時に連れ立つ新境
────斯くして、暫しの刹那。
アーシェとの秘めごと以降も特筆すべき予定外などは起こらず、無事かつ目一杯に遊んで休んで寛いでを謳歌するに至った星空イベント満了も経て。
いつもながら、忙しなく迸る時間は止まることを知らず……。
遷りて、四月半ば。
「………………冷静に、こんなことやってる場合かぁ?」
「今更なにを言っている。……全く、同意ではあるが」
俺は、闘技場の上。即時生成空間を割らんばかりの歓声および熱気を慣れたフリで受け流しながら、向かい合う親友と惚けたことを言い合っていた。
お互い様、交わす言葉や表情はアレだが一応は臨戦態勢。
左腰に佩いた二本の内〝蒼〟の柄へ手を掛けている囲炉裏も、小さな〝紅〟を二振り既に両手へ提げている俺も、互いの呼吸一つでギアチェン可能。
周囲状況など思考の端に蹴飛ばして、ご機嫌な斬り合いを興じるに容易い。それは確かなまでも……────やはりというか、こと今に至っても思ってしまう。
我が陣営は、やはり正気より祭りを好むのかと。
どうしようもねぇな……と、愛に満ちた苦笑いは避けられぬままに。
四月、八月、十二月。一年に三度、四ヶ月毎に開催される『四柱戦争』の日程は、公式的には極めて単純。月頭一日の機能解放および諸々の簡易的な通達を踏まえて残すは月末の開催決行と、それだけしか用意されていない。
然らば、その間に必要な予定を段取り詰め込むのは全てプレイヤー任せ。冗談抜きでシステム任せでは百パーまともに開催などされない夢の大祭を『祭』たらしめるため、計画および運営されるスケジュールは各陣営毎に異なっている。
そりゃまあ、今までの十二回は『競い合う』形だったのだから当然のこと。最低限の連絡などは必要に際した場合に徹底するとして、どのように個々で各陣営を纏めるか……実際のところ、それまで含めて戦争だったという話。
祭りごとは準備期間が一番楽しい────とかなんとか古くから伝わる言葉があるが、まあ四柱の準備期間にも該当するといえばするのかもしれない。
内政だのなんだの俺にはマジで到底無理なアレコレ云々の苦労があるとはいえ、それはそれ年三度の開催月が果てない盛り上がりと共に在る事実が証明だ。
大変どころか死ぬような多忙に遭う為政者たち……直接の指揮者たる【剣ノ女王】や【総大将】など、四陣営それぞれの〝顔〟に限った話ではなく、天頂を支える無数も含めて、好き好み忙に溺れる者たちとて大勢いるのだから。
東で言えば、ロッタとかな。
────さておき、そんなこんなで陣営毎にスケジュールも色合いも全く異なる『四柱戦争』準備期間だが、第十三回目にして新生第一回目となる此度。
言わずもがな何もかもが変わるということで、現実世界の諸々ほどではないが俺たち仮想世界側も盛大な卓袱台返しには遭っている。具体的には大々的なイベントの方向性転換に際する参戦人員選定基準の変動、それに尽きるだろう。
PvPからPvE、対立から協力、そして参加枠の四陣営統合。
端的に言えば東西南北それぞれで好き勝手な面子選定が不可能になったわけで、それは四陣営……不戦を貫いていた西を除いた三陣営の内、唯一『殴り合い』とかいう直球の力比べを催していたイスティアも当然のこと例外ではない。
つまるところ、重ねて端的に言えば、とりあえず今回限り。
のんびり協議をしている時間も惜しいということでの決。とりあえず今回はという旨を愛すべき陣営所属プレイヤーたちに納得していただき、過去の四柱やら大規模レイドやらに参戦経験のある古兵からの徴兵……という形で纏まった。
そう、纏まったのだ。今回は、恒例のトーナメント無し。
そう、纏まったはずなのに────
「……ま、いいや。戦るか」
「……あぁ、まあ、そうだな」
改めまして、闘技場の上。即時生成空間を割らんばかりの歓声および熱気を慣れたフリで受け流しながら、向かい合うは【星架】と【無双】の一対一。
常の都合良い場を……即ちイスティア恒例の四柱選抜戦の舞台を借り、無限に等しい需要へ応える形で披露していたデモンストレーションよろしく。
一体全体、俺たちが何をやらされているのか……まあ、言わずもがな。身も蓋もないことを控えず言葉にしてしまえば、不満を抑えるための避け得ぬ見世────
「んじゃ、掛かってこいよ」
「それじゃ、掛かってこい」
…………………………。
そう、まあ、とにかく観客を満足させる見世物として。
ただただ四月が盛り上がりの無い準備期間となってしまうことを避けるための、臨時イベントめいた『序列持ちの公開じゃれあい』────
三日に亘って企画された娯楽提供、その一発目として。
主にゴッサンから「とりあえず、お前ら二人が殴り合えば皆が喜ぶ。頼んだわ」と実に雑なノリで託された開幕カードを、粛々と演じればヨシ……と、
「……あ?」
「……うん?」
そのつもりだったのだが、急転直下もとい急転着火。
俺が囲炉裏を、囲炉裏が俺を。互いに余裕綽々めいてチョイチョイと指で『来いよ』と煽れば、鏡写しとなった自分の行動は棚に上げて男子の頭に火が灯る。
いや、なに、なんてぇの?
俺はアレよ。あくまで前回の四柱選抜トーナメントで畏れながらも優勝者に輝いてしまった身として? 場に即した優劣を順守する形で?
『来いよ』って、やらしてもらったんだけどさ?
囲炉裏はあれアイツ完全に俺のこと事実上格下まだまだ伸び代の有る可愛い後輩(笑)として舐め切った態度を曝け出した形の純粋なる煽り行為────
「上等だ、先輩……ッ!!!」
「上等だ、後輩……ッ!!!」
然して、斯くして、男子二人。雑なノリとゴッサンを指差せないのは常のこと。
歓声も、熱も、意識半分無意識半分で頭の内から即排除。俺たちは世界の誰より負けられない相手を力一杯ぶちのめすべく、闘技場の中心で刃を打ち鳴らした。
はい。ここから、第四節、ほぼ全て、新四柱編になるそうです。
戦闘描写、どんだけ、あるのか、わかりません。
たすけて。




