事足りる。その程度は俺に限らず、序列持ちに限らず、この場へ立った者たち全ての共通項。
然らば迷いなく名を呼ぶことで指揮を飛ばした【総大将】に、なによりもの当然の如く付き従い此処へ来たロッタ……元序列称号保持者【見識者】が応える。
応えて、
「見開け────《記録の詠み手》」
その瞳の輝きを、緑からオニキスの如き漆黒へと遷して映す。
魔眼の魂依器。名を名たらしめる【見識者】の見識眼、即ち見れば識る眼。第五階梯【天識を攫う業瞳】────備える権能は、存在の解読。
能力行使の対象に応じて発露する結果を変える『読み取る眼』が持つのは、端的に言えば目を向けたモノの〝構造〟を瞬時に隅々まで理解する力だ。
つまり、過去十二回。
イスティアが南北を置き去りに四柱迷宮の『地図』を得ていたのは……。
「……うん、予想通り随分と狭い。これなら五分と掛かりません」
他でもない。このように『地形』を対象に発動すれば数十キロ単位で効果を及ぼす、メチャクチャな権能をメチャクチャな有能が存分に奮っていたゆえである。
然して、理解を終えたら早速行動。能力行使後は暫く薄れることがないという『記憶』もとい『知識』を用いて地図の制作に取り掛かる右腕に信を以って頷き、
「ハル」
次にゴッサンが目を向けたのは、俺。
知ってた、予定通りである。そしたらば……。
「お任せあれ」
ロッタに続いて、いざ役割遂行。
「小兎刀」
片手に喚び出すは紅の短剣。そして投じるは夜空目掛けて力一杯。
果たして、空を切り裂き飛翔する小さな刃は────何物にも阻まれることなく、勢いそのまま空高くへと昇ってみせた。オーケー、然らば行こう。
《天歩》起動。隣のソラ、およびそのまた隣やはり当然の如く参戦したカナタ、および序列持ちの輪にいる我が師や小みっこ二人を含む仲間たちに見守られながら、常の四柱においては自殺行為となる真上への跳躍を決行する。
これまでならば迷路の高度上限に引っ掛かり、見えない力場に衝突、反発、叩き落とされて然りの行動だが……先行させた短剣にて、此度は無いのを確認済み。
────斯くして、
「よ、っと」
数百メートル上空。自ら投じた小兎刀をキャッチ&召喚解除すると共に、姿勢制御と並行して《タラリア・レコード》の空中歩行能力を起動。
虚空に立って、見下ろせば。
「…………………………成程、ね」
俺の視界に映ったのは、これまでの『四柱戦争』と比較すれば……ロッタの言葉通り随分と狭い、けれども馬鹿馬鹿しいまで圧倒的に広大な舞台の全貌。
頂点部分に〝城〟の瓦礫および白、緑、赤、青と色彩の異なる大きな〝拠点核〟を抱くのは、端的かつ言葉を選ばず称すのなら殺風景な『城塞』の姿。
四角を形作る四柱の迷路よろしく真っ黒な城壁は高く立派だが……守るはずの城が四つとも崩れていること、更に外周はともかく内部が真実すっからかんなこと。両者を併せて、お世辞にも格好が付いているとは言い難い様相。
重ねて常の舞台より遥かに狭いが、物がないため無駄に広くも見える。
────そして、そんな狭場を更に抱くは広大の地。
見渡す限り荒れ果てた平原が、果たして一体どれだけ続いているのやら。一応は〝端〟が見て取れて、その先は過去の四柱と同じく虚空で満たされているが……。
しかし、とにかく、広い。
目算で距離を測るなど少なくとも俺には無理なスケール感であり、それは即ち考えたくない今四柱の難易度を察せられて然りの思考材料だ。
つまり、この広さが必要になるんだろ? とまあ、そんな具合に。
「……っし」
滞りなく『記憶』は瞬時完了。空中歩行を解いて落下しつつ、高空からでなければ見果てぬであろう空間に浮遊する大地の果てを眺め続ける。
然して、落ちていく内。俺が再び地に足を着けるまでの僅かな時間。
広大な舞台は、いまだ〝なにか〟が現れる予兆を見せることのないままだった。
ざっくり、小さな四角(狭いが言うほど狭くはない)が巨大な丸(従来の四柱迷路を軽く凌駕するほどバカ広い)の中心に在る様を想像していただければ大体正解。
あとロッタさんの諸々、詳細初出まで千話とかどうなってんの。




